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【第9回】オンラインとオフラインの二刀流

東京大学大学院情報学環を拠点とする「プラットフォーム研究会」は、国内外のさまざまなプラットフォーマーの経営、歴史、思想、創業者群像、政治との関係、生成AI戦略などについて、2025年6月まで25回の会合で議論を重ねてきました。

本noteでは、西村陽一・東京大学大学院客員教授による「情報社会論」講義(情報学環教育部、2024年度)の一部を再録するとともに、研究会での議論内容を特集記事として順次紹介していきます。
 
第8回配信から、2回目の講義「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉について」(2024年4月)の再録を分割してお届けしています。

この第9回配信では、巨大プラットフォーマーの強みが、「オンラインとオフライン」「デジタル世界と物理的世界」という二つの空間のデータを結びつけ、融合させていることにあること、しかし、オンラインの世界がオフラインの世界に牙をむく危険な瞬間があることについて、説明しています。
 


巨大プラットフォーマーのパワーの本質

 
AIビジネスで先頭を走れるだけの資金力と技術力と政治力を持つに至った巨大プラットフォーマーですが、ここから先はAI登場の前からあったそのパワーの本質を簡単にまとめてみます。
 
重要な特性は二つあります。
 

デジタル空間でのパワー
 


第一の特性。それは、これらの巨大プラットフォーマー、ビッグ・テックとも言いますが、彼らが活動し、パワーを行使している広大なデジタル空間とは、国家が完全には管理していない、あるいは管理したくともできない空間になっているということです。
 
しかも、デジタル空間は国際政治のなかで新たに地政学的な意味を帯びてきています。つまり、民間企業である巨大プラットフォーマーが地政学的な影響力を及ぼすようになったということです。
 
なぜ、境界のないはずのデジタル空間が地政学的な意味を持つようになったのか、これについては回を改めて詳しく説明します。


 
多くの人と企業と政府が、消費を含む日常の生活、事業、行政をこの空間で行い、それに伴って巨大プラットフォーマーの影響力がますます大きくなっています。
 
ビジネスにとっては、アマゾンならクラウド、マーケットプレイス、アップルならアプリストア、フェイスブックなら広告ターゲティング、グーグルなら検索エンジンや広告ターゲティング、クラウドが、多くの事業の成長にとって不可欠のツールとなっています。
 
デジタルプラットフォーム上での私たちの行動は、オンライン購入でも検索でも交流でも、巨大プラットフォーマーによって形づくられています。
 
デジタル空間において、人々や企業がどのように仕事をし、どのような時間を過ごすか、最終的には何を考えるかにおいてさえ、彼らは影響を及ぼしています。
 

二刀流が融合した世界

 
第二の特性。それは、これらの企業が、デジタルとリアルの二つの世界にまたがって、デジタルの製品・サービスと現実世界の製品・サービスとをともに提供していることです。
 
オンラインとオフライン、デジタル世界と物理的世界。この二つの空間のデータを結びつけ、融合させることによって生まれるさまざまな製品やサービスを、彼らは提供しています。まさに大谷翔平さんのような破壊力のある二刀流の高度な融合といえます。
 
巨大プラットフォーマーは、デジタル空間での製品・サービス・データ・情報の流れと、それらの複雑な組み合わせを押さえていますが、その力が物理的な空間にも及んでいます。



伝統産業がこれから生き残るかどうか。それは5GやAI、大規模なIoTの展開などがもたらす好機をうまく生かせるかどうかにかかっているところが大きいと思いますが、巨大プラットフォーマーは、すでにここでも優位なポジションに座っています。
 
さきほどのクラウドサービスのようなインフラ(:第8回配信)がまさにそうで、たとえば自動車の製造ラインも、都市づくりも、物流もクラウドに依存することで成り立っています。
 
グーグルの親会社アルファベットは、世界でもっとも広く利用されている検索エンジンとアンドロイドを所有しているだけでなく、ヘルスケア、医薬品、自動運転システムの開発に取り組んでいます。アマゾンの巨大なEコマースと物流ネットワークは、何百万もの人々に消費財を提供しています。
 

国家安全保障の世界でも


 
巨大プラットフォーマーは、これまで政府や防衛産業が担ってきた国家安全保障というリアルの世界にとても深く関わっています


2020年にロシアのハッカーが米政府機関と民間企業に侵入した際、それを発見して排除したのは、国家安全保障局やサイバー軍ではなく、マイクロソフトでした。次回の講義でお話しますが、ウクライナ戦争でもマイクロソフトのサイバー防衛力は極めて大きな役割を果たしています。
 
もちろん、これまでも国家の安全保障に深く関わった超大企業はありました。冷戦時代のロッキード・コーポレーション(現ロッキード・マーティン)がその代表です。
 

Air force reserve commandより

彼らは米軍向けに戦闘機やミサイルなどを製造しましたが、空軍を運営したり直接領空を警備したりしたわけではありません。
 
巨大プラットフォーマーは、リアルな安全保障の世界に直結するデジタル世界を取り締まっているといっても言い過ぎではないでしょう。その業務をこなすだけの高度のセキュリティ上の資格を持ち、分野によっては、軍当局と一体になって行動しています。それがはっきりした形で現れたのがウクライナ戦争でした。これは第3回講義のテーマとなります。

