「デザイナー」ではなく「オペレーター」/展示会業界のデザイナーの現状とは?
展示会業界の業界誌「見本市展示会通信」に連載中の「展示会デザイナーとはどうあるべきか」。本記事では、この連載記事を一般の方々にも向けて、加筆修正を加えたものを再掲しています。
さて。デザイナーといっても、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、インテリアデザイナーなど、様々な種類があります。
「空間デザイナー」に絞ってみると、建築家、インテリアデザイナー、店舗デザイナー、インテリアコーディネーター等、ここでも多岐に渡ります。
そのような中で、展示会をデザインするデザイナーはどのような特徴があるのか。これから解説を行っていく前に、まずは展示会業界において、展示会デザイナーが現在どのような状況にあるのかについて、今回はお伝えしています。
第3回/デザイナーの「現状」
前回の記事では、展示会が事業的に成功をするためには、デザイナーが重要であることをお伝えした。現在の展示会業界の多くのプロジェクトチームは「営業」が中心となって動いている。「何を当たり前な」と思われるかもしれない。しかし、展示会に出展する企業から仕事を依頼される、ということは、多額の費用を掛けて出展する出展企業の重大事、その成功支援を期待されている、と言っていい。そんなプロジェクトチームを引っ張っていくのは、本来的に「デザイナー」であるべき、という内容だ。
〇なぜ、デザイナーなのか。
なぜデザイナーなのか。
それは、成功の根幹を成す「展示ブース」や「会場デザイン」を実際に考えるのがデザイナーだからだ。
図面を引く、ということは単に絵を描くことではない。それぞれの寸法がどうあれば使い勝手がよくなり、来場者に訴求できるのか。それをミリ単位で考える。出展者の要件をシビアに検証し、細部にわたって考える。プレゼンに際しては、その時点で完成したプランをクライアントに伝えることになるが、それをもっとも饒舌に、そして思いを込めて伝えることができるのは、細部まで検討し、個々の決断を行っているデザイナー本人であるはずなのだ。この「細部まで考える」際には、当然、出展者の立ち振る舞い、獲得すべき目標など、単にブースのこと以上のことを考えあわせて、プランを決めていく。
つまり、ブースをデザインすることは、出展者、ひいては展示会自体の「戦略」を考える、ということに他ならない。これは、営業担当やブース設営担当には決して及ばないデザイナーならではの業務の特色だ。だからこそ、デザイナーの在り方、プロジェクト内での立ち位置が展示会成功には重要な因子となる。
しかし、現在の展示会業界では、必ずしもデザイナーがプロジェクトの中心に立っているとは言い難い風潮がある。
〇デザイナーではなく「オペレーター」
参考までに、当社が展示会業界のデザイナーに関して、同業の展示会関係者や、出展者等からよく聞く言葉を列挙してみよう。
まず、展示会業界の方からは、「デザイナーは現場に行く暇はない」「営業についていって打ち合わせに参加する」「細かな詰めなどは営業担当が行い、デザイナーはすぐ別の物件に着手する」と言った言葉をよく聞く。
一方で出展者からは「言った通りにはしてくれるが、提案がない」「全然会場に来てくれない」「展示会が始まると一切顔を見せないし、見に来もしない」といった声が多く聞かれる。これらの状況・言葉に思い当たる業界の方も多いのではないだろうか。
このことから分かることは、展示会業界におけるデザイナーの多くは既にデザイナーではなく、単に「オペレーター」である、ということだ。肩書や部署名として「デザイン部」「クリエイティブ」と名付けられていても、実質は営業や設営担当の御用聞きであり、オペレーター的作業となっている。多少言い過ぎな表現ではあるが、展示会業界の人であれば、この感覚が決して大きく外れてはいない、と感じてもらえるのではないだろうか。
では、なぜこのような状況になっているのだろうか。そこには、展示会業界におけるデザイン業務の特徴が大きく関わっている。本連載では、このことを考えていくために、まずは展示会デザインという業務の特徴を見てみよう。
〇展示会デザインという業務の特徴
展示会は毎週のようにどこかで行われている。多くの展示会が2日間で設営を行い、3日間の会期の後に即日撤去が行われている。すると、展示会ブースのデザイン業務は、毎週のように、次から次へと発生しては、終了していく。おそらく空間デザインという業務の中でもっとも動きの速い部類に当たることだろう。
当然デザイナーは毎週のように新規案件が発生し、次から次へと物件をこなしていくことになる。しかも、同時に複数物件を処理することになるので、1日に様々な物件を検討することとなる。私も同じことを日頃繰り返しているわけだが、感覚的には、常に反複横跳びを全力で行っている、というのがイメージ的には合っているかもしれない。
このような状況を聞いて、読者の皆さんはどう感じるだろうか。おそらく、相当のやる気と、自身の中での目標設定、意義の設定ができなければ、ほとんどの場合、「息切れ」をしてくる。「息切れをしやすい空間デザイン業務」。これが展示会ブースデザイン、という業務の特徴となっている。
さて。それでは、このような業務状況の中で、もし、現場に赴いて自身のデザイン案を確認することもなく、展示会が終了した時の出展社の反応を見ることもなく、ただただ「オペレーター」として会社の中で作業のみを続けるとどうなるだろうか。さらには、会社の中での立場が低く、あまり優遇されていない(とデザイナーが感じる)場合、どうなるだろうか。
おそらく、早々に自身の仕事に見切りをつけて、会社を去ること、展示会デザインという仕事自体に見切りをつけることを選んでしまうことだろう。
第3回の今回は、まず現在のありがちな状況についてお伝えした。実際には、本稿の内容そのままずばり、という形ではないにせよ、これに近い課題を抱えている組織も多いのではないだろうか。では、どのような業務の形であればデザイナーは働く意義ややりがいを持ってデザイン業務を行えるのであろうか。また、そもそもデザイナーはどんな能力を持ち、どんな立ち位置で業務に向かえばよいのだろうか、ここ数回はこのようなことについて、考えていきたい。
次回は、第4回/デザイナーの「立ち位置」
※本記事は、展示会業界の業界紙、「見本市展示会通信」2025年12月1日号に掲載してものを加筆修正してものです。本連載は、2026年12月までの連載を予定・進行しています。
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