じつは30km失速の原因は脚ではなく1時間35gという補給不足だったと判明
「30km過ぎで急に脚が止まった」「ゴール後に頭がぼーっとして倒れそうになった」。あなたにもそんな経験はありませんか。
最新研究は、その正体が練習不足ではなく「補給不足」だと突き止めました。読み終わるころには、次のレースで自己ベストを更新する具体的な数値プランが手元に残ります。
なぜ多くの市民ランナーが30kmで失速するのか

フルマラソンは脚と心肺の勝負と思われがちです。じつは、それと同じくらい「何を、どれだけ口に入れるか」が結果を左右するのです。
日本の市民ランナーのあいだでは、「給水は2〜3か所おきに少しだけ」「ジェルは20km過ぎに1本あれば十分」といった控えめな補給がいまだに主流。スイーツや炭水化物への抵抗感から、レース当日も糖質を避ける人も少なくありません。
ところが2025年に発表された最新研究では、市民ランナーの大多数が必要量の半分以下しか摂取できておらず、それが完走タイムを大きく押し下げていることが判明したのです。発表されたのは『Sports Medicine - Open』誌で、論文タイトルは「Nutritional Intake and Timing of Marathon Runners: Influence of Athlete's Characteristics and Fueling Practices on Finishing Time」。著者はJiménez-Alfagemeらの研究チームです。
このテーマは、コーチたちが現場で何年も訴えてきた肌感覚と完全に一致するもの。サブ3を狙うエリート層から、初マラソン挑戦者まで、すべてのランナーに関わる話なんです。
海外研究が明らかにした「補給と完走タイム」の決定的な関係

レース中の栄養補給は、本当に完走タイムに影響するのでしょうか。答えは「イエス」と断言できます。
(イメージ:レース当日に必要な補給アイテム一式)
セビリアマラソン160名の食事記録から見えた実態
研究対象となったのは、2022年セビリアマラソンに出場した160名のランナー。専門の栄養士やコーチの指導を受けず、自己流で補給していた人が大多数でした。研究チームは彼らがレース中に何をどれだけ口にしたかを詳細に聞き取り、専門機関の推奨値と比較。さらにそのデータを完走タイムと突き合わせたのです。
結果は衝撃的でした。多くのランナーが推奨値を大きく下回っており、しかも本人たちはそれに気づいていなかったのです。
平均35gという「半分以下」の糖質摂取
ランナーが1時間あたりに摂っていた糖質量は、平均でわずか35g。これはエナジージェル1本、もしくは小さめのスポーツドリンク1本に含まれる量とほぼ同じです。
ところが2.5時間を超える持久系種目の推奨値は、1時間あたり最低60g、上限で90g。つまり大多数のランナーは、必要量の半分強しか補給できていなかったということ。フルマラソンを走る燃料が足りていないのです。
ナトリウムも水分もギリギリだった
電解質も似たような状況。1時間あたりのナトリウム摂取量は平均192mgにとどまっていました。長時間レースで推奨されるのは1時間あたり300〜600mg。汗で失う量を補うには明らかに不足していたんです。
水分はどうだったか。平均で1時間あたり466mL(およそ16オンス、500mLペットボトル1本弱)。推奨値400〜800mLの下限ぎりぎりでした。発汗量の多いランナーや暑い日のレースには、まったく足りない量です。
サブ3達成者だけが満たしていた数値
研究で最も注目すべきはここ。1時間あたり60〜90gの糖質をきちんと摂取できていたランナーは、3時間切り(サブ3)で完走する確率が有意に高かったのです。
逆に補給不足のランナーは、ゴールタイムが遅い層に偏って分布していました。相関がそのまま因果を意味するわけではないものの、補給戦略がパフォーマンスを引き上げる重要な要素であることを強く示唆しています。
大多数が栄養士の指導を受けていなかった
なぜここまで推奨値とズレてしまったのか。研究チームは原因を「ほとんどのランナーがスポーツ栄養士のカウンセリングを受けたことがなかった」点に求めています。
つまり知識のギャップ。多くの人が「どれくらい食べればいいか」「どう摂ればいいか」を知らないまま、レース当日を迎えていたのです。
つまりどういうことか
補給量が足りないだけで、何か月も積み上げた練習の効果を自分から削ってしまっている。逆に言えば、補給を整えるだけで自己ベストに近づける余地がまだ残っているということなんです。
今日からできるマラソン補給の実践ポイント

