犬猫さんも尿検査は大事です。尿比重くらい見ろよという話。
実際に「多飲多尿」が主訴の時に何から始めればよいのでしょうか。
糖尿病を疑えば血糖値を測る。
クッシング症候群を疑えばACTH刺激試験をする。
尿崩症ならDDAVP試験をする。
もちろん、こうした検査は必要になることがあります。
しかし、その前に必ず確認しなければならない検査があります。
それが尿比重(Urine Specific Gravity:USG)です。
なぜか尿検査をやらずに、いろいろな検査に進む場合が多いと聞きます。
確かに犬猫さんの尿をとってきてもらうい、尿検査をするのは面倒ですが
侵襲性が少なく、コスパも非常にいい優秀な検査です。
だから人の健康診断では必ずやりますよね?
なぜ尿比重が重要なんでしょうか?
尿比重は、尿の濃さを表しています。
つまり、腎臓がどれだけ水を再吸収できているかを反映する最も簡単な指標です。
前回までで説明したように、尿を濃縮するためには、
腎髄質の浸透圧勾配
バソプレシンの分泌
集合管の反応性
この3つが正常に機能している必要があります。
もし尿比重が十分高ければ、少なくとも尿濃縮機構はある程度保たれていることになります。
逆に尿比重が極めて低ければ、尿濃縮機構のどこかに異常がある可能性が高くなります。
尿比重は最初の分岐点になります
診断アルゴリズムてのが存在します。
こうなったらこういけという道標みたいなもんです。
最初の分岐は尿比重です。
例えば、犬では1.020以上
猫では1.025以上であれば、少なくとも尿濃縮能はある程度維持されていると考えられます。
一方、それ未満であれば、多飲多尿の原因を積極的に探す必要があります。
もちろん、この数値だけで診断はできませんが、「次に何を考えるべきかを決める非常に重要な情報になります。
高張尿なら多飲多尿ではない可能性が高いです
例えば、犬で尿比重が1.045、猫で1.060あったとします。
このような症例で、本当に持続的な多尿が起きている可能性は高くありません。
十分に尿を濃縮できているということは、バソプレシンも働いており、腎髄質浸透圧勾配も維持されている可能性が高いからです。
もちろん例外はあります。
糖尿病では尿糖によって尿比重が高く見えることがあります。
しかし、少なくとも尿比重が十分高い症例では、尿崩症や原発性多飲はかなり否定的になります。
しかも糖尿なら尿糖と血糖値で割と見逃さないので除外は楽だと思います。
問題になるのは低張尿です
一方で、犬で1.008猫で1.010みたいな尿比重であれば話は変わります。
これはほぼ水に近い尿ですね笑
つまり、腎臓はほとんど水を再吸収していません。
この時点で考えるべき疾患は、前回説明した4つの病態になります。
・浸透圧利尿
・中枢性尿崩症
・腎性尿崩症
・原発性多飲
ここから初めて鑑別診断が始まります。
「低い尿比重」だけでは診断できないです
ここで注意したいのは、尿比重が低いこと自体は診断ではないということです。
例えば、クッシング症候群でも慢性腎臓病でも高カルシウム血症でも子宮蓄膿症でも尿崩症でも低下します。
つまり、低比重尿は結果であって原因ではありません。
ここで「尿比重が低いから尿崩症」と考えてしまうアホはいないと思いますが一応ですね。
尿糖は必ず確認しましょう
尿比重の次に確認するのが尿糖です。
これは非常に合理的です。
糖尿病では、グルコースが尿中へ排泄されることで浸透圧利尿が起こります。
もし尿糖陽性であれば、その時点で診断はかなり絞られます。
逆に尿糖陰性なら、その他の原因を考えていきます。
つまり、尿検査だけでもかなり診断が絞れてきます。
次に探すべきは「バソプレシンが効かなくなる病気」です
尿糖が陰性で、なおかつ尿比重が低いというときに最も多いのが、後天性腎性尿崩症を起こす疾患です。
具体的には、
・クッシング症候群
・慢性腎臓病
・高カルシウム血症
・低カリウム血症
・腎盂腎炎
・子宮蓄膿症 などです。
つまり、DDAVP試験よりも前に、これらの疾患を除外しなければなりません。
実際には、中枢性尿崩症より、これらの疾患の方が圧倒的に遭遇頻度は高いからです。
「珍しい病気を探す前に、よくある病気を除外する。」
これは多飲多尿診断でも非常に重要な考え方です。
(というか全ての病気でそうですね)
血液検査もするべきですが、その前に
多飲多尿を見たら、CBC血液生化学電解質尿検査
ここまではほぼ全例で必要になります。
しかし、当たり前ですが、身体検査も非常に重要です。
例えば、腹部触診で子宮の腫大はないか。
リンパ節はどうか。皮膚の菲薄化はないか。筋萎縮はないか。白内障はないか。腹囲膨満はないか。
こうした身体検査所見が、内分泌疾患を疑う大きな手掛かりになります。
また、腹部超音波検査では、腎盂拡張、副腎腫大、子宮病変、肝腫大など多飲多尿の背景疾患を見つけられることがあります。
「尿崩症」は最後に診断できます
尿崩症は、最後まで残ってしまう鑑別診断です。
糖尿病ではないし、慢性腎臓病でもないし、クッシング症候群でもないし、子宮蓄膿症でもないし、高カルシウム血症でもないし、低カリウム血症でもないし、腎盂腎炎でもない。
ここまで除外して初めて、尿崩症や原発性多飲を本格的に疑います。
この順番を守るだけで、診断精度は大きく向上します。
