【第10回】ネットワークの魔法とは?
東京大学大学院情報学環を拠点とする「プラットフォーム研究会」は、国内外のさまざまなプラットフォーマーの経営、歴史、思想、創業者群像、政治との関係、生成AI戦略などについて、2025年6月まで25回の会合で議論を重ねてきました。
本noteでは、西村陽一・東京大学大学院客員教授(朝日新聞のワシントン・モスクワ特派員、政治部長、編集局長、常務取締役編集担当。元ザ・ハフィントン・ポスト代表取締役)による「情報社会論」講義(情報学環教育部)の一部を再録するとともに、研究会での議論内容を特集記事として順次紹介します。
第1回配信~第7回配信では、「情報社会論」講義の初回「イントロダクション ~プラットフォーマーとメディアを取り巻く潮流について」(2024年4月)の一部を再録しました。
第8回配信からは、講義の2回目「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉」(2024年4月)を再録しており、この第10回配信では、プラットフォームビジネスを理解するうえで基本となる「ネットワーク効果」について説明しています。
プラットフォームとは何のこと?
プラットフォームの語源
ここまで、プラットフォーム企業、巨大プラットフォーマー、ビッグテックなどいろいろな言葉を使ってきました。
そもそもプラットフォームとは何でしょうか。
どこがユニークで、その驚くべき力は何によって生まれるのでしょうか。こうした点について、いくつかの文献や論文をもとにまとめてみます。主な引用文献はあとで紹介します。
まず、プラットフォームという言葉です。
「平らな面」を意味する古期フランス語、中世ラテン語などが語源といわれています。そこから「基礎」「基盤」に転じ、さらに「場」「枠組み」「舞台」「台」といった意味を持つようになりました。
劇場の舞台のような平らで開放的な空間の上にいろいろな人たちが参加し、交流しながら、多彩な活動を繰り広げる―そんなイメージです。
それは、さまざまな情報を集めたり交換したりする「場」であり、モノやサービスを展開する「土台」ともいえます。
「つながり」がビジネスの根幹
昔の電話帳、イエローページ、紙の新聞の求人欄などの三行広告、郊外のショッピングモール・・・。これらもプラットフォームの一種といえます。
しかし、いまの巨大プラットフォーマーが決定的に違うのは、デジタル技術の進展というダイナミックな要素を取り込んでいることです。
初回講義の「イントロダクション」では、私が長年働いてきたメディア業界を素材に、クラシファイド広告の草分けであるクレイグスリストという巨大なネット掲示板が、伝統的な米国の新聞の求人広告に壊滅的な打撃を与え、アメリカの地方紙を死に追いやりつつあるという事例を紹介しました。(注:第2回配信レポート)

現代のプラットフォームは、デジタルテクノロジーを使って「場」を提供し、生産者と消費者、ユーザーとユーザーを結び付けます。その「場」で、そうしたプレイヤーたちが価値を交換できるようにします。
彼らは、その価値交換を、技術の力を使って円滑にできるようにします。ユーザー同士のマッチングをし、モノやサービスと社会的な通貨を交換できるようにします。その過程で、彼らは利用者のデータや情報を集め、ビッグデータとしてまとめたうえで、AIで解析します。
こうしたことによって、プラットフォーム企業はオンライン空間とリアルの空間の双方の融合を一層進め、プラットフォームという土台に参加する企業や個人にとっての価値の創造を可能にするビジネスを展開しているといえます。
価値創造のみなもと
彼らにとって、価値をつくることのみなもとは何か。
それは、製品を作ることにあるのではありません。一義的には、ネットワーク、つまり「つながり」を作り、つながるもの同士の取引をストレスなく円滑に実現することにあります。
そうすることによって、価値を生み出すわけです。彼らが駆使するデジタル技術は、時間と空間の壁を取っ払います。技術を駆使したソフトウェアツールで、迅速かつ簡単に、生産者と消費者、ユーザーとユーザーとをつなぎます。

トヨタは工場で自動車を製造します。ウーバーは、車を持つユーザーと車を利用したいユーザー、つまりドライバーと乗客の間の取引を提供します。
スマホとデジタル技術を活用した配車サービスは、配車から乗車、決済まですべてをアプリのなかで完結させています。これがユーザーのニーズにはまりました。ドライバーと乗客の間の価値交換がスムーズに行われるということです。
ウーバーが所有しているのは、ユーザー同士を結び付ける方法です。工場でもなければ車でもありません。乗客であるユーザーをドライバーに簡単につなぐネットワークを持っているわけです。
彼らはタクシーやバス、鉄道の業界に大きなインパクトを与えました。初回講義「イントロダクション」で、私が手がけた日米合弁事業のパートナーだったハフィントンポストが、米国の伝統メディアにとっての破壊者だった、という話をしましたが(注:第2回配信レポート)、ウーバーは伝統的な運輸業界の破壊者だったといえます。
あるいは、世界最大のホテルチェーンといっていいエアビーアンドビー。年間数十億件の予約を受けつけ、1億泊以上を提供していますが、物件は所有していません。その代わり、宿泊先として自分の家、部屋を提供したい人と、泊まりたい旅行者とをつなぐネットワークを持っているわけです。
エアビーアンドビーもウーバーも遊休資産を生かしているところが、これまでのサービスと違うところです。使われずに遊んでいる民家や眠っている車を生かすことで安い価格をユーザーに提供しているわけです。

プラットフォームビジネスの九つのタイプ
ウーバーやエアビーアンドビーは、買い手と売り手をつなぐ、いわば「マーケットプレイス型」のネットワーク製品です。アマゾンもそうです。
同じ「つなぐ」といっても、ソーシャルネットワークのようにユーザー間を直接つながることができるようにするものもあります。
インスタグラム、 レディット、 ティックトック、 ユーチューブ、 旧ツイッターは、クリエイターとユーザーと広告主の三者をつなぐネットワークといえるでしょう。
さまざまなタイプのプラットフォームを九つに分類したのがこれです。

どんなパタンにせよ、プラットフォームが作っているのはつながる方法であるということを押さえておいてください。
しかし、ただつながりを作るだけでは、ビジネスとして成長しません。彼らのサービスのエコシステムが成り立ち、維持され、拡大してきたのは、たくさんの人を互いにつなぐとともに、その数を増やしているからです。
これがネットワークの魔法といわれる「ネットワーク効果」です。
ネットワーク効果という言葉の「効果」という部分ですが、これは、その製品やサービスを使う人が多ければ多いほど、ユーザーにとっての価値が増すことを指します。価値が増すということは、高いエンゲージメントや成長率の増加として現れてきます。
ネットワーク効果
ここから、プラットフォームビジネスを理解するうえで基本となるいくつかのキーワードを説明します。
最初がいま言った「ネットワーク効果」です。プラットフォーマーのビジネスと成長を語るうえで欠かせないものです。
これについてはプラットフォームビジネスに関するどの教科書にも載っていますが、本日は、主に『ネットワークエフェクト』(アンドリュー・チェン、原題NETWORK EFFECT, THE COLD START PROBLEM)を含む複数の文献から引用しながら説明します。

「ネットワーク効果」とは何でしょうか。
製品やサービス、機能を使う人が増えれば増えるほど、人々がネットワークに加入すればするほど、製品・サービスや機能それ自体もよくなっていきます。それによって他の加入者の利便性などの効用が高まります。こうしたことが次々と繰り返されていくことでさらに加入者が増えていきます。ひとことで言えば、こんな効果のことを指します。
電話機が一台なら
いまから100年以上前に、現AT&T社の年次報告で当時の社長がこう言いました。
「つながっていない電話は科学機器でもおもちゃでもない。世界で最も役に立たないものだ。電話の価値は他の電話とのつながりにあり、接続数が多いほどその価値は増す」
もし、この世に電話が一台しかなかったらだれにも電話をかけられません。つながっていない電話はデバイスではなく、おもちゃですらありません。つまり、何の役にも立ちません。価値はゼロです。

2台なら接続数はひとつ。しかし、加入者が増えれば増えるほど、電話サービスの価値は増えていきます。
電話の価値は、ほかの電話とのつながりにあります。接続の数が多ければ多いほど、価値は増します。加入者同士の接続を増やすことで加入者全員の便益が高まります。
ここには、製品としての電話機と、電話同士をつなぐ回線がもたらしてくれる人のネットワークの二つがあります。
つまり、ネットワーク効果が発揮されるには、「製品」と「人のつながり」、ソフトウェアとネットワークの二つの要素が必要で、ネットワークが拡大すればするほど価値が増えます。
電話機というのは、ここにいるスマホ世代の皆さんにとっては博物館の展示物のようなものです。しかし、この電話機の時代に、すでにこんにちのネットワーク効果の原型が語られていたということになります。
オークションサイト「イーベイ」の場合
1998年の上場後、記録的な株価をつけた「イーベイ」というネットオークションサイトがありました。
イランの移民ピエール・オミディア氏が創業したシリコンバレー発のスタートアップで、中古品の売り手と買い手をつなぐサイトでした。


