展示会デザイナーの「将来像」と「道筋」をしっかり明示しておく。「成長の3段階」とは?
展示会業界の業界誌「見本市展示会通信」に連載中の「展示会デザイナーはどうあるべきか」。第6回の記事は、展示会デザイナーの「成長」について。一見「単調」で「息切れしやすいデザイン業務」である展示会デザインという仕事。この展示会デザインという仕事を長く続けていくために、どんな能力を持っていればよくて、どんな成長段階をたどればいいのか。今回は、この辺りの説明を行います。
「デザイン」というと、「若手の感性で斬新なものを・・」とつい考えてしまいがちですが、展示会デザインにおいては、必ずしもそうではありません。それは展示会デザインが単に「アート的なデザイン」が必要とされているのではなく、多額の金額を投じて展示会に出展する出展社を成功させなければいけない、そんなデザイン(ビジネス系デザイン)を考えることができる人こそが求められているからです。経験値の浅い人ではなく、「成功させる力」を持った「熟練型」デザイナーである、このことが展示会デザイナーのデザイナーとしての特徴の1つでしょう。
第6回/デザイナーの「成長」
前号において、展示会のデザイナーは単に図面を描く能力だけでなく、「出展者を成功させる能力」として、キャッチコピーを考案する能力、陳列を考える能力、接客の方法をアドバイスする能力など、むしろ「図面を描く能力」以外の能力を持つことが大事、という点について触れた。
〇デザイナーが様々な能力を持つべき理由
このように書くと、「キャッチコピーなど、それらのことは外部の専門家に頼めばいいではないか」と考える方もいらっしゃることだろう。しかし、この考え方には基本的に反対だ。その理由は主に3つある。
1つ目は、予算の問題だ。外部に頼むとそれだけで多額の外注費を必要とする。内部の別部署であっても人件費はかさむことだろう。クライアントが大手企業であったり、巨大なプロジェクトだったらそれぞれの専門家でチームをつくる、という可能性が考えられる。しかし、展示会ブースのほとんどは、そのような巨大な予算を有するプロジェクトではない。そして、展示会に出展する多くの企業は日本全国の中小企業の方々だ。展示会出展において使える補助金の制度には限界がある。少なくとも現段階では、補助金を活用したとしても、様々な外部ブレーンに都度都度お願いし、その金額を請求する、ということは現実的ではない。
2つ目は、必要とするそれぞれの能力について、実際には「その筋の専門家」に頼むほどのことではない。又は、頼んでも上手くいかない、という点だ。実際に私はキャッチコピーや陳列、接客の指導などを行っているが、これらには「展示会ブース独自の考え方」がある、と感じている。日頃作業をし、その在り方を突き詰めていくと展示会ならではの考え方があることに気が付く。だから、例えばキャッチコピーの考案をコピーライターに依頼しても、展示会の経験値がなければ、おそらく上手くいかない。集客を考えた場合、展示会のコピーにはその内容だけでなく、表記方法にもコツを必要とする。商品陳列について、VMD専門家に頼んでも大抵の場合上手くいかない。展示会の陳列は、展示会ならではの特徴があるからだ。実際に、これまで出展者がこれらのことを外部に依頼している事例を多く見てきたが、集客的にうまくいっている例を見たことがない。
1つ1つの言葉を聞くと、あまりにも専門的で習得不可能な項目に感じるだろうが、展示会ブースに特化した部分だけで考えれば、実は思っているほど複雑ではない、と感じている。
そして理由の3つ目は、プロジェクトを牽引し、出展者を成功させる立場にある者は、常に出展者に対してアドバイスを与えられる存在でなければいけない。だからこそ、出展者からどんな質問が来ても、「それはですね・・」と瞬間的に的確な返答ができる必要がある。そのためにもそれぞれの専門知識を外部に頼るのではなく、自分自身で理解し、使いこなせるようにしていることが大切だ。
〇デザイナーの3つの「成長段階」
では、このような総合的な「出展社を成功させる能力」を持つデザイナーをどのように育て上げればいいのだろうか。
私は、デザイナーを3つの「成長段階」に分けるとよいのでは、と考えている。
まず、新入社員時は、基本的な技術として、図面を描き上げ、立体を把握する能力を習得する段階だ。この段階では、会社に籠ってひたすら図面を描き、CGを作り上げることを繰り返すこととなる。先にも述べた通り、展示会の図面は建築・インテリアに比べるとかなり簡単だ。だからこそ、図面の勉強をしてこなかった人にでも意思次第で踏み込める領域と言える。
この基礎技術が出来上がると、次は「現場観察と思考」の段階だ。自身で考えたデザインが実際にどうだったのか。展示会の会期が始まってから、必ず現場で観察する時間を設ける。そして、最終日の撤去前にも会場に赴き、出展者と会話し、その反応を確認する。デザイナーの成長段階において、この「現場で観察すること」は極めて大事な行動だ。私も、かつては自身でデザインしたブースを、会期が始まってから2,3時間観察をし続けた。そして、製本した図面に、気が付いた点を書き込み、改善点を書きとどめておいた。これが、後に出展社にアドバイスを行う基盤となっている。
現場での観察と試行を繰り返すと、数年もすれば、展示会場内のブースを見た瞬間に「何が足らないか」が見えてくるようになる。この段階になると、出展者に様々なアドバイスを言えるようになる。これが成長の第3段階であり、プロジェクトを牽引できる「ベテランデザイナー」となる。
第3回の記事の際に、展示会業界のデザイン業務は、その質が故に「息切れしやすいデザイン業務」であることを述べた。そして、仕事の意義も目標も見つけられないデザイナーはいずれ息切れして会社を去ってしまうことを選んでしまう。
このことを回避する意味でも、「デザイナーの将来像と道筋」は明確に定め、明示しておくことが必要だ。そして、それは会社の、経営者の責任として、体制として作り上げる必要がある。
デザイナーが実質的な主導となり、出展者の「成功」を実現するプロジェクトチームが出来上がると、出展者(=クライアント)の満足度もあがり、結果的にも会社をプラスの方向へと導いていくことだろう。そのためにも「デザイナー」は「成功させる能力」をもった存在であってほしい。それが展示会業界のデザイナーのあるべき姿ではないだろうか。
※本記事は、展示会業界の業界紙、「見本市展示会通信」2026年1月15日号に掲載してものを加筆修正してものです。本連載は、2026年12月までの連載を予定・進行しています。(WEB版では、2回を1つにまとめて掲載されています)
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