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[購買データ×交通データで新店の売場をシミュレーション] SKU13%削減で売上4.24%増 | 西鉄グループ×今村商事「春日原DDX」が示す駅ナカスーパーの次の姿

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鹿野恵子 の Substack | Substack

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スーパーマーケットの新店づくりは、長く「既存店の実績」「商圏分析」「現場の経験」に支えられてきました。しかし新店の場合、そこには大きな落とし穴があります。

まだ店が存在しないため、その店で誰が、いつ、何を買うのかという購買データが存在しないのです。

この「開業前の空白」を、交通データと購買データを掛け合わせることで埋めようとしたのが、昨日記者会見が開催された西鉄グループと今村商事による「春日原DDXプロジェクト」です。

舞台は、天神大牟田線・春日原駅直結の商業施設「レイリア春日原」。同施設は2026年2月27日に先行オープンし、6月11日にグランドオープンした地上2階建ての駅直結施設で、計10店舗が入居します。その中に、西鉄ストアのスーパーマーケット「レガネット春日原」が出店しました。

新しい駅ナカ型スーパーマーケットは、データでどう変わるのでしょうか。

駅ナカスーパーは、来店客の読み方が難しい

駅ナカ型スーパーの難しさは、来店客が一種類ではないことにあります。

通勤・通学で駅を使う人。
帰宅途中に立ち寄る人。
近隣に住んでいて日常的に使う人。
バスや鉄道を乗り継ぐ人。

一般的な住宅立地の食品スーパーよりも、来店シーンが複雑になりやすいですし、レガネット春日原は新店ですから、過去の購買データがありません。どんなお客様が、どの時間帯に、何を買うのかを事前に読むことが難しかったのです。

そこで使われたのが、西日本鉄道が持つ交通移動データと、西鉄ストアが持つID-POSデータです。

具体的には、nimocaの移動データから春日原駅や周辺バス停の利用者を把握し、その人たちが西鉄ストアの他店舗でどのような買い物をしているかをID-POSで分析。これにより、まだ開業していないレガネット春日原で起こりうる購買を、仮想的に再現したのです。


作成された「仮想春日原データ」は数万人ID分に及び、既存店と同等規模のデータ量を確保したといいます。

つまり、店が開く前に「その店に来る可能性が高い人たちの買い物」をデータ上に立ち上げたわけです。

新店の売場づくりは、これまで「開けてみないとわからない」部分が大きいものでした。ですが、この取り組みでは、開業前から仮想の購買データをつくり、売場や品揃えの仮説を立てています。

売場づくりが、経験と勘の世界から、仮説検証へ少し進んだと言えます。

「DDX」は、泥臭いDX

このプロジェクトの名称は「春日原DDXプロジェクト」。

DDXとは「泥臭いデジタルトランスフォーメーション」の略だそうです。

商売というと、えてして「泥臭い」ものです。

DXの話は、どうしてもシステム導入やAI活用に寄りがちだです。しかし小売現場で本当に問われるのは、データを使って棚をどう変えるのか、作業をどう減らすのか、売上や粗利にどう効かせるのかという泥臭い話につきます。

春日原DDXでは、2025年9月から2026年3月までの期間で、西鉄、西鉄ストア、今村商事に加え、食品メーカー、食品ベンダー、AIテック企業も参加した。データ分析の研修とワークショップを行い、その後、各社が分析や週次ミーティングを重ねながら施策を検討しました。

データは、眺めるだけでは売場を変えません。
誰が読み、誰が棚に落とし込み、誰が検証するのか。

そこまで含めて「泥臭いDX」ということなのでしょう。

最初の論点は、SKUをどう減らすか

今回、具体的な検証対象となったのはケチャップ・ソースカテゴリでした。(このあたりも、泥臭いというか、人の生活に根差しているものですよね)

狙いは、SKUの削減です。

SKUが多いことは、お客にとって選択肢が多いという利点もあります。

一方で、似たような商品が棚に並びすぎると、商品を選びにくくもなってしまいます。店舗側にとっても、品出しや在庫管理の手間が増え、売れない商品のロスも発生しやすくなるでしょう。

そこで、今回、データに基づいてSKUを削減しつつ、販売増が見込める商品を追加するという検証を行いました。

手法としては、クラスタリングと協調フィルタリングを使用。クラスタリングでは、購買パターンの類似性に基づいて似た商品をグループ化し、重複・類似商品を見直しました。協調フィルタリングでは、顧客の購買履歴をもとに販売増が見込める商品を抽出いました。

