5:境目のような時間



彼を亡くしたあと、
亡くなった人と話ができる、という人に会ったことがありました。

半信半疑だったと思います。
それでも、そのときの私は、
何かを確かめたくて、そこへ行ったのかもしれません。

その人は、私の顔を見るなり、こう言いました。
「今は、彼に会わないほうがいい」と。

理由を聞くと、
いくつかの言葉が、静かに返ってきました。

彼は、私のことが本当に大好きで、
離れたくなくて。
それでも、私に心配はしてほしくなくて。

けれど、その思いが強すぎて、
このままだと、私を一緒に引き込んでしまいそうだから。

そんなふうに、伝えられました。

その話を、
信じたのか、どうか。
今でも、はっきりとは分かりません。

ただ、不思議と、
怖さはありませんでした。

彼に会いたい
でも私は「現在」を生きている、、


その後、私は、亡くなった彼の名前を、左の脇の下あたりに彫りました。

誰かに見せるためではなく、
強く主張するためでもありません。

そこにあると、自分が分かっていれば、それでよかった。

後悔は、ありません。
彼の名前を体に刻んだことも、
その出来事も。

振り返ってみると、
あの頃の私は、
「ここで生きていく」という決心を、
少しずつ、重ねていたのだと思います。

彼と一緒に、
過去にとどまるのではなく。

彼を胸に
それでも、前に進む。

そういう選び方があるのだと、
初めて、自分を許した時間でした。

いいなと思ったら応援しよう!