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まっすぐS2-10|紙なし・水なし・ドアなし!? フィリピンのトイレで気づいたこと

草原にゲル(遊牧民の家)が並ぶ穏やかな風景の中で、年配の男性がやさしく手を振っている。
 薄いベージュのシャツを着て眼鏡をかけ、穏やかな笑顔を浮かべている。
 背景には青い山並みと広い空が広がり、南国というよりもモンゴルの大地のような、のびやかで温かな空気を感じるイラストGIF。

🌏 酒井先生のまっすぐ手記|旅で出会った、人と知恵とユーモア
新潟県長岡市(栃尾)生まれの酒井先生。

青年海外協力隊としてフィリピンで理数科教師を務め、長崎大学熱帯医学研究所での研修を経て、1997年に酒井歯科医院を開院しました。

地域医療に長く携わるかたわら、旅先で出会った人々との交流や、異文化に触れて感じた驚きや学びを“まっすぐ”に綴っています。
実は先生には、少し不思議な引き寄せの逸話があります。

ある日ふと、「ペン吉さん、僕の本を書いてくれないかな…」と思っていたそうです。
すると翌年、本当にペン吉(著者)が原稿を携えて現れたのです。

そして出版後には、本の中に登場した人物から4年ぶりに連絡が入り、再び一緒に旅をすることになりました。

エッセイシリーズ『酒井先生のまっすぐ手記』は、東南アジアやモンゴルでの体験を描いたドキュメンタリー紀行。
ユーモラスな語り口と、現地の人々との温かな交流が多くの読者に愛されています。

✏️ 一部エピソードはnoteでも公開中。
Kindle版では未公開の旅話も多数収録し、“心で旅するシリーズ”として広がり続けています。

やさしい雰囲気の女性が、手のひらにのせた黄色い鳥のキャラクター「ペン吉」を大切そうに抱き、肩には青い小鳥「ことりさん」がちょこんと寄り添って微笑んでいる、あたたかいタッチのイラスト。

🐥 ペン吉とは?
育児や小さな日々の気づきを大切に綴る、Webライターです。
黄色い鳥「ペン吉」と青い鳥「ことりさん」と一緒に、絵本や手記づくりを楽しんでいます。

Kindle絵本では、
「実用・工作・趣味」1位、
「学習まんが」3位、
「絵本」4位 にランクインした作品も出版。

Kindleをはじめたきっかけは、命を救ってくれた歯科医師・酒井先生の
「旅の手記を本にしたい」という願いを形にしたかったから。
先生のまなざしや出会いの温度をそっとすくいあげ、手紙のように届けることを心がけています。

読んだ方のこころが、すこしでもあたたかくなりますように。



旅先の「トイレ」は、ふだん意識しないのに、いざ違う文化に触れると、驚くほど生活の中心に顔を出してくる。

フィリピンで暮らし始めた頃の私は、まさに“トイレの文化差”に翻弄され続けた。
今日は、その思い出を少し語ってみたい。


最初の敵は「水が出ないトイレ」だった件

フィリピンで最初に泊まったホテルは、至って快適だった。
「これなら大丈夫だろう」
そう安心した翌日、JOCV(青年海外協力隊)の受け入れ機関で研修が始まった。

ところが——。

はじめて研修所のトイレに入った瞬間、言葉を失った。

「……これは、どうしたものか」
水が出ない。紙もない。小ならともかく、大となると妙に気が引ける。

女性なら、私以上に大変だったに違いない。
生活の基本である“朝の用足し”も、安心してできる環境がない。

日本なら喫茶店に入ればどうにでもなるが、当時のフィリピンではそう簡単にはいかなかった。

そのうち私は「今日は、どこで用を足そうか」と、朝から考えるようになった。
しかし驚くべきことが起きた。

――いつの間にか、私は外出中に“催さなくなった”のだ。

「これは……環境に適応したということなのか?」
自分でも不思議な変化だった。安心できる場所がないと、人は無意識のうちに体が反応するらしい。


紙に見放された日と、私の“チリ紙武装”宣言

任地のイロイロに移ってからも、トイレ問題は続いた。

水は出ない。紙はない。
「便座がない?……まあ、これも慣れた。」
そんな状態でも、暮らしているうちに知恵がついてくる。

下宿先では最初、紙が備え付けられていた。
しかしある日、私は油断した。
紙の有無を確認せずに入ってしまったのである。

「しまった……!」

その紙は、実は“下宿人を呼ぶ紙”でもあった。
紙がある間は「まだ住人がいる」という合図。
ところが、私が完全に住みついたと見るや、紙の補充が止まったのだ。

「高いからか……もう必要ないと思われたのか……?」

この日を境に、私は部屋に紙を多めにストックし、外出時にも必ずチリ紙を持ち歩いた。
個室の中で紙に見放されたときの、あの惨めさ。
一度味わうと、もう二度と同じ失敗はしたくない。

完全な“自己防衛”である。

フィリピンの多くの家は水洗で洋式だが、便座はない。紙もない。
一般家庭ではトイレはシャワールームの一角にあり、朝シャワーを浴びる文化とセットになっているようだった。

「この方法は衛生的にも悪くないな」
そう感じるほど、私も彼らの暮らしに染まっていった。

そして帰国後、私は思った。
「朝にシャワーを浴びない生活……なんだか落ち着かないな。」


ドアがない個室!? トイレは文化のフロンティアだ

私の通ったイロイロの大学、市内の大学のトイレはどこも似たり寄ったりだった。
便座がない、破れている、壊れている——そんなことではもう驚かない。

しかし、個室にドアがないのは参った。

入り口に向かって座り、目の前を人が通る。
「……これは、なかなかの難易度だ。」
欧米にも同じような形式のトイレがあるとは聞いていたが、日本の生活に慣れた者には大きな衝撃だった。

フィリピンの家庭では、家の中でトイレの優先度が低いようにも見えた。
豪華な家でも、トイレだけは小屋の裏にある、というケースにも出会った。

パラワン島の隊員の家を訪れたときのこと。
そこは地元の名士らしく、家は鉄筋コンクリートの立派な造りだった。
なのにトイレは——

家の裏の小屋。
10m ほど離れ、明らかに“外”の扱いである。

「ああ、不浄なものと考えられているのだろうな……」
文化が違えば、トイレの位置づけも変わる。

その落差に驚きながらも、私はふとベルサイユ宮殿の話を思い出した。
「昔はトイレがなかったそうだ」
そう聞けば、多少は納得もいく。

――トイレも“文化の象徴”なのだ。

そう思いながら暮らしていたが、結局、私は現地の人に聞く機会を持てなかった。
「あなたたちはトイレをどう考えていますか?」
その答えを知ることは、ついに叶わなかった。

薄いロール紙と小さなゴミ箱が並んだトイレ備品の写真。紙を流さず捨てる文化の違いを示すイメージ。

結び:豪邸なのにトイレが小屋…文化とは奥深い

ふだん無意識に使っているトイレも、国が変われば文化が変わる。
戸惑い、笑い、慣れ、そして気づき——。

私にとってフィリピンのトイレ事情は、生活への適応とは何かを教えてくれた大切な思い出である。


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
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酒井先生の旅のエッセイ三冊が並んだ画像。
左から『優しい国を、歩いてきた。』『バイラルラーモンゴル。』『まっすぐな旅の記録』の表紙が立てて配置されている。
ベトナム・ラオス・モンゴル・フィリピンなど旅先の写真が表紙に使われ、下部には “酒井先生のまっすぐ手記 ― やさしさを旅する三冊 ―” と書かれている。

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📚 酒井さんのまっすぐ手記
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