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【第8回】主戦場はモバイルからAIへ

東京大学大学院情報学環を拠点とする「プラットフォーム研究会」は、国内外のさまざまなプラットフォーマーの経営、歴史、思想、創業者群像、政治との関係、生成AI戦略などについて、2025年6月まで25回の会合で議論を重ねてきました。

本noteでは、西村陽一・東京大学大学院客員教授による「情報社会論」講義(情報学環教育部、2024年度)の一部を再録するとともに、研究会での議論内容を特集記事として順次紹介していきます。
 
この第8回配信からは、2回目の講義「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉について」(2024年4月)の再録を分割してお届けします。

まずは、「ビッグテック」が「ビッグAI」へと変容しつつあり、プラットフォームビジネスの主戦場がモバイルからAIへと変わっていることを取り上げます。


(▶)AIモデレーターによる要約を聞く・6:57min

本記事をもとに、NotebookLM(Google)を使って生成したポッドキャストです。
読み上げ内容には複数のミスが含まれます。あくまで理解の補助としてご利用ください。

はじめに


 
初回講義は、イントロダクションとして、巨大プラットフォーマーとメディアの潮流についてお話ししました(第1回配信~第7回配信)。2回目の本日は、プラットフォームビジネスについてお話しします。
 
まずは二つの文章を紹介します。
 
いずれもテクノロジー関連のオンラインメディアに掲載された記事です。
 
9年前(2015年)と、ちょっと古いのですが、ここに書かれていることは、プラットフォームビジネスの基本を簡潔に描いていると思います。


 ウーバーは車を持たないし、フェイスブックはコンテンツを作らない


「ウーバーは世界最大のタクシー会社なのに車がない。フェイスブックは世界で最も人気のあるメディアのオーナーなのに、コンテンツはつくらない。アリババは最も時価総額の大きい(当時)小売業者なのに在庫というものがない。エアビーアンドビーは世界最大の宿泊サービスを手がけているのに、不動産を持っていない」


「何か面白いことが起きている」
 
「ニューヨーク・タイムズは記事を書き、ファクトチェックをし、新聞用紙を購入し、印刷して新聞を配達し、そうすることで広告費を稼いでいる」
 
「フェイスブックは私たちのためにプラットフォームを提供してくれるので、私たちはプラットフォーム上で自分のコンテンツを書くことができる」
 
記事を掲載した「テッククランチ」という媒体は、私が代表を務めていたハフィントンポストと一時、同じメディアグループの媒体でした。
 
これが書かれた時点で、すでに毎日100万人が世界60か国300都市のどこかでウーバーを使っていました。このころ、エアビーアンドビーは64万件の宿泊施設を191か国で提供していました。
 
彼らが持っているのはアプリとコードだけです。有形の資産もインフラもありません。無形資産の身軽さが短期間に急成長することができた要因のひとつです。

見知らぬ人に財産と命を託す


 
次の記事です。()の中は会社の固有名詞です。


 

「5年前ならこうした会社の多くとこのようなかわりを持つことは、とてもばかげたことだと思われていただろう」
 
「つまり、私たちは見知らぬ人の車に飛び乗り(リフト、サイドカー、ウーバー)、自宅の空き部屋に見知らぬ人たちを泊まらせ(エアビーアンドビー)、見知らぬ人の家に犬を預け(ドッグヴァケイ、ローバー)、見知らぬ人の台所で食事をとる(フィーストリー)」
 


 「私たちは見知らぬ人に自分の車を(リレーライズ、ゲットアラウンド)、船を(ボートバウンド)、自宅を(ホームアウェイ)、電動ツール(ズィロック)を貸し出す」
 
「私たちは赤の他人に、最も貴重な財産、個人的な体験、そして、ほかならぬ自分の命を託している。私たちはその過程で、インターネットによって実現した新しい親密さの時代に入っているのである」


 
こちらは「ワイアード」という雑誌の記事です。
 
日本版も出ていますので、皆さんも読んだことがあるかもしれません。初代編集長がケヴィン・ケリー。彼については、初回講義「イントロダクション」で、「すべてをデジタル化するミラーワールドの世界」というコンセプトを紹介するなかで触れましたね(:第3回配信)。

何が歴史的に珍しいのか


 
フェイスブックは自分たちのことをメディアとは言っていませんでしたが、莫大な広告収入額をみれば、間違いなく世界最大級のメディア企業といえるでしょう。しかし、確かにオリジナルのコンテンツはありません。
 
