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【第4回】メディアのパワーシフトとAI

東京大学大学院情報学環を拠点とする「プラットフォーム研究会」は、国内外のさまざまなプラットフォーマーの経営、歴史、思想、創業者群像、政治との関係、生成AI戦略などについて、2025年5月まで24回の会合で議論を重ねてきました。

本noteでは、西村陽一・客員教授による「情報社会論」講義(2024年度)の一部を再録するとともに、研究会での議論内容を特集記事として順次紹介していきます。

初回講義(2024年4月)の再録第4回配信は、時代の変化に伴うメディアのパワーシフトがジャーナリズムにどのような影響を与えたのかについて考えた後、講義全体のイントロダクションとして、AIとジャーナリズム、AIと国際政治について考えます。


(▶)AIモデレーターによる要約を聞く・7:44min

本記事をもとに、NotebookLM(Google)を使って生成したポッドキャストです。
読み上げ内容には複数のミスが含まれます。あくまで理解の補助としてお使いください。

 メディアのパワーシフト

“Trust me” から“Show me”へ

 
ここまでに説明してきた変化は、私自身が約40年間身を置いていた伝統メディアのジャーナリストたちの世界にどんな変化を突き付けたでしょうか。

 かつて、ジャーナリストである「私」は「trust me」「私を信じてくれ」と読者に呼びかけて記事を発表していました。デジタル時代は、読者や視聴者である「私」が逆にメディアに向かって「show me」「私に見せてみろ」と呼びかける時代となりました。これがデジタル時代に起きたメディアの世界における「パワーシフト」です。
 
新聞が紙だけだったとき、記事を構成していたのはざっと六つしかありませんでした。
 
ニュースの本記、解説ないしはフィーチャー記事、写真、見出し、図表やインフォグラフィックス、読者の関心を引く発言の一節の抽出や要約がそれにあたります。


 デジタルの世界は違います。ここに出典を示しましたが、この本によると、デジタル時代、その数は50にのぼります。動画、フォトギャラリー、リンク、ポッドキャスト、インタビュー全文、データベース、アーカイブ、Q&A、シェアボタン、ライブブログなどなどですが、この原書が米国で出版されたのは2010年ですので、いまなら優に100を超えているでしょう。
 
とくにかつてテキスト中心だったメディアは、音声と動画に特化したメディアに生まれ変わったものが次々と出ています。アジアではインドネシアやフィリピンのメディアがそうです。
 
先にデジタル革命という第1の波を紹介しましたが、テキストから音声と動画へのシフトをデジタル革命の第2段階と呼ぶ人もいます。
 
伝統メディアにとっては、単に「やっています」というだけでは淘汰されるでしょう。本格的なシフト、つまり技術的なシフトにはとどまらない編集局の文化的なシフトが必要となっています。
 
紙からデジタルへの移行期が続き、各国でデジタル時代の斬新なアイデアや革新的な技術、新しいビジネスモデルが次々と生み出されているなか、動画やポッドキャスト、VR・AR・MRも含めたニュース・コンテンツ全体に接しているユーザー数は加速度的に増えています。

 伝統メディアとTikTok

さきほど触れたように、TikTokは中国とのつながりから、米国で政治問題となっています。しかし、そのTikTokでさえ、CNN、NBC、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、BBCなどが配信に利用し始めました。世界のメディアのリーダー約300人に対する英ロイター・ジャーナリズム研究所の調査によれば、今年(2024年)、配信やエンゲージメントのうえで対策に力を入れたいプラットフォームとしてTikTokが圧倒的に1位となっていました。


  
最近TikTokに関連してこれほどの皮肉はないと思ったニュースがありました。
 
高齢やイスラエル支持を理由に、若者の支持率が低下していたバイデン大統領(当時)がなんとTikTokに公式アカウントを開き、選挙運動に使い始めたことです。米政府は連邦政府職員の公用端末での使用を禁じているのですが、一方で、米国に1億5千万人超の利用者がいるTikTokは米国の18〜29歳のおよそ3分1が定期的にこれでニュースを入手しているという調査があります。ついには大統領までが選挙にこれを利用し始めたということです。
(注:トランプ大統領も2024年大統領選でTikTokを活用した)
 


