015-カッコつけて水道の蛇口をひねる
知人が講師をしていたセミナーでの出来事です。
質疑応答タイムが始まるやいなや「先生がカッコいい秘訣は何ですか?」などという、内容と全く関係ない質問が飛び出しました。
すると講師は、真顔でこう答えたんです。
「郷ひろみです。何をやるにしても、郷ひろみになりきることです」
後で詳しく講師本人に聞いてみました。それによると……
ある朝、洗面台で蛇口をひねる時、「郷ひろみならどうやるのかなぁ」を鏡の前で研究したらしいんです。
蛇口を振り返るように不意に見つめ、振り上げた手をゆっくりとせんへ。体は若干斜めに構え、左足をスッと前へ出す。水が蛇口から出た瞬間に肩からグリンッと回して、キメ顔を鏡で確認したあと、少し悲しい表情を浮かべながらゆっくりと顔を洗い始める……。
いや、本物の郷ひろみさんがそんな動きをしてるかは謎ですけどね。でも自分はその、さりげない日常のことをドラマチックに演出する話を聞いて、自分も似たようなことをしてみたいと思いました。
考えてみれば、自分たちの日常って無意識で事務的な動きばかりしています。歯を磨く、靴を履く、ドアを開ける、歩く、走る、止まる、落ちたペンを拾う……。どれもただの「自動作業」になっていて、面白みもへったくれもありません。
そこで自分も、退屈な日常をエンタメに変える「演出ごっこ」を始めてみました。これが意外と、一人でやる分には楽しいんです。
例えば、伝説のバーテンダーみたいに一滴の無駄もなくエレガントにコップに水を注ぐ。ジェームズ・ボンド気取りで、背後を警戒しながら鋭くドアノブを回す。映画マトリックスなみのスローモーションでコーヒーカップを持ち上げる。仕上げは一流の指揮者のような流麗な指さばきで、エンターキーを「ッターン!」と叩く。
そのたびに……カッケェ〜!っと自画自賛。
バカバカしいと思うかもしれませんが、実はこれ、理にかなっているらしいです。
体の動きをデザインすると、内面から自信やエネルギーが湧いてくるという不思議な自己暗示の効果があるのだとか。
誰に見せるわけでもない、自分だけの自己満足な美学。代わり映えしない日々の中に、自分という「トップスター」を登場させる。それだけで、ただの洗面所がドラマの舞台に変わってしまいます。
次に顔を洗うときは、鏡に向かって不敵な笑みを浮かべてみませんか。「世界で一番かっこよくタオルで手を拭く自分」を演じるだけで、何となくいい予感が。……予感なだけではありますが。
