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鉛筆のあぜ道 Pencil Paths -夏のプロローグ-

【夏のプロローグ】


列車は、やわらかな光の中を走り続けていた。

舞い散る 桜を背に。


春に出会った 十二本の鉛筆。


それぞれの想いを 胸にしまうように、
アメリは静かに 窓の外を見つめていた。


やがて 列車は、大きなトンネルへ吸い込まれ、
暗い空間で 窓ガラスは鏡へと変貌した。


窓に映るのは、アメリと大人の女性、
図書室の本、
そして 鉛筆。


列車が揺れる音とトンネルの風斬り音が、
ふたりの時間を ゆっくりと運ぶ。


「季節も、トンネルをくぐるんだね」

アメリが小さくつぶやく。

女性は 穏やかにうなずいた。

「だから、景色が変わっても、旅は続いていくの」


その言葉が 列車の音と連れ立って流れる頃、
一筋の光が差し込んだ。


列車はトンネルを抜け、
まぶしい陽射しが、一気に車内へ流れ込んだ。


遠くに、

ーーー 太陽光を映した 海。

ーーー 力がみなぎらんばかりの 入道雲。

ーーー どこまでも続く 水平線。


窓を少し開けると、
潮の香りを含んだ風が やさしく吹き抜ける。


夏の光が、そこには広がっていた。


アメリは 机の上に置かれた一本の鉛筆へ、
そっと手を伸ばす。

少し日に焼けたような木肌。
指先に伝わる、さらりとした感触。


まだ 誰にも書かれていない時間が、
その一本に宿っているようだった。


「どんな 夏になるのかな」

アメリが鉛筆を見つめながら言う。

女性は窓の向こうの海へ目を向ける。

「きっと、景色が少し広くなる。」

「景色が?」

「春は、はじまりの季節だったでしょう。」

アメリは静かにうなずく。

「夏は、ひとつひとつの線が 大きくなっていく季節。」


アメリは 鉛筆をそっと握り、
ノートに芯先を置いた。


ゆっくり目を閉じると ーーー

ーーー 鉛筆は まるで踊るように
 
     新たな線が生まれはじめた。


列車は まとわりつく暑い風をかきわけ、

走り続ける。

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