連載小説(46)漂着ちゃん
エヴァから、マリアとヨブとが出会う日時を告げられた。近いうちに二人は出会うことになる。
エヴァと別れたあと、ナオミとヨブの待つ収容所に帰った。
ナオミに二人が出会うことを知られずにヨブにだけ伝えなくてはならない。私はヨブが1人きりになるタイミングを待っていた。
「エヴァさんとはなにをお話になったのですか?」とナオミが問うた。
「いや、なにも特別なことは。マリアとイサクの近況を聞いただけで」
「あら、そうですか。マリアちゃんもイサク君もお元気でしたか?」
「相変わらず、だね。二人とも立派に育ったよ」
やはりエヴァのもとから帰ると、どうしても子どもたちの話になる。さしさわりのない話をしているうちに、期せずしてナオミと私とが交わした話の一端が漏れぬように、私は気を遣いながらナオミと会話を続けた。
「お話をうかがっていると、本当に特別なお話はなかったようですね。じゃあ、すみませんが私は今日は休ませてもらいます。ヨブともお話をしたいでしょうし」
ナオミは何か勘ぐったのだろうか?私との会話を切り上げた。私はナオミを見て、「私は席を外すから、ヨブに話しなさい」と言われているかのような気持ちになった。
ナオミが席を外したあと、私はヨブに話しかけた。
「こんど、マリアと会わせたいという話があるのだが…」
ヨブはしばらく沈黙していたが、静かに話し始めた。
「母さんは、そろそろ僕とマリアさんが会うことになるかもしれない、と言っていました」
「ナオミが?私のいない間に、なにか話したのか?」
「もうヨブも年頃だから、マリアさんに会う時期が近づいてるんじゃないかって。僕はマリアさんと会ってみたい。収容所の外へ行ってみたい気持ちもあるから」
「ナオミは私とエヴァさんについて何かヨブに言ったことはあるか?」
「母さんは、エヴァさんのことについては何も言っていません。ただ、マリアさんやイサク君は元気にしてるかなぁとか、10数年前に流れ着いた『漂着ちゃん』はどうしてるかなぁと。父さんの話もエヴァさんの話も、敢えて避けてるような」
「『漂着ちゃん』のことも?」
私は記憶をたどった。10年前の『漂着ちゃん』のことをナオミに話したことがあったかどうか、と。
「なにか私がいない間に、外部の情報がヨブや母さんに伝わることはあったのか?」
ヨブは視線をそらした。なにか逡巡しているようだ。
「口止めされていますが、父さんには話しておいたほうがいいですね」
「なにを?」
「父さんがエヴァさんのもとへ滞在している時に、今までも何度か僕と母さんは収容所の地下室で所長に会っているんです」
「所長に?それはいつのことだ?」
「ついこの間も、地下室に呼ばれました。所長と会ったと言っても、AIの声を聞き、それに返事をするだけなんですけどね」
私は驚いた。所長は話せないはずだったのでは?
ナオミとヨブが所長とコンタクトをとっていたことも初耳だった。
「じゃあ、ひょっとして、エヴァさんがお前とマリアさんを引きあわせようとしていることも、母さんは知っていたのか?」
「いえ、マリアさんと僕の件は、今父さんから聞いてはじめて知りました。でも…」
「でも?」
「でも、母さん1人だけが地下室の所長のもとへ呼ばれたことが最近もありました。母さんと所長がなにを話したのかは、僕は聞いていませんし、聞こうとも思っていません」
「そうか。なにか母さんは、私が話していないことも知っている可能性があるということだな」
「母さん本人に直接聞いてみればいいのでは?母さんに話すとなにか不都合なことがあるんでしょうか?」
「エヴァさんからは、お前とマリアさんが会うことを母さんには伝えないように言われているから」
「そうなんですね。僕とマリアさんが会うのは、母さんには内緒にしてほしい、というのがエヴァさんの意向なのですね。けれど、極秘に話を進めるにしても、僕と父さんが出掛ければ、母さんは感づくのではないですか?」
「そうだろうね。しかし、エヴァさんとの約束だし、秘密を守ったからといって、母さんにウソを言っているわけではない。お前とマリアさんが会ったあとに、事後的に話せばいいだろう」
「父さんのそういう態度を母さんが納得できればいいんですけどね。とりあえず、僕はマリアさんに会います」
「わかった。次にエヴァさんと話す時に、ヨブの気持ちを伝えておこう」
…つづく
いいなと思ったら応援しよう!
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします