私のマグカップは棚へ、娘のはカゴの中。――「タオルの魔法」で境界線を越えた日
ヘルパーさんは、私のことしか手伝ってはいけない。
娘のマグカップには、触れてはいけない。
だから私は、タオルをかぶった。
ヘルパーさんは、介助が必要な「私」のことしか手伝ってはいけない。
それが、国の補助を受けている介護保険の厳然たるルールです。
例えば、キッチンでの一コマ。
私のマグカップは丁寧に食器棚へ収納されるけれど、
すぐ隣にある娘のマグカップは、洗いカゴの中に置かれたまま。
ルールなのだから仕方がない。
けれど、その光景に残る小さな違和感。
きっとヘルパーさんも、居心地の悪さを感じていたはずです。
だから私は頭からタオルをかぶって言ってみました。
「前も後ろも見えません。今、何が起きても私にはわからないことです」
目を開けたとき、カゴの中から娘のマグカップは消えていました。
私の違和感も、おそらくヘルパーさんの心のトゲも、
その瞬間に消えたのだと思います。
もちろん、甘え続けるわけではありません。
その後、家族には事情を話し、自分たちでできる仕組みを整えました。
そして最近では、リハビリの成果で、
私自身の手で片付けられるようにもなっています。
感情的な違和感を放置すると、大切な人間関係にひびが入ります。
ルールを守りつつ、お互いの心が健やかであるために、どう知恵を絞るか。
介護を「受ける側」の私にできる、
大切なデザインの一つだと思っています。
介護をしている人にも、されている人にも。
ルールの中で、ちいさな違和感を抱える瞬間があるのかもしれない。