ウーバーも確かに車を一台も持っていません。にもかかわらず、というか、それゆえに、というべきでしょうか、旧来概念の経営資源を持たないまま、主な既存ビジネス業界をいとも簡単に侵食してきたわけです。
 

多くの産業分野で単一のビジネスモデルが浸透

 
巨大プラットフォーマーは、経済のあらゆる分野に変容をもたらし、既存のビジネスを破壊してきました。
 
後発のスタートアップ企業が、買収に次ぐ買収を重ねて巨大企業になり、あれよあれよという間に世界の市場で優位な地位を築き、その後も独占・寡占の地位を保ち続けました。
 
これほどたくさんの産業分野で、単一の新しいビジネスモデルが浸透したのも、国境を越えてこれほど多くの人たちが数年前には思ってもみなかったやり方で消費行動を始め、それがあっという間に世界中に広がったのも、歴史的にとても珍しい現象といえます。
 

トップ5の時価総額は日本全体の1.5倍

 
異例ともいえる成長の規模と速さは株式の時価総額を見てもわかります。2020年5月、GAFAM5社の時価総額の合計が日本の東証1部約2170社全部の合計を上回ったというニュースが、大きな衝撃を呼びました。


前回講義「イントロダクション」で紹介したように、GAFAMの時価総額合計は、昨年(2023年)9月時点で約8兆5000億ドル。トヨタを筆頭とする日本の東証プライム上位5社の合計額の12倍以上、わずか5社で東証全体の1.5倍です。
 
ここにいる皆さんにとってはもはや歴史なのですが、日本がバブル真っただ中だった1989年、これはベルリンの壁崩壊の年でもありますが、当時の世界の時価総額ランキング上位20社のうち実に14社までが日本企業でした。



その後、差が広がり、最近までトップ50に名を連ねていたのはトヨタ自動車1社のみ、最近のデータを見ると上位50社に日本企業の名前はありませんでした。
 
時価総額がすべてではありません。
 
しかし、この分野における日本の転落は、この約30年の日本経済の縮小均衡サイクルとそのまま重なっています。
 
1994年、世界における日本のGDPシェアは17.8%でした。いまは5%、2030年は3%まで落ち込むだろうと予測されています。(:24年度には4%を割った)




ビッグテックからビッグAIへ

 

戦場はモバイルからAIへ


 
巨大なテクノロジー企業、ビッグテックと言われるプラットフォーマーはこのAI時代にどんな存在となりつつあるのでしょうか。
 
「ビッグテック」は「ビッグAI」へと変貌しつつあります。
 
技術が飛躍的に発展するとテック企業の飛躍的な成長をもたらします。たとえば、皆さんが使っているiPhoneをつくったアップル。2007年の発売からわずか数年後には世界の携帯メーカーの営業利益の半分以上をアップルが占めるまでになりました。
 
ただ、スマホの市場はすでに成熟しています。巨大プラットフォーマーたちの主戦場はモバイルではなくAIとなりました
 

四つの層で見るAIビジネス

 
主戦場となったAIビジネスを俯瞰してみます。
 
簡単にいうと、四つのレイヤー(層)があります。これは英エコノミスト誌が紹介した階層です。


クラウド御三家がリード

 
この四つのレイヤーで作られる価値と富は、早くも一握りの大企業に集中しつつあります。
 
巨大プラットフォーマーは、データの世界、SNSの世界、デジタル広告の世界を制覇しました。同じ様に、AIの世界でも、勝者として市場を総取りしようとしており、その影響力はますます高まる可能性があります。
 
四つのレイヤーのなかの三つ目がインフラとしてのクラウドです。
 
この分野はすでに、アマゾンのAWS(Amazon Web Services)、マイクロソフトのMicrosoft Azure、グーグルのGoogle Cloud Platformの三強が三分の二を支配しています。


アマゾンの稼ぎ頭でもあるAWSはずっとシャア1位です。これをマイクロソフトが急激に追い上げ、いま(2024年春時点)、アマゾン33%、マイクロソフト21%、以下、グーグル、アリババと続きます。
 
日本のいわゆる「デジタル赤字」が膨らんでいる理由の一つがまさにここにあります。
 
AIの世界では、マイクロソフトがChatGPTのOpenAIと提携しています。「Windows 11」にAIを組み込んだのが、対話型の「Windows Copilot」です。
 
