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「人生9割はムダでいい」要介護5の直木賞作家・志茂田景樹。86歳で辿り着いた「遠回りの正解」

「人生9割はムダでいい」──。タイパ(タイムパフォーマンス)が叫ばれる現代において、その言葉はあまりに贅沢で、そして残酷に響くかもしれません。かつて奇抜なファッションと自由な言動で時代を彩った直木賞作家・志茂田景樹さんは今、関節リウマチを患い、要介護5の認定を受けてベッドの上で生活しています。しかし、自由を奪われたはずの彼の瞳は、かつてないほど澄んでいます。犬の健康保険セールスから探偵まで、20以上の職を転々とした「遠回り」の末に辿り着いた、86歳の境地。ムダの中にこそ宿る、人生の本質とは。

── 志茂田さんは3月で86歳を迎えられました。今もSNSを毎日更新され、発信がたびたび話題になっています。フォロワー数42万人という数字も驚きですが、どのような想いで投稿を続けられているのでしょうか。

志茂田さん:SNSでいろいろな人の相談に答えていくうちに、フォロワー数が自然と増えていきました。今はとにかく、若い人たちを勇気づけたくて日々つぶやいています。SNSを通して届く相談は年代によって様々ですが、今伝えたいのは「きみたちの存在そのものが可能性のかたまりなんだよ」ということ。だから、やりたいことは全部やってください。たくさん挑戦して、たくさん失敗してほしいんです。

── かつて「人生9割はムダでいい」というつぶやきが大きな反響を呼びました。

志茂田さん:自分の人生を振り返って、本当にそう思いますよ。僕は6年かけて大学を卒業後、29歳まで20種類以上の職を転々としてフラフラしていました。新聞広告を見て適当に面接に行き、嫌になってその日のうちに辞めたこともあります(笑)。どれも無駄な時間ばかりだったと言えますが、振り返るとそんな日々が楽しかった。

1980年に『黄色い牙』で直木賞をいただきましたが、この作品はフラフラしていた頃に経験した「保険調査員」の仕事がベースになっています。ムダだと思える経験こそが、作家として書くときの血肉になっているんです。

── 犬の健康保険セールスや塾講師、週刊誌記者も経験されたそうですね。

志茂田さん:そうですね、本当にいろんな仕事をして。作家を志してからデビューするまでにも7年かかりました。書いても書いても賞の選考に通らず、「もう書くのを辞めよう」と腐った時期もありましたよ。でも、一度抱いた夢は消えなかった。夢を見失わなければ、自然と夢に近づいていくものです。

── これまでの歩みに、後悔されていることはありますか?

志茂田さん:「ムダ」はひとつもないと思っていますが、後悔しているのは「バックボーンをもっとしっかり作ればよかった」ということですね。楽観的に生きてきたぶん、自分の得意なことや強みを「これが自分だ」ときちんと自覚して、確立させることを怠っていたんです。「自分という人間の軸は何か」を突き詰めてこなかった。これは後悔していますね。

── 志茂田さんほどのキャリアがあっても、そう思われるのですね。

志茂田さん:でも、バックボーンを作るのも何歳になってもできると思うので、まだまだあきらめないでいようと思っています。これからが楽しみです。

要介護5という不自由な体になりながらも、「老いも病も新しいステージ」と笑う志茂田景樹さん。

私たちはいつの間にか、最短距離で正解にたどり着くことばかりを急いでいないでしょうか。あなたがこれまで「ムダだった」と後悔してきた時間や、遠回りだと思っていた経験が、今のあなたを支える一部になっていると感じることはありますか?

86歳の彼が贈る「まだまだこれから」という言葉に、今、何を感じましたか。

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