写真ジャンルの現在地 〜既存の分類を整理する〜
「ジャンルを提案する」とは、地図を描き直すということ
前回までの記事では、音楽・美術・漫画といった文化を参照しながら、ジャンルという構造がどう育ち、どんな役割を果たしてきたかを考えてきた。
そして、写真にもまた、そうした“感性を広げるための地図”が必要なのではないか──という問いを提示した。
でも、その前に一つ立ち止まっておきたい。
いま現在、写真にはどんなジャンルがあるのか?
そして、それらはどのように語られ、どのような機能を果たしてきたのか?
新しいジャンルを提示する前に、“今ある地図”を整理しておくことは、とても大切なステップだと思っている。
いま語られている写真ジャンルの分類
ジャンルという言葉はなくても、写真の世界にも「分け方」や「呼び方」は存在している。
代表的なものは、大きく分けて以下の4つだ。
(1)被写体による分類
風景、ポートレート、スナップ、鉄道、野鳥、マクロ、建築、商品撮影 etc.
雑誌やSNS、カメラ雑誌の文脈でもっとも一般的に使われる分類
特徴:撮影対象にフォーカスされており、趣味性や実用性に近い
(2)用途・目的による分類
報道写真、広告写真、ファッションフォト、ブツ撮り、ドキュメンタリー etc.
メディアや業界、職業的な視点から分類されたジャンル
特徴:情報や機能性を重視する文脈で活用される
(3)思想・文脈・写真史による分類
ピクトリアリズム、ストレートフォト、ニューカラー、コンセプチュアル etc.
美術館や評論、写真史において語られる文脈的ジャンル
特徴:表現の背景や思想、系譜を重視する専門的な分類
(4)SNSやカルチャー発の感覚的ジャンル
Lomography、フィルムルック(フィルムライク)、Lo-fi写真、エモい写真、映え(インスタジェニック)
ハッシュタグやトレンドによって生まれた感覚的な“ラベル”
特徴:明確な定義はなく、感性で共有されるジャンル感。SNS文化と強く結びついている
問題は「分類軸」が整理されていないこと
上記のジャンルはそれぞれ意味のある分類ではあるが──
実際には、分類の視点(軸)がバラバラに混在している。
たとえば「風景写真」は被写体ジャンルだし、「報道写真」は用途ジャンル。
「ニューカラー」は思想的潮流、「Lomography」は感覚・ツール起点のジャンル。
つまり、「ジャンル」として並列に語られているものの、分類軸が異なるのだ。
これにより何が起きるかというと:
初心者が「好き」を深めようとしたとき、方向性が見えにくい
表現の影響関係や系譜を語ることが難しい
写真を「見る」「語る」「広げる」ための言語が育たない
音楽なら「これはUKロックっぽい」とか「ジャズの影響があるね」と言える。
でも、写真では「これはどのジャンル?」と問われても、語るための“構造”が存在しないのだ。
既存ジャンルの良さと限界
◎ 「被写体分類」の良さと限界
例:風景写真、ポートレート、鉄道写真、野鳥写真
良さ:
「私は風景が好き」「鉄道を撮るのが趣味」といった、入口としてのわかりやすさがある。
趣味・実践と直結しやすく、写真を“撮る”行為と自然に結びついている。限界:
同じ風景写真でも、構図・色彩・思想・ストーリーが全く違う場合に言語化が困難。
写真の“表現”としての違いを掘り下げにくく、「何に惹かれているのか」が曖昧になってしまう。
◎ 「用途分類」の良さと限界
例:報道写真、ファッションフォト、商品撮影(ブツ撮り)
良さ:
「この写真は広告用」「これは戦場報道」というように、社会的な文脈と結びつけて語れる。
メディアや職業的な視点と連動しており、情報性も高い。限界:
用途ありきの視点になるため、作家性や美意識、スタイルの差異を語りにくい。
芸術的な探求や感覚の深掘りにはつながりづらい。
◎ 「写真史的ジャンル」の良さと限界
例:ストレートフォト、ニューカラー、コンセプチュアルフォト
良さ:
写真史における思想や文脈を共有でき、作家の系譜を語るうえで有効。
表現を“思想の地図”として見ることができる。限界:
初学者にとってはハードルが高く、現代的な感覚とややズレている。
また、柔軟な表現の混ざり合いには対応しにくい。
◎ 「SNS的ジャンル感」の良さと限界
例:Lomography、Lo-fi写真、フィルムルック、エモい写真、映え
良さ:
「この感じ、なんか分かる」と直感的に共有しやすく、参加しやすいジャンル。
ハッシュタグやアルゴリズムとの親和性も高く、現代的な感性を反映している。限界:
定義が曖昧で、蓄積されづらく、思想や系譜が生まれにくい。
感覚的な共感には強いが、言語化や構造化には向かない。
だから、「新しいジャンルの地図」が必要になる
今あるジャンルは、実用性・社会性・思想性・感覚性──
それぞれの側面で重要な役割を果たしてきた。
でも、それらを横断的に見渡す構造や、見ることを深める導線は、まだ存在していない。
写真を「見る文化」へ導くには、もう少し整理された、
“語れる構造”としてのジャンル体系が必要なのではないだろうか。
次回予告
Vol.5|写真ジャンルを再構築する
〜感性の“地図”を描くという試み〜
次回は、こうした既存の分類では捉えきれない“表現としての写真”に向き合いながら、
新たなジャンル体系を構築する試みについて語っていきます。
見ることをもっと楽しく、深くするために──感性の“地図”を描いてみようと思います。
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