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エイハブの六分儀

【春の星空案内】

地球が太陽を公転するごとに季節は巡り、ねむっていた生命が草木とともに一気に息を吹き返してきましたね。花々や新緑が溢れ世界が色をとりもどしています。
この時期コスモプラネタリウム渋谷の閉館後、お客さまが帰って誰もいなくなったドームの床にも桜の花びらが散っています。訪れる方の頭や肩にふわりと舞い降りた花びらでしょう。皆さんが運んできてくださる小さな春、これもまたコスモでの愛おしい春のワンシーンです。

さぁ、夜風に揺れる若葉のむこうに春らしい星空がひろがってきましたよ。
それでは、一緒に星を見上げてまいりましょう。

南をむいて空全体をぐっとあおいでみると、右手の西の空はにぎやかです。オリオン座ベテルギウスおおいぬ座シリウスこいぬ座プロキオンを結んでできる冬の大三角がまだ結べます。
この春、我が家の老犬が15歳を迎え寝たきり状態になっているのですが、これからシリウスとプロキオンが西に沈んでまた次に昇ってくる頃に、まだ一緒に過ごせているだろうか。あるいは、重力から解き放たれて冬の星々のあたりで自由に駆け回っているかな…。私事で恐縮ですが、今、少し切ない気持ちで2匹の犬の星座を見上げています。星の輝きは、喜怒哀楽のどんな感情にもそっと寄り添ってくれる。だからこそ、私たちは飽きることなく星を見上げるのかもしれません。

さて、冬の大三角のすぐ上に夜中の明星とよばれる木星が見事です。木星は惑星ですから恒星たちを背景にして輝く場所を変えていくので、星座には数えません。今頃の木星は、ふたご座のエリアに宿っています。占星術では木星は幸運の星とされているそうです。
さらに北よりからぎょしゃ座カペラおうし座アルデバランオリオン座リゲルふたご座ポルックスも冬の1等星たち。いよいよ明るい彼らにさよならを告げる時期です。

左手の東の空には、ひかえめな春の星たちが昇ってきています。うしかい座アルクトゥールスアークトゥルス)、おとめ座スピカ、そしてしし座デネボラをつなげば春の大三角で、そのうちアルクトゥールススピカを対に見立てて日本では春の夫婦星と呼ばれています。ちなみに、デネボラは2等星ですので街中で見えたらラッキーです。

冬の星空と比べてみると春は地味で眠たげな空模様、気温があがるにつれて空気中の水蒸気、花粉や塵も増加し視界がぼんやりと霞んでしまうのも春ならではの特徴です。そんな中で見つけられるからこそ、1等星がより印象的な輝きに感じられるのでしょうね。

あたまの真上あたりの星がほとんど見えない暗がりに、かに座が身を潜めています。暗く小さく地味めではありますが、古くから描かれている由緒正しい星座のひとつです。4つの4等星でできる小さな四角の甲羅の中には、星の集団プレセペ星団が。M44とナンバリングされているメシエ天体です。この双眼鏡でのぞくのにオススメの散開星団には年老いた星が多く、最初に発見したのはかのガリレオ・ガリレイでした。肉眼だとぼんやりと靄のように見え、天国への出入り口と考えられていました。中国では、積み重ねられた死体からたちのぼる妖気と考えられ東洋占星術で、このあたりは鬼宿きしゅく)と呼ばれています。

©ミツマチヨシコ

かに座は、化けガニのカルキノスの姿とされています。レルネーの沼で親友のヒュドラとひっそりと暮らしていましたが、ギリシア神話に登場する英雄ヘラクレスの第2の冒険で2匹仲良く退治されて星になりました。カルキノスは親友の危機に助けに飛び込んだ末、ひとふみであっけなく星になってしまいました。うみへび座になったヒュドラは9本もの首が生えた怪物で今では大蛇の姿、この時期の南の低い位置ににょろっと隠れています。88星座の中でもっとも大きな星座の心臓の位置ではアルファルド、孤独な星と呼ばれる2等星がひかえめに輝いていますが、あわれ蟹せんべいのようにぺしゃんこになった親友がすぐそばに寄り添っていますから寂しくないはず。

ヘラクレスの冒険で最初の怪物退治に登場するのが、ネメアの谷の人食いライオン。通り過ぎる人をパクリぱくりと人のみにしていきました。体は鋼のうろこに覆われ矢も刀もききません。こん棒でなぐってもノーダメージ。最後にヘラクレスが首を三日三晩締め上げてようやくしとめることができました。これが、かに座の後に続いてのぼってくるしし座です。
ヘラクレスが夏の星座のヘルクレス座として昇るころ、かに座&うみへび座&しし座の怪物トリオはそそくさと西へと逃げていきます。勘弁してよとボヤキながら足早に通り過ぎる春の可哀そうな化け物たちを、なぐさめてあげてください。

