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犯した罪をコンビニの敷地内で もみ消した午後

随分久しぶりにコンビニのドアの向こう側へ足を踏み入れた。

左側には珈琲のドリップマシーンが並んでいる。まっすぐ進むとおにぎりの棚があり そこまでの間にレジカウンターがある。カウンター背面の棚には煙草がずらりと並べられている。

一度カウンター方向に目をやりながら店員を確認する。 緊張を悟られまいと買いもしないのに右奥のドリンクコーナーへ歩を進める。
物色するフリをしながら腹式呼吸をする。そう 胸式呼吸でなく腹式呼吸だ。少し整ったところでカウンターへと足を向ける。
カウンターにはベテラン店長らしきアラフォー男性がこちらに背を向けた状態で何やらやっているようだ。

このベテラン店長に任務を与えることにした私は ようやくレジにたどり着き声をかけた。

「すみません」

予想に反し私の呼びかけに呼応したのは二十歳前後のキュートな女性だった。この娘には この任務は荷が重すぎるのではなかろうか。なんてことが頭をよぎったが 勿論そんなことは悟られまいと冷静な老紳士に成りきる。

「はい」と応えた彼女の笑顔が大根役者のような私の芝居をあざ笑っているかのようにも見えるのはきっと心が汚れてしまっているからだろう。

煙草なんて吸わなさそうな彼女にこの任務を遂行することが可能かどうか 甚だ疑問が残るが いたしかたあるまい。覚悟を決めた私は口を開いた。

「マイルドセブンの…」

そう言いかけたところで 彼女の綺麗に描かれた眉が一瞬怪訝な表情を浮かべたのを私は見逃さなかった。

「いや失礼。メビウスのスーパーライトを一箱いただこうか」

さあ どうだ。君には荷が…そう思いかけるや否や

「ボックスとソフトどちらですか?」

なんと?私は彼女を侮っていた。私の驚きはきっと彼女に悟られたに違いない。この小娘にメビウスと言ってもすぐには分かるまい。どうせ 何番の煙草ですか?と質問されるだろうと目視するのに必死だったのだ。全く恥ずかしい。そんなことを思っていた私の偏見というやつだ。

「そ… ソフトをいただけるかな」

失態を隠しつつ おもむろに千円札を取り出し会計を済ませた。おつりはチップだよとクールに立ち去ることもできず ありがとうという感謝の言葉に謝罪を潜ませてレジの彼女に別れを告げた。

そそくさと逃げるように自動扉を抜け 店外左側に設置された喫煙所へと急いだ。幸い 喫煙所には人っ子一人いない。

プルタブを引き外装の保護フィルム上部を取り除く。 ゴミ箱は店内にしかないことを今更ながらに思い出してポケットにしまう。
舌打ちはしないし 灰皿の中に放り込むなんてことはあり得ない。
罪の上塗りはさすがにもう御免だ。

破かないように最善の注意を払い インナーライナーを丁寧に剝がしつつ やっとソフトパックに詰め込まれたテイラーメイドのフィルター背面を拝むことができた。剥がしたインナーライナーの反対側を随分とご無沙汰してるデコピンの要領で中指を使い数回弾く。

デコピンと言えば 大谷さんちのデコピンは元気だろうか。
なんてことを考えながら。


指で弾くと内部の空気は剥がされた出口へ押し出される。
同時に指の衝撃によりパック本体は下方へと動く。
煙草は慣性によりその場に留まろうとする。
これによって煙草はポンっと顔を出す。

一番飛び出している煙草を人差し指と親指で摘み取る。
取り出した一番福の大吉煙草を口に咥える。

この大吉煙草を吸うことで重ねた失態が帳消しになるような気がした。


無風の喫煙所でも反射的に左の手のひらで風よけを形成する。車内に放置していたガスの残り少ない電子ライターを親指で押し込んだ。

カチッという音とともにぼわっと炎が上がる。


吸い込みと同時に火のついた先端は橙色の輝きを放つ。
瞬間的に千度を超えたそれは美しくも儚く灰へと変わっていく。
口の中まで吸い込んだ煙を一気に吐き出す。
今度はゆっくりと深呼吸をするように吸い込む。
気道を通り一気に左右の肺へと吸い込まれていく。
美味さを感じることもなく 吸い込んだものを拒むように吐き出した。
眩暈ではないけれど 脳が酸欠を起こしていることを実感する。

空を仰ぎ ゆっくりと吐き出された紫煙をぼんやり眺めていると どう見ても紫色ではないことに気付き 誰が紫煙なんて言葉を考えたんだろうと不思議に思った。吐き出す煙とともに自分の中の黒い感情も吐き出してしまいたかったが 空気中に漂う煙はやけに白く見え 吐き出してしまったのは わずかに残っていたかもしれない純情な心のような気がして 空へ消えゆく煙にこれまでの人生をかさねて さよならを告げた。

ふと ガラスの向こうの店内へ眼をやると ちょうど成人誌のコーナーで立ち読みをするサラリーマン風の男と目が合った。
反射的に視線をそらし もう一度煙草をふかしながら 喫煙という行為がもしかしたら地球温暖化を進めているのではないかと半分程吸った煙草をスモーキングスタンドに押し付け もみ消した。



では 素敵な1日を✨


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いつもありがとうございます。


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