Sky
もうどうしようもない気持ちを抱えて
この街で一番高い場所へ
上昇するエレベーターの中
焦る気持ちをごまかして
小さく息を繰り返して
どんどん小さくなっていく
眼下の街並み
人のいない方角へと急ぎ
手すりを握りしめて
体を乗り出して
さっき乗ってきた電車の線路
バスも車も交差点を渡る人たちも
わたしもそこにいた
左の山並みのその先は空にとけて
右はごちゃごちゃした街の向こうに海が見える
そのさらに向こうは対岸の街とまた山並み
目の前にはビルやマンションや
学校や公園や
寺院や店舗や病院が
ずっと広がっていて
空の向こうにつながっている
すっぽりと空が覆っている
真昼の眩しい光
騒がしい街の動き
雲が流れる
何機も飛行機が飛んでいく
私の心だけが
この世で唯一
今、動かないでいる物体のようだ
少し必死になって探す
あなたと私がいた場所を
あそこもあそこも
その日々を
もう私達がいた形跡なんて
もちろんなくて
私達の知らない人達がそこにいて
変わらず暮らしは営われて
深く息を吸えない
私達が別れたあの場所も
何も変わらずなんだろう
冷徹なほど
もうどこを見ても
私達はいない
空を眺めても
もっともっと
天から眺めても
もう私達はいない
明日になれば
あと一時間もすれば
こうやってここにいることも
消えて何もなかったと
あの街の角にも
あの駅にも
あのバス停にも
あの木漏れ日の下にも
もうどう足掻いたとしても
その事実に
やめてくれと
1人にしないでと
懇願して
台所を歩くアリに聞いてみる
動物園の彼らに聞いてみる
サバンナで獲物を仕留めた、仕留められた彼らに聞いてみる
ふと遠い目をして答えるのか
哀れみの目で見られるのか
相手にされないのだろうか
お互い顔を見合せて
やれやれ
愚問だよと
君はそんなことも知らないで
こんな高い建物を建てたのかい?と
何かを運ぶのに忙しいありは
立ち止まることなく列をなして
お腹の空かせた檻の中の彼らは次の餌を待ちわびている
見てわからんかな、獲物をくわえているから忙しいと一瞥
今捕らわれたからあんたに構う暇はないよと、こちらをうっすらと目を開けて答える
愚問だよ
愚問
ひとつ言うなら
あんたらは無駄な闘いをようするな
必要な時に必要な闘いをしなあかんわ
ほなな
まあ、あんじょうようやりや
彼らは行ってしまった
立ちすくむ私の頭上を
嘴に虫をくわえた燕が
すっと飛んでいく
一瞬私に目を向けて
エレベーターで降る
ポケットに入れた愚問を触りながら
改札を通る
シュークリームと豚まんを買って
電車に乗る
愚問の手触りを確かめながら
家路につく