結果として、ケチャップ・ソースカテゴリで14SKUを削減し、4SKUを導入。差し引きで10SKU削減、元のSKU数から13%カットしました。

ここで重要なのは、単に「商品を減らした」のではないことです。

売れないものを勘で削るのではなく、顧客の購買パターンから見て重複している商品を見直し、その一方でポテンシャルの高い商品を入れる。

つまり、削る技術と足す技術を同時に使うのでした。棚を小さくしたのではなく、棚の密度を上げたと言ったほうが近いでしょう。

SKUを減らしても、売上は落ちなかった

レガネット春日原での実証前に、春日原店と顧客属性が近いと判断された、にしてつストア高宮店で事前検証が行われました。

ケチャップ・ソース棚全体で10SKUを削減し、元のSKU数から13%カットした結果、対象カテゴリの販売は大きく改善したのです。

全店平均との差分で見ると、ケチャップ・ソースカテゴリは売上前年比で+4.24%、購買点数前年比で+7.99%、粗利金額前年比で+6.68%上回りました。

SKUを減らすと、一般的には売上が落ちるのではないかと考えられやすいもの。

しかし今回の検証では、データに基づいて削減対象を見極めることで、SKUを減らしながら売上、購買点数、粗利を伸ばせる可能性が示すこととなりました。

さらに、レガネット春日原のオープン後実績でも、ケチャップ・ソースカテゴリの買上率は2.92%、点数/SKUは12.8となり、比較対象の沿線店舗と比べても高い水準でした。

測定期間は2026年3月3日から3月13日までの11日間で、オープンセール4日間を除いて検証しています。

もちろん、これだけで全カテゴリに同じ効果が出るとは言えません。

ですが、「新店の棚を開業前データで設計し、実際の売場で検証する」というプロセスそのものは、小売業にとって大きな示唆があるものと考えられます。

売上だけでなく、作業効率にも効く

SKU削減の効果は、売上だけではありません。

たとえばトマト缶では、SKU削減により売れ筋商品の陳列量を増やすことができました。従来は1段積みで陳列数18個だったものを、2段積みにして36個まで増やしたのです。

日販13個の場合、品出し頻度は毎日から2日に1回に減ります。1SKUあたりの年間削減時間は約6時間、時給1,500円換算で年間9,000円の削減効果が見込まれると坂本さんは言います。

この数字だけを見ると小さく見えるかもしれません。しかしスーパーは1万SKU以上の商品を扱っています。1SKUでの削減効果が数分でも、カテゴリ単位、店舗単位、チェーン単位で積み上がると、作業負荷の差は無視できないものです。

人手不足が続くなかで、売場づくりは「売れる棚」だけでなく「作業しやすい棚」でなければなりません。

その意味でも、この取り組みは売上改善とオペレーション改善を同時に見ている点が重要といえます。

交通データは、小売の新しい需要予測資産になる

今回の取り組みが面白いのは、交通事業者のデータが、小売の売場づくりに使われていることです。

鉄道会社は、どの駅を誰がいつ利用しているかを知っています。
小売業は、その人が何を買っているかを知っています。

この二つがつながると、駅前や駅ナカの商業開発は変わるということ。

これまで駅の価値は、乗降客数や人流として語られることが多かったのですが、今後は、「その駅を使う人が、どんな生活をしていて、どんな商品を必要としているのか」まで踏み込めるようになるといえます。

人の流れが、売場の仮説になる。
駅のデータが、棚割の材料になる。

これは、鉄道会社にとっても小売業にとっても、新しいデータ活用の可能性を示しています。

なお、システム面では、Snowflake上でnimocaとID-POSをID連携し、仮想春日原店を生成。そのデータをDatabricksで分析し、小売、卸、メーカー各社がAIモデルを共同活用する構成が取られました。

製配販が同じデータを見ながら売場を考えたという点も着目すべきポイントでしょう。

棚割や商品導入は、これまで小売とメーカー・卸の商談の中で決まることが多かったもの。しかし今後は、「この駅を使う顧客にとって、このカテゴリはどうあるべきか」という共通データをもとに、より実証的な売場づくりが進む可能性があります。

新店は「オープンしてから検討する」だけではなくなる

春日原DDXプロジェクトが示した一番の変化は、新店が「オープンしてから検討する」だけではなくなりつつあることです。

もちろん、開業後の実績を見て修正することは今後も必要ですが、開業前から交通データと購買データを使って、来店可能性の高い顧客の買い物を仮想的に読み、棚を設計できるなら、新店の立ち上げ精度は変わる。

