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父が借りてきてくれた「ゴースト」

私の職場のビルは、廊下などの共用部に、小さな音量でインストゥルメンタルのBGMがかかっています。

その選曲がなかなかに面白いのです。

小林明子の「恋に落ちて」だったり。
ディズニー楽曲のなかでも、わざわざポピュラーではないところを攻めた、ヘラクレスの「ゴー・ザ・ディスタンス」(私はこの曲が大好きなのです)だったり。

ほう、オフィスビルだというのに、そう来たか。
心のなかで熱唱しながら廊下を歩きます。
困るのは、しばらくその曲に脳内をジャックされ、仕事中に知らず知らず口ずさんでいて、「ごきけんだね~」なんて言われてしまうことです。


ある日のBGMは、「アンチェインド・メロディ」でした。

イントロが流れた瞬間、私の記憶の奥の奥から、ある出来事が鮮烈に蘇りました。


私が高校生の時、デミ・ムーア主演の映画「ゴースト/ニューヨークの幻」が大ヒットしました。
「アンチェインド・メロディ」が主題歌でした。

これを観た友人が、どれだけ素晴らしい映画だったかを熱く語ってくれました。
……とは言え、友人が心を奪われていたのは、切ないラブストーリーではなく、ウーピー・ゴールドバーグ演じる霊媒師オダ・メイでした。

私も「ゴースト」を観て、友人と放課後にオダ・メイごっこをして遊びたい!

そんな斜め上な方向から、私のゴースト熱が一気に高まりました。


時は35年ほど前。
劇場公開を終えた映画を観るには、レンタルビデオ一択の時代です。

ところが、我が家には致命的な問題がありました。

ビデオデッキが、ベータだったのです。

当時、ベータはVHSに完全に駆逐される前だったとはいえ、もはや虫の息でした。
ベータは多くのレンタルビデオ店から姿を消し、近所で取り扱いがあったのは、グーチョキパーという小さなお店だけでした。
そのグーチョキパーでさえベータの扱いはぞんざいで、大人気の「ゴースト」も、たったの2本しか置いていませんでした。

時代に取り残されたベータ民による、たった2本の「ゴースト」をめぐる争いは熾烈を極めました。
いつ行っても貸出中です。
私は高台にあるグーチョキパーへ、うんざりするような坂を登って日参しましたが、いつも空振りでした。

そんなある日の夜。
仕事から帰った父が、カバンから見慣れないレンタルビデオ店の袋を取り出しました。

「ほら、ずっと観たがってたやつ」
うれしそうに私に差し出しました。
「え?!もしかして……ゴースト?」
たずねた私に、父は得意そうに深く頷きました。
職場の近くの店で見つけて、借りてきてくれたと言うのです。

「キャーーーー!パパ、ありがとう!」
大興奮で袋を開け、出てきたのは──


「妖怪天国 ゴースト・ヒーロー」


「ちがうぅぅぅ!!!」

天を仰ぎ私が叫ぶと、
さっきまであんなに誇らしげだった父は、
「ごめん……」としょんぼりしてしまいました。

……。


なので、観ました。
「妖怪天国 ゴースト・ヒーロー」。

それは洋画ですらありませんでした。
主演は草刈正雄さんで、妖怪退治ものの超B級映画です。
パッパラー河合さんや、妖怪役のラッキィ池田さんなど、ニッチで絶妙なキャストが脇を固め、ラスボスは、ぬらりひょんにしか見えない伊武雅刀さんでした。

半ば投げやりに観たこの映画、


………面白かったです。


もちろん後日、「ゴースト/ニューヨークの幻」も無事に観ることができました。
家族全員でテレビの前に集まり、ワクワクしながら観始めました。
そしてあの陶芸シーンで、無事にとてつもなく気まずくなりました。



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