授乳は、世界で一番やさしい会話だった。―2歳半頃の長女が私に教えてくれたこと(卒乳相談が増えてくる時期に)
3月は卒乳の相談が増えてきます。
理由としては、復職するということが多く、お子さんの年齢は様々です。
卒乳に関して、医学的根拠も含めて、お話したいと思います。
1.「1年で終わり」はもう古い? 授乳のいま
昔と今のギャップの一つとして、1年で辞めるものという風潮があります。
私も母から1年で辞めないの?と言われたことがあります。母親の時代はカラシを塗って無理やりやめさせたり、少し前までは保健師さんも「1年で栄養がなくなる」と指導していたようです。
(地域性もあるかもしれませんが…)
国際的な基準としては、今、WHO(世界保健機関)では「最低2年」の授乳が推奨されています。
"Exclusive breastfeeding is recommended for the first 6 months of life. At 6 months, solid foods should be introduced to complement breastfeeding for up to 2 years or beyond."
(生後6ヶ月間は完全母乳を推奨する。6ヶ月からは、母乳を補完するために固形食(離乳食)を導入し、2歳かそれ以降まで授乳を続けるべきである。)
「2歳以上」の根拠として、
• 免疫機能の継続: 2年目以降も、母乳には重要な抗体が含まれており、感染症から子供を守る役割を果たし続けます。
• 栄養の補完: 2歳頃でも、エネルギー源の約3分の1を母乳から得ているケースがあり、質の高い栄養源となります。
• 心理的安定: 授乳は子供にとっての「安全基地」であり、情緒的な発達を助けることが科学的にも認められています。
授乳の世間のイメージとしては、
「母親の時間を奪う」「痛い」「大変そう」……
そんなネガティブな面ばかりが強調されがちです。
ですが、本当にそれだけなのでしょうか?
ネガティブがSNSやメディアで強調されるがあまり、女性だけでなく医療者としても、あまり話せなくなっている印象があります。
助産師として、そして一人の母として伝えたい「授乳の本当の面白さ」があります。
2. 私の「涙の混合育児」から始まった話
「吸えば出るもの」
長女を産んだばかりの私は、そう信じて疑いませんでした。
けれど現実は、思うようにいかないことの連続…
私の分泌スイッチが入る前に、娘の小さな口は疲れ、十分な量を飲むことができませんでした。足りない分をミルクで補うたびに、自分を責めました。
申し訳なくて、情けなくて。あの日、寝顔を見ながら泣いたことは、今でも忘れることができません。
そんな「混合育児」から始まった私たちの授乳生活は、いつしか栄養をあげるだけの時間を超えて、かけがえのない「二人の遊び」に変わっていきました。
5.6ヶ月の時に、飲みながらも手でむにむにと乳房を触ってみたり、目が合えば笑ってみたり、本当に愛しさを感じました。
仕事から帰ったとき。
夜勤明けの疲れた体で横になったとき。
娘が私の胸に顔を寄せると、そこには言葉を超えた、温かくてかけがえのない時間がありました。
そして長女が2歳半になった頃。
お腹に2人目の宿りを感じ、少し張る感じがしたので、私は娘に一つの提案をしました。
「ごめんね、お腹に赤ちゃんがいるの。生まれるまで、おっぱいやめてもいい?」
その時、娘は数回飲んではいましたが、
「分かった」と、その時から一切触れなくなりました。
私と長女の授乳はそれで終わりました。
まさかそこでスっと聞き入れてくれるとは思わなかったので、子供という存在の凄さを知ることになったのです。子供はすべてを感じ取り、理解しています。
心が震えてしまう出来事でした。
3. 授乳は「遊び」であり「お守り」だった
授乳は生活の一部でした。仕事から帰ったとき、朝起きたとき、寝る前。それは栄養をあげる時間というより、二人で慈しむ「遊び」の時間だったように思います。
また、救われた私もいます。体調が悪いときや、夜勤明けの疲れ果てた私を、授乳の時間がどれほど癒してくれたか。これは逆も然りで、子供が発熱をしていても授乳はしてくれるので、食べてないという不安が消えました。
5.後悔しない「卒乳」のプランニング
「いつやめるか」よりも「どうやめるか」を大切にすると、後悔がないと思います。
母乳育児は、栄養が足りないということや、ママの負担だけが増える、というのとはありません。
細く長く続けることは、双方にメリットがあるのです。
1. 赤ちゃんへのメリット(生きる力を贈る)
• 「飲むワクチン」: 免疫物質(IgAなど)が豊富で、中耳炎や胃腸炎、呼吸器の病気を防ぎます。
• 将来の健康を守る: 肥満、糖尿病、アレルギー疾患のリスクを下げます。
• 脳と心の成長: DHAなどの成分が脳の発達を助け、お母さんとの密着が情緒を安定させます。
2. お母さんへのメリット(体をケアする)
• 産後の回復が早い: ホルモン(オキシトシン)の働きで子宮の戻りを助け、出血を抑えます。
• 病気のリスクを下げる: 乳がん、卵巣がん、高血圧、糖尿病などの予防につながります。
• 天然のダイエット: 母乳を作るだけで毎日約500kcalを消費します。
• リラックス効果: 授乳ホルモンが不安を和らげ、お母さんの心をやさしく包みます。
実際の卒乳の方法例として、
・カレンダーでのカウントダウン: 子供は視覚的な情報に強いです。「この日にバイバイだよ」とカレンダーにシールを貼ることで、子供なりに心の準備を始めます。
• 乳房へのメッセージ: 最後の日に絆創膏にアンパンマンの絵を描いて、乳頭に貼り「バイバイ」をします。これは、子供にとっての「卒業式」のような儀式になります。
• 1ヶ月の猶予: 分泌の調整だけでなく、母と子の「心の整理」に1ヶ月かけるのが理想的です。
ここに数回マッサージで全て乳汁を出し切ります。
やめ方は人それぞれです。
病気の治療など、やむを得ない事情でやめることもあります。それは決して悪いことではなく、母子の健康が最優先です。
6.授乳はおもしろい
授乳は、子供がこちらの言葉や状況を深く理解していることを教えてくれます。
こんなに楽しくて、愛おしい時間が他にあるでしょうか?
確かに辛くて涙をすることもありますが、私は母乳育児をして、子供へ感謝がつきません。
「ありがとう、お母さんにしてくれて…」と。
私はお涙話になってしまいましたが、
面白い話も聞くことがあります。
楽しい育児の思い出となることを、心から願っています。
頭の片隅にいる助産師として、あなたの「授乳の物語」が笑顔で卒業を迎えられるよう、伴走したいと思っています🌱