マイクロソフト、グーグルの親会社アルファベット、アマゾンのビッグ3の株の時価総額の合計は、2020年秋にAIブームが始まって以来、(2024年春時点で)25兆ドル増えています。AIの学習やサービスの運営にクラウドは欠かせない存在となっており、AI市場では、GAFAMのうちの「クラウド御三家」が長期的な勝者となるだろうと見られています。
 
 

しかも、彼らは、世界をリードするAIシステムの開発に欠かせない膨大なデータ、非常に優れた研究者の集団、広大な敷地と電力を必要とする巨大データセンター、優秀な人材のリクルートシステム、投資や研究開発に回せる豊富な資金、このすべてを握っています。
 
つい先日(2024年4月)報道されたばかりですが、さきごろアメリカを訪問した岸田首相(当時)が会談した相手が、マイクロソフトのブラッド・スミス社長でした。
 

会談のテーマは、マイクロソフトがこれから2年間に4400億円を投じて、日本のデータセンターに最先端の最先端の画像処理半導体(GPU)を組み込むという計画でした。
 
巨大プラットフォーマーは、牙城のクラウドだけにとどまらず、半導体をはじめとするハードウェア、ソフトウェアのアプリにいたる四つの層をコントロールしようとしています。独自の半導体も設計し、AIモデルとアプリの両方の分野に投資をしています。
 
OpenAIはマイクロソフトの支援を受けていると言いましたが、OpenAIのライバル、アンスロピック(Anthropic)は、グーグルとアマゾンの支援を受けています。
 
マイクロソフトはフランスのミストラル(Mistral)にも投資をし、欧州の企業との提携にも動いています。これを見るとマイクロソフトもOpenAI一点張りを避け、提携先を多様化していることがわかります。また、メタ(旧フェイスブック)もAIに資本を投下しています。
 

強引な囲い込みと後手に回る規制

 
本日はこれから巨大プラットフォーマーの急成長のメカニズムの基本についてお話します。
 
巨大化の背景には、潜在的なライバルを次々と買収して傘下に収める強引な買収戦略もあるのですが、AIの世界でも、彼らは新興勢力の囲い込みを進めていますし、これは加速していくでしょう。
 
AIのリスクは別の回のテーマになりますが、「ビッグテック」が「ビッグAI」として世界の市場で勝ち残るとなると、おのずから、自らの手を縛る規制は後手に回るでしょう。
 
では、政府がやればいいのか。初回講義「イントロダクション」で、テクノロジーと民主主義の競争は、スピードの点だけに目を向ければ、テクノロジーが勝つに決まっているという話をしました。現実に、技術の進歩のあまりの速さを前に、国家権力による規制が追いつかない事態が現れつつあります。
 

データ不足と著作権問題

 
性能の高い生成AIを開発するために必要なのは膨大なデータ群です。
 
最も貴重なデータとは何でしょうか。
 
そのひとつが、専門家、学者、プロの作家やジャーナリストなどが綿密なチェックや丁寧な編集過程を経てつくった書籍や文章などです。
 
“Scale is all you need”(データは量がすべて)。これはAIの開発者の合言葉です。同時に、“Data will run out”(データはいずれ尽きてしまう)という予言もあります。
 
このデータ不足はとても深刻な問題です。データはAI開発に決定的に重要なのに、それが足りないという深刻な問題が早くも表面化しているわけです。


 
もうひとつの問題は、作家、クリエイター、ジャーナリストらがつくるコンテンツが、知財ではなくAI開発の単なるデータとして、著作権が守られることなく違法な状態でどんどん吸い込まれていく恐れがあるということです。
 
こうした規制や著作権をめぐる問題は、回を改めて詳しく話しますが、そこに入る前に、巨大プラットフォーマーのパワーの本質はどこにあるのか、これから考えていきます。
(第9回配信に続く)

初回講義「イントロダクション~プラットフォーマーとメディアを取り巻く潮流について」
第1回配信 三つの革命と三つのトンネル
第2回配信 巨大プラットフォーマーの破壊力
第3回配信 変革の移り変わりをとらえるためのキーワード
第4回配信 メディアのパワーシフトとAI
第5回配信 未来につなげるための変換作業
第6回配信 ジャーナリズムの活性化のために
第7回配信 「Q&A」「講義を聴いて今思うこと」
2回目の講義「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉について」

第8回配信  主戦場はモバイルからAIへ
 
第9回配信  オンラインとオフラインの二刀流
第10回配信  ネットワークの魔法とは?
第11回配信  ツーサイド効果と成長の壁
第12回配信  グーグルの巨大化と監視資本主義
第13回配信  パイプラインからプラットフォームへ
第14回配信 「Q&A」



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