AIとジャーナリズムのイントロとして

ジャーナリズムとテクノロジー

 伝統メディアにとって、読者データとともに大切なのが技術です。アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏はワシントン・ポストを買収しましたが、当時のポストのCEOは「我々は卓越したジャーナリズム企業でありたいが、同時に、もう一つの軸として、卓越したテクノロジー企業でありたい」と語っていました。ジャーナリズムにおける技術がいかに重要かということです。
 
これまでの技術進化の波とは違って、AIを手にした巨大プラットフォーマーは、主要な地政学的アクターとしての国家の地位さえ脅かすようになっており、グローバルパワーの構造とバランスに劇的な変化をもたらすでしょう。もちろん、ジャーナリズムの世界にも、AIは驚異的な成長と機会、それと同時に巨大な混乱とリスクをもたらすでしょう。
 
巨大プラットフォーマーとAI、AIとジャーナリズムについては別途、取り上げますので、本日はイントロ的に簡単にお話します。

効率化と透明性

AIを利用すればメディアの業務をはるかに効率化できるのは間違いありません。デジタル化に伴い、記者や編集者の負担は増える一方だったからです。
 
AIは今後数年で、データをもとにした基本的な調査、ニュース素材を複数のフォーマットに合わせて変換する作業、記事内容や膨大な取材資料の要約、見出しの作成、ごく基本的なファクトチェックや校閲、ソーシャルメディア投稿文の作成、アーカイブの利用、営業や販売の定型業務などを根本的に変えるでしょう。
 
では、AIはジャーナリストに取って代わるでしょうか。
 
答えはノーです。AIはいまも将来も、読者やユーザーには見えない「バックエンド」での業務は代替するにせよ、取材において、記者に取って代わることは考えられません
 
さらに、記者がAIを活用すればするほど、道義的な意味での「透明性」を保証すること求められてきます。読者に向かって、AIをどのような考えで、どのような分野で活用しているか、そのガイドラインは何か、そうしたことを積極的に説明する姿勢が必要になります。
 

「ニュース砂漠」に対抗するために

一方で、こんなことも考えられます。
 
日本ではまだ、地域から地方紙という名の地域メディアがまるごと姿を消す「ニュース砂漠」という現象は起きていませんが、米国では、それが当たり前の現象となっています。先ほど、「クレイグスリスト」の衝撃についてお話しましたが、広告収入の激減、購読者数の落ち込み、記者の解雇、買収などによって、文字通り、新聞がまるごと消えるということです。

この事態を受けて、米国の大手通信社は、地方紙が消滅した地域のさまざまな公共機関の記録―それは市議会での審議も、法廷のやりとりも含めてですが―それらをすべてAIで記録し、分析すれば、地方メディアが消滅した後の地方の政治をウォッチできるのではないかと考えています。

また、これはシカゴの例ですが、ある団体が、地域住民に行政に関心を持ってもらうために、地元の議会の公聴会や審議会の議論を傍聴してもらい、彼らがそれをライブでツイートしたりブログで内容を公表したりするという「ドキュメンターズ」というプロジェクトを始めました。

 これは、メディアと住民が力を合わせて、情報の空白を埋め、政治への関心を高めていこうという取り組みです。日本でも、米国ほどではないにせよ、全国紙、地方紙、コミュニティペーパーを問わず、地域取材網の縮小、取材拠点の閉鎖が続いています。私自身も新聞社の編集部門の責任者をしていたころ、長い伝統を持つ地域取材網の一部統合に着手せざるをえませんでした。
 
米国のような現象がいずれ日本でも大きな課題になるのは時間の問題だと私は考えています。将来、こうした米国での実践を日本でも取り入れるにあたって、AIと人の手をうまく組み合わせれば、地域の行政情報の空白を埋めることにつながるのではないかなと思っています。

