「英語ができれば食える」は終わった。なのに、公認会計士試験に英語が入るのは時代錯誤か
2024年5月13日、OpenAIがGPT-4oを発表し、「リアルタイム翻訳っぽい世界」が一気に現実味を帯びました。
その直後、語学アプリのDuolingoの株価が下がった、というニュースも話題になりました(Financial Timesは“約5%下落”と書いています)。
そして今度は2025年12月16日。公認会計士・監査審査会が「2027年(令和9年)第Ⅰ回短答式試験から英語による出題を行う」と公表。財務会計論・管理会計論・監査論の3科目で、配点は短答総点の“1割程度”という設計です。サンプル問題も出ました。
ここで、ふとこう思うわけです。
平成時代のビジネスの3種の神器は、英語×IT×会計と長らく言われてきました。でも、令和って、英語の価値が相対的に落ちていく時代じゃなかったっけ?
これ、時代に逆行してない?
今日はこの“違和感”を、ちゃんと擁護しつつ、最後に僕なりの賛否を出します。
1. イヤホンが「翻訳機」になる時代に
「エアポッズが同時通訳になる」って、少し前ならSFとかドラえもんの世界でした。でも今は、もう“方向性”じゃなく“機能”の話になってきている。
AppleはAirPodsでのライブ翻訳を案内していて、日本でも利用可能になりました。
GoogleもTranslateで、(少なくともAndroid側では)“どんなヘッドホンでも”ライブ翻訳を使える方向に広げています。
つまり、平成の「英語=技能」から、令和は「英語=アプリの機能」に寄ってきました。
この変化を見ていると、会計士試験への英語導入は、例えるなら、せっかく電卓が発明されたのに「筆算テストを導入します」と言っているような違和感があります。
2. それでも「試験に英語」を入れる側の言い分もわかる
公認会計士・監査審査会が言っている理由もわかります。IFRS適用企業の拡大やグループ監査などで、業務と英語の関わりが拡大しているから、一定の英語能力が求められる、と。
事実、すでに10年以上前ですが、僕が監査法人トーマツに在籍していたときも早慶などの高学歴ばかりなのに、意外とTOEICの点数が低い人が多くて驚いたこともあります。
ここで重要なのは、試験が測りたいのは“英会話”ではなく、たぶんこれです。
英語の会計・監査文書を読んで、論点を外さない
例外条件や定義のズレを見落とさない
「翻訳した日本語」を鵜呑みにせず、原文で整合チェックできる
これ、電卓の例で言うなら「計算は電卓でいい。でも、桁や前提がズレてないか“検算”できる人が欲しい」って話に近い。
3. でも僕は、この導入が“逆行”に見える理由もはっきりある
問題は「英語を読めるか」を試験にした瞬間、現場で本当に必要な能力からズレやすいところです。
令和の実務で問われるのは、英語力そのものよりも――
AI/翻訳を使っていい情報か(守秘・契約・品質)を判断する力
翻訳結果の違和感に気づく力(怪しい箇所だけ原文に戻る)
“作業としての読解”をAIに寄せたときのリスク管理
つまり「英語」より「情報リテラシー」なんです。
ところが試験にできるのは結局、“英語を読ませて正誤を選ばせる”になりがち。
さらに短答は1点が重い。配点が1割程度でも、苦手な人にとっては参入障壁になり得る。ここは制度設計として副作用が出やすい。
4. 結論:僕は「条件付きで賛成」。ただし“英語試験化”したら反対
僕の賛否はこうです。
賛成:英語は“技能”としての価値が下がっても、「責任を負う専門職の検算能力」としての価値は残る。監査や会計は、最後に人間が署名して責任を取る仕事だから。だから最低限の英語読解を薄く入れるのは合理的。
反対に転ぶ条件:英語部分が膨らんで、実質「英語で落とす試験」になった瞬間。これは本末転倒。英語が強い人を集めたいのではなく、会計士としての判断力を測りたいはずだから。
最後に、この記事を一文に畳むなら、これです。
AI翻訳で英語の価値が下がったんじゃない。
「読めないまま翻訳を信じるリスク」の価値が上がった。
だから英語導入は、時代遅れにも見えるし、時代の要請にも見える。
僕はそのど真ん中で、「薄く・実務寄りに」入れるなら賛成です。
次回は、TOEIC800の現役会計士の僕がサンプル問題を解いた結果を惜しげもなくさらしてみようと思います。
乞うご期待!
