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NPD劇場―ピエロの父|第七幕

劇場の明かりが落ち、私は帳簿を冷たく見つめる。
数字が、劇場の苦しさを物語っていた。
ふと、扉のきしむ音がする。
そこには、疲れ顔の父が立っていた。
私は、「今日はピエロなのね」と呆れる。
「飲みすぎたな、旦那は上機嫌でね」
そう言って、父は一枚の紙きれを差し出す。

薄明りのなか、私は紙きれをじっと見つめる。
「わかっているよな」の一言は、気にならない。
ただ、砂漠からの乾いた砂風が、劇場を吹き抜ける。
紙きれは舞い、机の上で数字と絡み合う。
父は、少し寂しげにため息をついた、「わかったよ」と。
砂が、数字を覆いつくしていく。

暗い廊下で、父は立ち尽くす。
思い出したように、ぽつりと言った。
「お前のこと、褒めていたよ」
「そうだろ」――鏡の声が重なる。
机は、砂に埋まっていた。
私は、重い引き出しを開け、封筒を手渡した。

そう、これでいい。


解説

主人公(私)は、小さな劇場を経営しながら、自らも舞台に立つ多忙な人物である。完璧主義ゆえ、何でも一人で抱え込もうとし、うまくいかない現実に心がすり減っている。ある晩、舞台が終わったあと、父親が現れる。ピエロの格好をしており、劇場のパトロン(支援者)を接待していたらしい。父は、その接待のツケを払うよう主人公に迫る。主人公は経営の苦しさもあり、すぐには応じようとしない。すると父は、被害者意識をあらわにし、無言の圧で揺さぶってくる。しかし、内省できないNPD(自己愛性パーソナリティ障害)の主人公は、罪悪感を感じることはない。そして父は、最後の一手として「パトロンが、お前のことを褒めていたよ」と伝える。この一言が、主人公の自尊心を鋭く刺激する。こうして主人公は、またしても父に金を渡す決心をする。

あとがき

父親は、NPDの主人公を見事に“攻略”しました。「押し付け」「泣き落とし」「ほめ倒し」という三段構えの揺さぶりは、まるで長年の修羅場で培った、対NPD戦略の集大成のようです。序盤は、主人公の圧勝でした。「押し付け」が効かないのは、白黒思考によって、すでに父親を“下”と見なしているからです。「泣き落とし」も効果はなく、主人公の関心は数字(=経営の現実)にしか向いていません。しかし、最後の「ほめ倒し」で形勢が逆転します。NPDにとって、「世間」という理想自己の評価者から肯定されることほど快いものはありません。しかもそれが、「権威ある存在(=パトロン)」の言葉であれば、なおさらです。この一言によって、厳しい現実は後回しとなり、「理想自己の維持」のための行動が選ばれます。その代償を支払うのは、いつも周囲の人々なのです。



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