©ミツマチヨシコ

さて、しし座にもみどころがたくさんありまして。まずは何と言っても星座のカタチが魅力です。ていねいに星を結ぶと、横を向いたライオンの姿が見事に浮かび上がってくるのです。ししの大鎌と呼ばれる星のならびで、たてがみと心臓を描きます。昔からプラネタリウムではハテナのマークとご紹介するヘルメットのような丸い線と1等星のレグルスが目印です。折りたたんだ前足と背中とお腹のライン、お尻から尻尾へは小さな直角三角形で尻尾の先でかがやくデネボラはしっぽの星です。レグルスは小さな王さまという意味で、別名コル・レオニスはライオンの心臓を意味します。全天で21個ある1等星の中で最も暗くても、太陽の通り道である黄道上で輝いていることから古くからロイヤルスターとして重要視されてきた星で、ひかえめながら白く高貴な輝きは目を引きます。
79光年彼方の星ですから、第二次世界大戦後まもなくに星を出発した光を見ていることになります。当時の世界中の人々が戦争は二度とおこさないと誓ったはずなのに、今も戦火が絶えないばかりか新たな戦争の火が消える気配すら感じられません。

©ミツマチヨシコ

しし座に続いてのぼるおとめ座は、正義の女神アストライア。世界の平和のために最後まで尽力したにも関わらず、人間同士が争いをやめないことを悲しみ天に昇って星座になったとされています。どんな想いで今のこの地上の様子を見つめているのでしょう…。おとめ座が左手にもつ麦の穂先の純白のスピカが、いよいよ春本番から初夏へと私たちを連れていってくれるようです。

春のラスボスは、しし座の北よりに7つの星を結んでできるおなじみの北斗七星でしょうか。ひしゃく星は本当に大きくて、たくさんの星を掬えそうです。今年の春は雨が多いのは、あのひしゃくに穴があいて漏れ降ってきているのかもしれません。北斗七星は、おおぐま座のおしりからしっぽにかけての星のならびで、さらに北よりにはその子どものこぐま座も。しっぽの先、2等星の北極星もいつもながら健在です。

最後に、惑星の動向チェックしておきましょう。忘れないように、スケジュール帳に記入しておいてくださいね。

4月19日(日)夕暮れ時の西の空で、宵の明星金星三日月が寄り添って輝きます。
4月20日(月)明け方の東の空には、水星火星そして土星が集合。太陽が近いので明るく見つけるのは難しいかもしれません。
23日(木)には、半月前の月が木星のすぐ近くに迫ります。

5月13日(水)~15日(金)にかけて、明け方の東で繊月が土星と火星のそばを、
18日(月)から21日(木)には、夕方の西で、金星と木星のそばを三日月前後の月が通過します。
5月31日(日)2回目の満月(ブルームーン)は今年最小です。

6月9日(火)金星と木星が接近するのは、夕暮れの西の空です。
17日(水)の夕方も、月と水星さらに木星と金星が会合と、かなりにぎやかです。シャッターチャンスをお楽しみに♬

4月2日(日本時間)に、ついにアルテミスⅡオリオン宇宙船が無事に月へのテスト飛行の旅を成功させて、4月11日に地球に無事帰還!アポロ計画以来途絶えていた月からの地球の眺めを味わうことができましたね。月の裏側と三日月のような地球の映像にすっかり魅入ってしまったのは、私だけではないはずです。感動しっぱなしでした♪

©NASA

春の星空案内は、月まで旅した初の女性宇宙飛行士のクリスティーナ・コックさんのInstagramに投稿された彼女の言葉の一部をご紹介して、しめくくりたいと思います。

地球が太陽を完全に隠す皆既日食、その時の暗黒から輝きを取り戻す地球の眺めに添えられた言葉です。

The dark side was alive.
Auroras dancing green over the poles like headphones,
thunderstorms playing the drums in lines across continents.
A perfect bow of light, everyone’s sunset.
(日食中、影になる地球もまた)生きているかのようだった。
極地の上空では、ヘッドフォンみたいな緑色のオーロラが舞い
大陸を横断する雷雨がドラムを奏でていた。
完璧な光の弓、それはみんなの夕焼けだった。

Instagram: Astro Christina

女性の感性を通して語られる地球の姿…新しい宇宙時代の到来を感じます。
これからもアルテミス計画を楽しみに応援していきたいですね。

最後まで、たっぷりとお付き合いありがとうございました。
それでは、星の輝きとともに素敵な春そして初夏をお過ごしください。

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」
幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。
コスモプラネタリウム渋谷 https://shibu-cul.jp/planetarium


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