サイトに出品する人が増えれば増えるほど、多くの買い手がサイトに引き寄せられました。買い手が大勢集まれば集まるほど、さらに多くの売り手が出品するようになりました。評判が高まれば成長します。
しかも、彼らには在庫がないので、保管、管理や輸送に人手とカネをかけることもありませんでした。成長が成長を呼んでネットワークの規模が大きくなり、それにつれて価値が高まっていきました。
当時はまだライバルがなく、この会社はマーケティングにカネをかけずに出資金を集めることができました。一株18ドルで売りに出た株価は半年後にはなんと600億ドル台に達しています。
メトカーフの法則
次は、ネットワーク効果を説明するうえで重要な柱となる「メトカーフの法則」です。
これは「ネットワーク全体の価値は、ネットワークに接続する通信機器の数の二乗に比例する」というものです。提唱したのは、ロバート・メトカーフという人物でした。

MITとハーバード大で学んだ後、コピー機のゼロックスに入社した彼は、「イーサネット」と呼ばれるコンピューターのネットワークを形成する技術を発明しますが、ゼロックスのような伝統企業は、彼のような天才には窮屈な場所でした。
このため会社を飛び出し、ネットワーク機器を売るスタートアップをつくります。すべてのオフィスと家庭のパソコンをつないでしまおうというのが彼の構想でした。シリコンバレーのベンチャーキャピタルを回って資金を調達し、1984年に上場を果たしています。
彼が提唱した「接続された機器の数の二乗に比例する」というのは、いまで言うなら、ネットワークの参加者数が増えればアプリの価値がユーザー数の二乗になるということになります。PCをネットワークにつなげばネットワークの有用性が指数関数的に増えていくことになります。
ムーアの法則とメトカーフの法則
「ムーアの法則」という言葉は皆さんも聞いたことがあるでしょう。半導体の世界でよく聞きます。1年半から2年で半導体の性能が2倍になるというものです。
しかし、先ほど言ったようにネットワークの価値は、利用者数の二乗に比例して高まっていくわけですから、2倍を続ける場合よりも、二乗を続けるほうがはるかに早く伸びていきます。
しかも、ネットワークの発展は、何年でどうなる、というような時間の経過に縛られることはありません。利用者の数の変化で決まります。
半導体が2年間に性能が2倍になるとして、インターネットの利用者がこの間に3倍に増えていたら価値は9倍になります。
ただ、この二つの法則は相乗効果を持ちます。
これについては、『The Power Law (ザ・パワー・ロー) ベンチャーキャピタルが変える世界』(セバスチャン・マラビー、原題The Power Law)が、二つの法則の関係について次のような趣旨を指摘しています。

「・・・ムーアの法則はそれ自体で十分に劇的な推進力を持つが、メトカーフの法則がそれに取って代わるという性質のものではない。むしろそれを『複合』する。インターネット上の情報のやり取りの激増は、その有用性の急速な向上(メトカーフの法則)と、モデムやコンピューターのコスト低下(ムーアの法則)の両方によって促進されることになる。・・・」
二つの法則が相乗効果のように影響を及ぼし、インターネット上でやり取りされる情報が爆発的に増えていくわけです。
メトカーフはPC時代の起業家ですが、その後のインターネット時代の到来で、彼の名前を冠した法則は、ネットワークの参加者数が増えるとアプリの価値がユーザー数の二乗になる、ウェブサイトのユーザーが増えるにつれネットワークの価値が指数関数的に上昇する、といった意味に転じていきます。
プラットフォーム企業が巨大化する背景の基本はネットワーク効果ですが、それだけではありません。一方でそれを妨げる壁もあります。それらは何でしょうか?
(第11回配信に続く)
初回講義「イントロダクション~プラットフォーマーとメディアを取り巻く潮流について」
第1回配信 三つの革命と三つのトンネル
第2回配信 巨大プラットフォーマーの破壊力
第3回配信 変革の移り変わりをとらえるためのキーワード
第4回配信 メディアのパワーシフトとAI
第5回配信 未来につなげるための変換作業
第6回配信 ジャーナリズムの活性化のために
第7回配信 「Q&A」、「講義を聴いて今思うこと」
2回目の講義「プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉について」
第8回配信 主戦場はモバイルからAIへ
第9回配信 オンラインとオフラインの二刀流
第10回配信 ネットワークの魔法とは?
第11回配信 ツーサイド効果と成長の壁
第12回配信 グーグルの巨大化と監視資本主義
第13回配信 パイプラインからプラットフォームへ
第14回配信 「Q&A」