とくに駅ナカや駅前立地では、単純な商圏人口だけでは読み切れない需要があります。

通勤動線、帰宅動線、バス利用、周辺居住者。

そうした生活動線を購買データとつなぐことで、「その場所らしい売場」を事前に考えらることができます。

今後は他店舗・他カテゴリへ

西鉄グループでは、2026年7月以降、レガネット春日原で得た知見を西鉄ストアの他店舗や他カテゴリへ展開する予定だそうです。

対象店舗は改装店舗を想定し、将来的には全店舗展開も見据えます。対象カテゴリも、日配系食品を含む複数カテゴリへ広げる構想です。

さらに2027年以降は、インキューブ西鉄などグループ内の他事業への横展開も視野に入れています。

今後のポイントは、カテゴリを広げたときに同じような効果が出るかどうかでしょう。

ケチャップ・ソースのように比較的用途が明確なカテゴリでは、SKU削減の効果が見えやすい。一方で、嗜好性が強いカテゴリや、ブランド指名買いが強いカテゴリでは、削減の判断は難しくなります。

だからこそ、この取り組みは一度の成功事例で終わらせず、カテゴリごとの向き不向きを見極めることが重要になるのです。

小売業のデータ活用は、派手な言葉で語られがちですが、本当に売場を変えるのは、1SKUを残すか削るか、1フェイスをどこに置くか、補充頻度をどう下げるかという、かなり地味な、泥臭い判断の積み重ねです。

新店オープン時の売場作りが次の次元に

新店オープンというと、これまでは商圏調査、デモグラフィック分析、レイアウトの決定、什器の選定といった、主に店舗開発部門が担う領域の話として語られることが多かったように思います。

一方で、新店オープン時の「売場づくり」はどうだったでしょうか。

商品部のリソースは限られています。

すべての新店について、乾物、調味料、加工食品、日配品といった膨大なカテゴリを一つひとつ精査し、その店に最適な品揃えや棚割を細かく設計することは、現実にはなかなか難しかったのではないでしょうか。

かなり昔の話で恐縮ですが、筆者が出版社で営業をしていたころ(20年ぐらい前)、新店に配本する書籍を、入社1年目の若手(私です)がなんとなくの勘で選んで送り込んでいたことがありました。

もちろん、現在の食品スーパーでそこまで粗い運用がされているとは思いません。ただ、アイテム数の多いカテゴリほど、1店舗ごとに売場を精査しきれないという課題は、多くの小売業に共通して残っているのではないかと思います。

今回の春日原DDXプロジェクトが示した意味は、大きく2つあります。

一つは、人流データの価値が、店舗開発の領域から、売場づくりの領域へ広がり始めていることです。

これまで人流データは、出店判断や立地評価に使われることが多かったのですが、今回のように、nimocaの移動データと既存店のID-POSを組み合わせれば、「その場所を使う人が、どのような買い物をしそうか」まで踏み込んで考えることができます。

つまり人流データは、単に「人が多いか少ないか」を見るためのデータではなくなり、商品構成・棚割の検討に寄与するようになりそうだ、ということです。

どんな人が、どの時間帯に、どこから来て、どのような生活動線の中で店を使うのか。その先に、どんな品揃えが必要なのか。そこまで考えるための需要予測資産になっていく可能性があります。

もう一つは、「まだ存在しない店」の売場を、開業前からシミュレーションできる可能性です。

今回の取り組みでは、春日原駅を利用する可能性が高い人の移動データと、その人たちの既存店での購買傾向を掛け合わせることで、仮想的なID-POSデータをつくりました。言い換えれば、まだ売上が立っていない新店に、仮の購買履歴を持たせたわけです。

これは今後、他の小売業にも応用できる考え方ではないでしょうか。

仮想店舗をつくる。仮想IDを用意する。仮想の品揃えを組む。そのうえで、どの商品が売れそうか、どのSKUは重複していそうか、どこにフェイスを厚く取るべきか、どの程度の補充作業が発生しそうかを、開業前に検討する。

いわば、売場のバーチャルツインです。

バーチャルツイン店舗をつくることができれば、品揃えの最適化だけでなく、売上予測、発注量の検討、必要人時のシミュレーション、作業負荷の見積もりにもつながっていくでしょう。

これまで新店は、オープンしてから実績を見て、売場を直していくものでした。もちろん、そのプロセスは今後も必要です。現実の売場には、データだけでは読み切れないお客様の動きや、地域ごとの癖が必ずあります。

ただし、今回のような取り組みが広がれば、新店づくりは「開けてから考える」だけではなくなります。

開業前に仮説を持ち、売場を組み、オープン後に検証する。

小売業の新店づくりは、経験と勘を否定する方向ではなく、経験と勘をより確かな仮説に変える方向へ進んでいくのだと思います。

春日原DDXプロジェクトは、派手な未来像を語るものではありません。ケチャップやソースの棚をどうするか、トマト缶を何個積むか、品出し頻度をどう減らすかという、非常に地味な話です。

しかし、小売業のDXは本来、そういう場所でこそ意味を持つのではないでしょうか。

データが棚に降りてくる。

春日原DDXプロジェクトは、その小さな、しかし実務的な一歩だったように思います。

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