探偵は眠れない

ちょっと時間くれよ、最初は俺に話させてくれ、いや何も訳ありじゃないんだがな、俺は自分で言うのもなんだが頭が悪くてな、記憶が長く持たないんだよ、だから俺から先に話させてもらえねえと、探偵さん、めちゃくちゃな情報ばかりをよこすハメになるかもしれねえ、それに、俺ってちょっとばかりお喋りだから、探偵さん、あんたさっきまで寝てたんだろ? 初めての船旅じゃ仕方ないよな、時化に出くわすなんてついてねえよ、俺はもう何十年も船に乗ってるからなんてことないけどよ、俺も昔は酔い止めと飴玉を口に放り込んで青色のゲロ吐きながら世界の海を巡ったもんさ、で、なんの話だったっけ? ああそうだ、あんたが寝起きだって話だったな、でもだいぶ目も覚めてきたんじゃないか、俺の喋りを聞いていたら、誰でも目を覚ますぜ、この船の船首から船尾まで届く声だからな、朝の6時の鐘を鳴らす代わりに俺が「誰も寝てはならぬ」を歌えば、全員ぱっちりさ、わかるかい、探偵さん。

で、なんだっけ? ああそうだ、例の殺人事件の話だな、俺もこの船は長いからよ、多分この場にいる誰よりもこの船については詳しいぜ、船長の嫁さんの体よりよく知ってる、って、へへ、不謹慎か、失礼失礼、でもこうして茶化しでもしねえと俺も気分が沈んじまっていけねえのよ、船長の嫁さんとは昔バーで会ったんだが、船長の野郎に殴られて青あざ作っていてな、それが可哀想で、俺、ついついいけねえと思いつつ、嫁さんバーから連れ出して、そのまま俺の船に乗せて行っちまおうと思ったんだが、嫁さん強情でな、俺に平手打ちかまして、え? なんの話だって? ああ、殺人事件との関係性? そうかそうか、確かになんも関係ねえな、でも俺が言いてえのはな探偵さん、船長が殺される理由はちゃんとあったってことだよ、あの暴漢にゃ、散々虐められてきたからな、俺の左目を抉ったのも船長だよ、いや俺が犯人って話じゃねえよ、探偵さん。

【続く】

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