明日からのロング走で何を変えればいいのか。元記事に登場した5つの落とし穴を、日本のランナー向けに具体化して紹介します。
ガイドラインを「数字」で覚えてしまう
「ジェル1本でいけるだろう」という思い込みが最大の敵。1時間あたり糖質60〜90g、水分400〜800mL、ナトリウム300〜600mgという数字を頭に叩き込みましょう。
たとえばPowerBarやMaurtenのジェル1本は約25gの糖質。30分ごとに1本摂れば50g/時。さらにスポーツドリンクを300mL補えば60g/時に届きます。練習の段階から目標値を設定し、自分の腸を慣らしていくのが王道です。
推奨値の「中身」を翻訳して計画に落とす
ガイドラインを知っていても、現場で迷うのが市民ランナーの実情。元記事ではあるランナーが「給水所のスポーツドリンク1杯=糖質約6g」と知らず、補給できているつもりでいた事例が紹介されていました。
対策はシンプル。「30分ごとにジェル1本(25g)、1時間あたり500mLのスポドリ(15g)」と具体的な行動に翻訳するんです。ぶっつけ本番ではなく、30km走で必ずリハーサルしておくこと。これは舞台のリハーサルと同じです。
「糖質=悪」という思い込みを捨てる
低糖質ダイエットや脂質代謝への過度な期待は、レースでは逆効果。元記事の著者自身も、糖質を制限していた時期は遅く、糖質を取り戻したら劇的に速くなった経験を語っています。
スポーツ栄養学者ルイーズ・バーク氏は「カーボローディングと高糖質摂取はパフォーマンスを大きく改善する一方、慢性的な低糖質はそれを損なう」と指摘。レース当日の糖質はジャンクフードではなく、ハイオクタンの燃料と捉え直しましょう。
体重増加を恐れて補給を削らない
カーボローディングをすると2〜4ポンド(約1〜2kg)体重が増えることがあります。これはグリコーゲン1gにつき水3gが結合するため。ところが、これを脂肪と勘違いして食事を減らすランナーがいるんです。
その結果、不十分なグリコーゲンでスタートし、後半でガス欠を起こす。「軽くなって速く走る」どころか、脱水でかえって遅くなる悪循環に陥ります。補給と水分は装備の一部、と割り切って下さい。減量はレースが終わってからで十分です。
「面倒くさい」を仕組みで突破する
スポーツ科学者アンディ・ブロウ氏は「自転車ならボトルもジェルも積みやすいが、ランは持ち運ぶ手間が大きく、面倒さから補給をサボる人が多い」と指摘しています。
紙コップから飲むときは縁をつまんで飲み口を作ると、こぼれにくくなります。ジェルが苦手ならグミ系、和菓子の羊羹、エイドの給食、スポドリ多めなど、自分に合う方式を探しましょう。「面倒の前払い」か「30km過ぎの大失速」か、どちらを選ぶかという話です。
まとめ
フルマラソンは「補給で勝敗が決まる種目」。160名の調査で大多数が推奨値を満たせていなかった
推奨値は1時間あたり糖質60〜90g、ナトリウム300〜600mg、水分400〜800mL
セビリアマラソンの調査では、推奨値を満たしたランナーほどサブ3達成率が有意に高かった
多くのランナーが知識不足・糖質への抵抗・体重への不安・面倒さで補給を削っている
補給は装備の一部。練習で必ずリハーサルし、本番に持ち込むこと
補給を整えるだけで、あなたの完走タイムは確実に変わります。練習の質を上げる前に、まず1時間60gのジェル習慣から始めましょう。
出典・参考文献
Jiménez-Alfageme R, Garrone FP, Rodriguez-Sanchez N, et al. Nutritional Intake and Timing of Marathon Runners: Influence of Athlete's Characteristics and Fueling Practices on Finishing Time. Sports Med Open. 2025;11(1):26. doi:10.1186/s40798-024-00801-w
American College of Sports Medicine, Sawka MN, Burke LM, et al. American College of Sports Medicine position stand. Exercise and fluid replacement. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(2):377-390. doi:10.1249/mss.0b013e31802ca597
Burke LM. Nutrition strategies for the marathon: fuel for training and racing. Sports Med. 2007;37(4-5):344-347. doi:10.2165/00007256-200737040-00018
Hansen EA, Emanuelsen A, Gertsen RM, Sørensen SSR. Improved marathon performance by in-race nutritional strategy intervention. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2014;24(6):645-655. doi:10.1123/ijsnem.2013-0130
