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毎ショ | 痴女の宅急便



 工事ランプがチカチカと点滅する路地裏で、黒いコートを身にまとった女性が息を切らしていた。

 黒木恵子、55歳。見た目は普通の中年女性だが、その心には誰にも理解できない執着が渦巻いていた。

 恵子は宅急便という名目で、ターゲットとなる男性たちに執拗な愛情を押し付けるストーカーだった。
 常に、愛の告白の手紙、盗撮した写真、時にはターゲット用に用意した弁当箱を持ち歩いていた。

 恵子は自らのストーカー行為を「愛の配達」と呼んでいた。恵子にとって、相手の拒絶はただの誤解であり、相手の恐怖の表情はただ恵子の告白にビックリしているだけだと捉えていた。

 だが、最近、恵子に奇妙な変化が訪れていた。夢の中で、森の中の古びた診療所が繰り返し現れる。そこには「おとぎ話診療所」という看板と、冷静な眼差しを持つ医師が立っていた。


 恵子の現在のターゲットは、35歳の会社員・名越侑人である。侑人は社交的で、SNSで自分の日常を毎日投稿していた。

 恵子は侑人の投稿をすべてチェックしていた。好きになるのに時間はかからなかった。そして、時折アップされる写真から、侑人の自宅を割り出した。恵子は侑人の自宅アパートの前に毎晩立っては、彼の帰りを待ち、時にはポストに手紙を投函した。

 ある夜、雨が降る中、恵子はいつものように侑人のアパートの前に立っていた。だが、突然、頭がズキンと痛み、視界が歪んだ。恵子は膝をつき、幻覚を見た。 
 恵子の眼前には、繰り返して夢の中で見た、おとぎ話診療所の入り口が見えた。


 目が覚めると、恵子は白いベッドに横たわっていた。部屋は古めかしく、壁にはグリム兄弟の童話の挿絵が飾られていた。ベッドの脇には、黒いスーツを着た男性が立っていた。30代後半くらいで、鋭い目元と落ち着いた声が特徴的だった。

「おとぎ話診療所へようこそ。あなたの心はかなり病んでいるようだね。私は森川と言います」

 森川は心の歪みを専門とする医師だと言う。患者の深層心理を物語として引き出し、治療するのだと説明した。恵子は最初、拒否した。彼女は「愛の配達」を完全に正しいと信じていたからだ。しかし、森川は冷たく笑った。

「あなたの愛は、相手を壊す呪いだ。あなた自身も気づいているんでしょう? それとも、もっと深く沈みたいですか?そのまま病んでいたいのですか?」

 森川は恵子の過去を暴き始めた。彼女が幼少期に両親から受けた無関心のこと。初恋が裏切られたトラウマ。恵子は泣きながら叫んだが、森川は容赦なかった。

「あなたのストーキングは、コントロールできない恐怖と自己愛から生まれている。ここでそれを治さない限り、あなたは永遠に孤独の暗闇にいることになる」


 森川は慎重に、現在の恵子のターゲットが、名越侑人であることを聞き出した。そして、「では、侑人さんへの『愛の配達』の準備をしてください」と言った。

 森川は恵子に「宅急便」を用意させた。

 しばらくして、荷物の中身を開けるとそこには、侑人の写真、侑人の投稿のスクショのコピー、盗聴器、果てはナイフまであった。

 森川は静かに言った。
「これが恵子さん、あなたの愛だと思うなら、私にはあなたを救えない。もし本当に侑人さんを幸せにしたいなら、なぜ盗聴器やナイフが入っているのですか?」

 恵子はこのとき初めて、自分の行動の恐ろしさに気づき始めた。


 恵子は森川の指導のもと、荷物に新しいものを詰めた。侑人がSNSで「読みたい」と言っていた本と、謝罪の手紙。森川はそれを見て初めて微笑んだ。

「これが、恵子さん、あなたの新しい物語の始まりですよ」


 数日後、恵子は侑人の前に現れ、荷物を手渡した。侑人は最初、恐怖の目で恵子を見たが、手紙を読んで驚いた。恵子はすべてを謝罪し、治療を受けていること、二度と彼を追い詰めないことを誓った。

「恵子さん、お気持ちは受け取ります。しかし、手紙も本も受け取ることはできません。もう二度と、私には関わらないでください」

「侑人さん、私の愛を受けとれないのですね?あなたは私の作品を褒めてくれたではありませんか?」

 恵子が侑人に殴りかかろうとしてとき、森川が制止した。森川は陰から一部始終を見守っていたのである。

「侑人さん、失礼いたしました。怖い思いをさせて申し訳ないです。ご協力いただき、ありがとうございました」


 森川は恵子に、今後いっさいSNSから身をひくように命令した。

 恵子は現在も「おとぎ話診療所」に通い続けている。森川の元で自分の心と真の意味で向き合うために。
 
 ストーキング癖は現在も消えていない。おとぎ話診療所の隔離室で、架空の相手に「愛の配達」をつづけている。


…おわり

⚠️この作品は創作です。
作品に登場する人物は、すべて架空の人物であり、現実の出来事・事件とは無関係です。フィクションとしてお読みください。


「410字程度」という「毎週ショートショートnote」のルールから大きく外れました。2000字弱の物語になりました。

最近、緒真坂さんの「ストーカーレポート」を拝読していたので、影響を受けたのかもしれません。




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山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします