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第1回:医薬品開発のR&D投資 コースの概要

本コースは、医薬品開発でのR&D投資を場当たり的で直感的な判断ではなく、エビデンスと透明性をもって説明できる力を身につけることを目的にしています。

最終ゴールは、経営層に対して

「この投資案件はそれに値するかどうか」

という示唆を一枚で説明できるフライトデッキを自作できるようになることです。

この連載では腫瘍、希少疾患、Cell/Gene Therapyといったモダリティを例として進めていきます。

なぜなら、これらの領域は成功確率や期間構造などが大きく異なり、判断の前提が最初からズレやすいからです。

そして本連載では、公開ベンチマークを参照し、領域別・モダリティ別の差を明示的に扱います。

具体的には、臨床開発のフェーズ遷移確率やPhase I起点のLoA(likelihood of approval)はBIOの2011–2020集計を基準として使用します。

また、古典的なHayらの分析も参照します。

この理論はフェーズ別の成功率や領域差を理解する上で不可欠です。
[go.bio.org] [nature.com] [newdigs.tu...center.org]

本コースの思想のベースにあるものは

「時間を情報として使う」

ということです。

臨床試験の失敗がいつ起きやすいか、ということを連続時間で捉えると、フェーズの境界の平均だけに依存しない洞察が得られます。

生存時間解析を用いたR&Dリスクの連続時間モデリングでは、Phase II中盤にハザードが高まるという事実と形状がよく一致します。

この考え方は、単純なポイント推定や粗いモンテカルロ設定よりも、いつ資金需要が膨らむかを鋭く示してくれます。
[lifescifin.com] 

本コースで用いる指標は、rNPV(risk-adjusted Net Present Value)とEVSI(Expected Value of Sample Information)です。

rNPVは将来キャッシュフローを確率で薄め、割引率で時間価値を反映する価値の共通通貨です。

EVSIは、追加試験で不確実性をどれだけ減らし、意思決定の損失をどれだけ縮小できるかを貨幣価値で示します。

この二つを用いることで、追加投資か見送りか、限定的な拡大か段階投資かなどを、直感ではなく根拠で語れます。
[pauljansse...turelab.eu], [analysisgroup.com] [valueinhea...ournal.com], [discovery.ucl.ac.uk]

本コースでは、Pythonを用いて実際に手を動かしながら学習を進めていきます。

経営層がつまずく最大のポイントは、全体像が見えないまま個別案件の判断をしなければいけない点にあります。

そこでフライトデッキを用いて、ポートフォリオ全体の輪郭→資源制約→案件の位置→意思決定の根拠という順番で語れるようにします。

この順番によって意思決定の引きを作ることで、場当たり的な議論を防ぐことができます。

フライトデッキは次の四枚で構成します。
一枚目:「ポートフォリオの現在地と戦略ギャップ」
二枚目:「資源制約と主要マイルストンの時間配置」
三枚目:「候補案件のrNPV分布と下方分位(P10)」
四枚目:「追加試験のEVSIと段階投資オプションの価値」

本コースで扱う主要KPIを最初に定義します。

1. フェーズ遷移確率と LoA

これは外部ベンチマークに基づく前提の妥当性検証の軸となります。

医薬品開発の成功確率が社内で過大評価・過小評価されていないかを、外部データ(業界平均)と比較してチェックする基準のことです。

フェーズ遷移確率は、Phase I→II→III→申請→承認 へと進む確率のことです。

LoA(Likelihood of Approval)は、最初のフェーズから承認まで到達する総合確率のことです。

これによって、外部ベンチマークと比べて、

「ウチのプロジェクトは本当にこの確率で進むのか?」

を検証する 現実チェックの柱(妥当性検証軸)ができます。

2. ハザード曲線と到達時期分布

これは資金需要と人員負荷の山を予告するレーダーとなります。

開発がいつ進むかを予測することで、どのタイミングで「お金」と「人手」が大量に必要になるかを前もって可視化するツールです。

ハザード曲線は、ある期間に次フェーズへ進む確率の時間依存性です。

到達時期分布は、フェーズ進行が何年目に起きるかの確率分布のことです。

これにより、

  • 来期に治験開始が集中して予算が跳ね上がる

  • 人手不足が数年後に確実に起こる

などのリスクを早期に予告するレーダーとして機能します。

3. rNPV の平均と P10/P90

これは、上振れと下振れを同じ尺度で比較する物差しとなります。

プロジェクト価値(rNPV)が

  • 期待通り

  • 思ったより儲かる(上振れ)

  • 大きく損する(下振れ)

などという、三つの状態を 同じ単位(お金)で比較するための指標です。

平均 rNPVは、通常の想定(期待値)です。

P10は、悲観的だが起こりうる最悪寄りの価値です。

P90は、楽観的だがあり得る上側の価値のことです。

これらは、どこまで悪くなり得て、どこまで良くなり得るかを金額で比較できる物差しです。

4. EVSI と ENBS

この二つは、「試験に回す 1 円が投資判断に生む価値」を示す投資対効果のことです。

追加データを取る(=試験をする)ことで投資判断がどれだけ改善されるかを 金額換算する指標です。

EVSIは、データにより意思決定がどれだけ改善するか(価値)、

ENBSは、EVSI − 試験費用(ネットの価値)です。

つまり、試験に使う1円が、

「本当に投資判断の改善につながっているか?」

を示す 投資対効果の指標となります。

これは、とりあえずやってみよう、といったあいまいな判断を防ぐための理論的根拠になります。

5. モダリティ別補正項(例:CGT の相対 PoS)

これは比較対象の基準を揃える校正レバーです。

治療モダリティ(抗体、低分子、CGT 等)それぞれで、成功確率は異なります。

そこで、比較時に不公平が出ないように補正する調整係数のことです。

CGT は一般に成功確率やリスクの傾向が他のモダリティとは異なります。

そのため、そのまま他のモダリティと比較すると不正確な数値が出てきてしまいます。

そこで、CGT 補正係数で PoS を調整して、他のモダリティと比較ができる状態にします。

つまり、全プロジェクトを同じ土俵で比較するための校正レバー(同じ基準に揃えるための調整器具)ということです。

外部ベンチマークで前提の妥当性をチェックし、
進行タイミングを予測してリソース計画を立て、
上振れ・下振れを金額で評価し、
試験の価値を数値化し、
モダリティ差も調整してフェアに比較する。

[go.bio.org], [nature.com] [lifescifin.com] [pauljansse...turelab.eu] [valueinhea...ournal.com], [discovery.ucl.ac.uk] [newdigs.tu...center.org]


なお、参照するデータは以下のものです。
社外データ:BIOやNature Biotech系の集計と専門レポートで、初期前提の範囲を規定

社内データ:自社の過去試験、同一プラットフォーム、同一疾患の実績で、事前分布の中心

今回のゴールは、次の三点が自分の言葉で説明できることです。

一つ目は、腫瘍・希少・CGTでは、同じrNPVと言っても前提が違うので、その違いを最初に開示する必要があるということ。

二つ目は、フェーズ平均のポイント推定だけではいつ失敗しやすいかが隠れてしまい、資金需要の山が読みづらいこと。

三つ目は、EVSIという尺度を用いることで「追加試験の価値」をお金に換算できるので、直感ではなく根拠で設計を選べること。

本連載を通して、根拠を示しながら投資と開発を前に進められるようになりましょう。

※参考にした公開情報
臨床開発成功率とフェーズ遷移の包括報告はBIO 2011–2020です。

古典的な成功率分析はNature BiotechnologyのHayらです。

連続時間でのR&Dリスク推定はLife Sciences Financeのサバイバル解析回が導入として有用です。

rNPVの定義と実務的計算の解説はFuturelab教材や実務レビューが役立ちます。

EVSIの効率計算と実装ガイダンスはValue in Healthや方法論チュートリアルが参考になります。

Cell/Gene Therapyの相対成功率比較はNEWDIGSの研究ブリーフが参考になります。 [go.bio.org] [nature.com] [lifescifin.com] [pauljansse...turelab.eu], [analysisgroup.com] [valueinhea...ournal.com], [discovery.ucl.ac.uk] [newdigs.tu...center.org]

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