 

オンラインがオフラインに牙を剥くとき


 
オンラインの世界とオフラインの世界を融合した二刀流ビジネスが彼らの強みです。しかし、オンラインの世界がオフラインの世界に牙をむくときがあります。ソーシャルプラットフォーム上でのメッセージが、オフラインの世界での暴力を誘発する場合です。
 

米連邦議会襲撃事件

 
皆さんは2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件を覚えていると思います。


Voxより

2020年の大統領選でトランプ氏はバイデン氏の勝利を認めませんでした。「選挙不正があった」「選挙が盗まれた」と訴えて訴訟を起こしましたが失敗、そのあげくに、ペンス副大統領(当時)に対して、バイデン勝利の最終確定を阻止するよう迫りました。
 
ペンス氏は受け入れませんでしたが、こうした言動がトランプの勝利を疑わない支持者たちを刺激しました。暴徒化した彼らは議会に乱入し、死傷者を出す事態になりました。
 
私は7年間のワシントン勤務の間、外交・安全保障を中心とする公聴会の取材で連邦議会に通い、上下両院議員の会見やブリーフィングにも出ました。思い出深い議会の建物が攻撃され、占拠された映像に「これがあのワシントンなのか」と衝撃を覚えました。まさに、民主主義への攻撃でした。


当時のツイッターは、トランプ氏のアカウントを12時間停止し、解除後も、トランプ氏が過激なツイートを投稿し続けたため、アカウントを永久に凍結し、ツイートも削除しました。
 
当時のツイッター社は、イーロン・マスク氏が買収する前です。同社は選挙戦中からトランプ氏のツイートに警告してきましたが、「大統領の声明は様々なオーディエンスを刺激し、暴力行為を扇動する恐れがある」と判断しました。


当時のCEOのジャック・ドーシー氏はもともと投稿の削除などには慎重な姿勢でしたが、襲撃事件に「オンラインでの演説がオフラインでの被害を招いた」と述べ、アカウント停止を決断しました。彼は「最善の情報に基づいた判断だった」としながらも「これは正しかったのか?」とも自問しており、プラットフォーム経営者としての苦悩をのぞかせていました。



当時のツイッターは極端な陰謀論を主張するQアノンのアカウントも停止しましたが、一連のアカウント停止措置は、米国内で「表現の自由」をめぐる論争を巻き起こしました。一方で、トランプ氏の言動に危機感を持つ欧州の政治家たちからは「プラットフォーマーの判断に委ねるのではなく、法によって規制すべきだ」との立場からツイッター批判が寄せられました。こうした点については、プラットフォーマーと民主主義の項目で詳しくお話します。
 

オンラインとオフラインの負の循環

 
日本でもそうですが、ネット上にはとても多くの誹謗中傷が飛び交っています。ワンクリックでその人の過去や住所などの個人情報が罵詈雑言とともに爆発的に拡散し、その結果、犠牲者を出すといった社会問題になっています。
 
内容が過激になり、炎上の拡大と長期化が起きると、誹謗中傷を浴びた人たちがオンライン空間からの退場を強いられる事態が起こります。
 
オンライン上の嫌がらせに堪えかね、傷つき、オフラインに逃げる人が増える、そして、それを見た人たちが自分の考えを表明することに委縮しがちになるということは、インターネットにみんなが平等にアクセスできる機会が失われるということを意味しています。結果的に、表現の自由という権利が毀損されることになります。

オンライン、オフラインにまたがり、それをテクノロジーの力で融合することによって築かれたのがプラットフォームビジネスの強みです。しかし、それとは対照的に、オンライン上の発言がオフラインでの行動を刺激し、その結果、オンラインからオフラインへ、意に沿わない形で退場させられる人が出てくるという問題は、ソーシャルプラットフォームが抱える負の循環といえます。
 それではこれから、プラットフォームビジネスの成長のメカニズムについて考えていきましょう。
(第10回配信に続く)
 
初回講義「イントロダクション~プラットフォーマーとメディアを取り巻く潮流について」
第1回配信 三つの革命と三つのトンネル
第2回配信 巨大プラットフォーマーの破壊力
第3回配信 変革の移り変わりをとらえるためのキーワード
第4回配信 メディアのパワーシフトとAI
第5回配信 未来につなげるための変換作業
第6回配信 ジャーナリズムの活性化のために
第7回配信 「Q&A」、「講義を聴いて今思うこと」

2回目の講義「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉について」
第8回配信  主戦場はモバイルからAIへ
第9回配信  オンラインとオフラインの二刀流
 
第10回配信 ネットワークの魔法とは?
第11回配信 ツーサイド効果と成長の壁
第12回配信  グーグルの巨大化と監視資本主義
第13回配信 パイプラインからプラットフォームへ
第14回配信 「Q&A」


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