AIと国際政治のイントロとして

  地政学とプラットフォーマー、AIリスクについては回を改めて触れますので、本日のイントロでは米中対立とAIについて少しお話しします。

キッシンジャーが私に聞いた質問

まずは昨年(2023年)11月に亡くなったヘンリー・キッシンジャーの個人的な思い出から入ります。

 彼は、毛沢東時代からずっと中国の最高指導者との接触を許された、ただ一人のアメリカ人でした。ニクソン以降の歴代のアメリカ大統領も、外交政策について、キッシンジャーのアドバイスを受けていました。バイデン大統領(当時)がキッシンジャーと初めて会ったのは、バイデン氏がまだ若手の上院議員だったころです。プーチン大統領も、国際的には無名だった1991年―これはソ連崩壊の年ですが―当時のレニングラード市当局で働いていたころにキッシンジャーと会っています。
 
私がワシントン勤務を終えて帰国した後の2000年代後半のことです。たまたま来日していたキッシンジャー氏とのオフレコの食事会に二度ほど招かれたことがありました。場所は都内のホテルで、呼ばれたのは中国専門の大学教授、NHKキャスター、私の3人でした。
 
だいぶ時間もたっていますし、ご本人も亡くなったのでお話しますが、その場で彼が私に聞いた質問が二つありました。
 
ひとつは「日本が核武装する可能性はあるか」。二つ目が「日本の若い世代の政治意識はどうなっているのか」でした。
 
キッシンジャーが日本の核武装について尋ねたのは、意外ではありませんでした。
 
彼が道を開いた米中国交正常化は、世界を変える出来事でしたが、1971年の周恩来との会談で、日本の「軍国主義」回帰に強い警戒感を示したこと、その動きを日米安保条約に基づく在日米軍の駐留が抑えているという「瓶のふた論」を強調したこと、日本はいずれ軍事大国として台頭するだろうとの見方を示していたこと、これらのことは歴史的な事実だからです。
 
英エコノミスト誌が昨年(2023年)、キッシンジャーに長いインタビューをしているのですが、ここでも彼は「日本は5年以内に核保有国になるだろう」と語っていました。私自身はこうした見方をとらないし、現在の日本政府にもそのような考えはない。しかし、彼は私たちとの食事会の席も含め、日本に対しては一貫して警戒的だったような気がします。


米ソ核軍縮と米中AI協議

 
キッシンジャーの訃報を聞いたとき、核にまつわる彼との会話を思い出したのは、その最後の論文に米ソの「核軍縮協議」と米中の「AI協議」の関係が触れられていたからです。

 

 100歳になってなお、「人工知能と人間の関係」について、大きな問題提起を続けていたのは驚くべきことです。論文で次のように指摘しているのは、こんにちの米中関係に大きく関係することで、とても興味深いくだりです。

AIの安全性をめぐっては、欧州連合(EU)、アメリカ政府、G7などが法規制やガイドラインについて議論を続けています。 冷戦時代の米ソが、そして冷戦後の一時期の米ロが、核軍縮・軍備管理を真剣に協議し、いくつかの歴史的な条約をまとめてきたように、米中の二大パワーが人口知能についての協議を本格化させることが求められている、というのが、キッシンジャーの遺言でした。 

さて、メディアのパワーシフトやAI革命が進行するなかで、ジャーナリズムが大切にしなければならない基本とは何でしょうか?

(第5回配信に続く) 


第1回配信 初回講義その1 三つの革命と三つのトンネル
第2回配信 初回講義その2 巨大プラットフォーマーの破壊力
第3回配信 初回講義その3 変革の移り変わりをとらえるためのキーワード
第4回配信 初回講義その4 メディアのパワーシフトとAI 
第5回配信 初回講義その5 未来につなげるための変換作業
第6回配信 初回講義その6 ジャーナリズムの活性化のために
第7回配信 初回講義の「Q&A」、「講義を聴いて今思うこと」

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