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婚約破棄でズタボロのわたしを救ってくれたお客さんからのメッセージ

他の記事でしれっと書いたが、
わたしは30歳という節目で婚約破棄をした。
相手は同じ会社の18歳上の人だった。
25歳から30歳という時期をこの人と過ごし、
最後は、
さらば婚姻 揉みくちゃになり窓ガラス割れてそこから吹抜ける風
という短歌を残し、終わりを迎えた。

彼と別れた理由とか、
どんな人だったとかはもう過去に置いてきたのでどうでもよくて、
結婚とか興味ない、仕事さえあれば!
管理職になるのに遅れをとるなら結婚なんてしない!
とか言ってた割に、
まじで婚約破棄はかなり精神的にきつかった。

しかも社内での婚約破棄はたまらなかった。
まだ婚約段階なのに、
噂が広まるのは早かった。

婚約か結婚かその辺は適当に聞くマンたちから散々祝福を受けたのちの婚約破棄、
なかなかパンチが効いていた。

当時の上司に報告したときは、
クレーム現場で冬空の下、半日怒られた日以来、泣いた。

今思い出してもあの廊下で2,3回しか話したことない人の、
どうやって話しかけようかなの困り顔、
なんか本当にすみませんみたいな気持ちになった。

メールを見れば、宛先に彼も入っている。
同じ建物のどこかにその人がいる。
共通の知人もいる。
仕事も、担当しているお客さんも、昨日までと何ひとつ変わらない。

変わったのは、わたしだけだった。

泣いたあとの目を隠すように化粧をして、お客さんの前では笑った。

大丈夫です

あの頃、わたしは毎日のようにそう言っていた。
何ひとつ、大丈夫ではなかったけれど。

そんな日々を過ごす中、毎週のように飲みに行っていた、
とあるる部長さんからメッセージがきた。

婚約破棄ぶっぱなし事件から、
お酒を飲むと涙が出るようになってしまって、
さらには適齢期のお客さんたちの結婚を素直に祝福できそうきもなく、
少しばかり飲み会を避けていた。

彼とは3年の付き合いになるが、
上本さんが売りたいもの、やりたいことに協力するから、
うちのやりたいことにも協力してよ
」という、
非常にわかりやすく、クレバーな方だった。
コロナ禍でものが出なくなったときも、
逆に何ができるかわくわくするよね」とVBAの勉強とかしちゃうひとだった。

みんなの上本さん戻ってくれましたね。
弊社全員、上本さんが『ぼくらの上本さん』に戻ってくれて嬉しいです。
ハイボールでいい?たらふく飲む準備はできてますよ

事務所でそのメッセージを見たわたしは、
トイレに駆け込んだ。

そうか。

わたしは今、社内では「30歳で婚約破棄をした、かわいそうな女」なのかもしれない。

でも、会社の外に出れば、わたしを待ってくれている人たちがいた。

わたしが売りたいものを聞いてくれる人。
わたしが持っていく企画を面白がってくれる人。
わたしと、またハイボールを飲みたいと言ってくれる人。


結婚するはずだった人との関係はなくなった。

けれど、わたしが25歳から30歳までのあいだに築いてきたものが、
全部なくなったわけではなかった。


むしろ、自分では見えなくなっていたわたしの価値を、お客さんたちの方が覚えてくれていた。

みんなの上本さん

その言葉を読んだとき、ようやく少しだけ、
自分の人生に戻ってこられた気がした。

というか、営業冥利に尽きますまじで。

こんなに大切にしていたことすら、
わからなくなる程度には、
婚約破棄は人の視野を狭くしていた。

このあとわたしは、
初恋だった幼馴染と再会し、
結婚するわけだが、
このときのわたしは、もちろんそんなことを知らない。


ただ目の前にある仕事を、一つずつ頑張っていた。

仕事を通して出会った人たちがいて、
わたしの提案を待ってくれる人がいて、
また一緒に飲みたいと言ってくれる人がいた。

それは、わたしが何年もかけて築いてきたものだった。

婚約がなくなっても、
わたしの人生までなくなったわけではなかった。

それどころか、自分では見失っていた人生を、
部長はたった一通のメッセージで見つけてくれた。

もちろん、その後の飲み会で、
わたしが飲んで、歌って、叫んで、
また飲んだことは言うまでもない。

会計をしながら部長は、

また仕事しかやることないんだから、頑張ればいいじゃん

と言った。

慰めるでもなく、気を遣うでもなく、
いつものわたしに向かって言うみたいに。

本当に、かっこよかった。

あのとき彼がいなかったら、
わたしはどうなっていたのだろう。

今も、この会社で働いていただろうか。
お互いに転勤してからも、ときどき連絡を取る。

わたしの結婚式の前には、
高砂、キッチンにした?

と言って、また一段レベルアップしたAI画像を送ってきた。

いつまでも新しいことを覚える人だな、と思った。
そして、そういうところも、あの頃から何ひとつ変わっていなかった。

次はいつ、飲めますか?

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