【相談室より】「100%オーナーだからこそ、使えない節税スキームがある」と気づいた相談
冒頭
「兄弟会社みたいに資本関係を整理したいだけなのに、思わぬ税負担がついてくるかもしれない」——そんな不安を、心の奥に抱えたことはありませんか。
知り合いの経営者から聞いた話や、専門家が書いた記事の中で「合法です」「よくあるやり方です」と説明されていても、自分の会社にそのまま当てはめていいのか、どこか引っかかる瞬間があるのではないかと思います。
「相談室より」は、日々の業務の中で出会った相談をヒントに、私自身の思考を整理したコラムです。個人・企業が特定できる情報はぼかしながら、答えより問いを大切にして書いています。
今回は、ある経営者の方から「親会社と子会社の関係を、兄弟会社みたいに並列にしたい。無税にできる方法があると聞いたのですが、うちでも使えますか」というご相談をいただいたところから始まります。
株主構成を伺うと、そのオーナーご自身が親会社の株式を100%保有している、ごく一般的な中小企業の形でした。
最初に感じた違和感
この見出しでは、相談を受けた瞬間に浮かんだ「引っかかり」の正体をお伝えします。
正直に言うと、最初に頭に浮かんだのは「その言葉だけでは、今回想定されている方法は無税にならないかもしれない」という感覚でした。
ただし、これから説明する通り、「兄弟会社化」には性質の異なる方法が複数あり、どの方法を指しているかによって答えが変わってきます。
無税で兄弟会社化を実現できる制度自体は、たしかに存在します。
ただ、ご相談者が念頭に置いていた方法(株式分配)と、その制度が前提としている株主構成が、実は正反対の形をしていることに気づいたのです。
そのスキームは、誰の前提で組まれているのか
ここでは、聞いた話がそのまま自社に当てはまるとは限らない理由を一緒に確認します。
人から聞いた節税の話や、専門家が発信する情報は、多くの場合「ある特定の方法」を想定して作られています。
無税での兄弟会社化には、大きく分けて2つのルートがあり、100%オーナー会社にとっての有利・不利が真逆になります。
株式分配ルート(親会社が子会社株式をオーナーに現物配当する方法):現物分配法人が「他の者に支配されていないこと(非支配要件)」が条件になっており、オーナーが100%支配している会社にとっては不利に働きます。
会社分割ルート(完全支配関係を使って事業を切り出す方法):むしろ100%の完全支配関係が継続する見込みがあることが条件になっており、オーナーが100%支配している会社ほど有利に働きます。
今回の相談では、「兄弟会社化」という言葉が同じでも、どちらの方法を指すかで前提が正反対になることが、最初のズレでした。
聞いた話が間違っていたわけではなく、「その話が想定している方法」と「ご相談者が思い描いていた方法」が違う、というだけのことだと気づきました。
税金が減る前に、そもそも無税になる制度なのか
この見出しでは、「税額」より先に確認すべきポイントを整理します。
節税の話をするとき、「税金がいくら減るか」から考え始めてしまいがちです。
ただ今回のケースでは、その前に「どちらの方法を前提に、無税で実行できる制度なのか」を確認する必要がありました。
無税で組織再編(会社の形を組み直すこと)を行うためには、法律で定められた複数の要件をすべて満たす必要があります。
要件が一つでも欠けると、無税ではなく「その時点での資産の価値に対して課税される」形に変わってしまいます。
ご相談者の場合、株式分配という方法を前提にする限り、100%個人株主というまさにその「支配関係」自体が、無税の要件を満たせない直接の理由になっていました。
やり方が悪かったわけではなく、選んだ方法として、無税の制度に当てはまらないタイプだったのだと考えています。
"今はセーフ"に見えても、出口が変わる
ここでは、まだ答えの出ていない論点を、一緒に考える視点でお伝えします。
「無税にならないなら、多少の税負担を受け入れて別の方法を選ぶか」「時間をかけて完全支配関係を使った会社分割の形に組み直すか」——ここは正直、私もまだ結論が出ていない部分があります。
経営者の状況によって、答えが変わるように感じています。
ここで言う「出口」とは、資本関係を整理した先にある将来の姿のことです。
将来の相続を見据えているのか、いずれの売却(M&A)を視野に入れているのか、それとも事業を長く継続していくことを優先するのか。
この方向性によって、今どの方法を選ぶべきかの答えは変わってくるように思います。
たとえば相続を見据えるなら、時間をかけてでも会社分割による無税の枠組みに近づける選択肢が向いていますし、近い将来の売却を考えているなら、多少の税負担を受け入れてでも早く資本関係を整理する選択肢が現実的になることもあります。
今回のご相談では、「無税かどうか」だけでなく、「そもそも何のために、どんな出口を見据えて資本関係を整理したいのか」を一緒に確認するところから、あらためて考え直すことになりました。
ここまでで押さえておきたいポイント
「兄弟会社化」には株式分配と会社分割という性質の異なる方法があり、100%オーナー会社にとっての有利・不利が真逆になること
株式分配は非支配要件があるため100%オーナー会社には不利、会社分割は完全支配関係があるほど有利であること
節税の可否を考える前に「そもそも何のために、どの方法で資本関係を整理したいのか」を確認した方が安心なこと
無税にならない場合でも、目的を達成できる別の手法が存在すること
一度実行すると元に戻しづらい手続きもあるため、実行前の確認が大切なこと
ここからは、実際に数字を動かしながら一緒に考えてみたいと思います。
数字で比べる3つの選択肢
この見出しでは、方法によって税負担と資金負担がどう変わるかを数字で比べます。
前提条件(仮設定)
オーナー(60代)が親会社A社の株式を100%保有、A社が子会社B社の株式を100%保有
A社・B社ともに年商3億円規模、B社株式の相続税評価額(時価)を仮に5,000万円と設定
目的:A社とB社を並列の資本関係に整理したい(将来の事業承継を見据えて)
パターン1:株式分配(非適格)で実行する場合
B社株式をA社からオーナーに現物で移す形になるため、A社側にB社株式の含み益に対する法人税等(実効税率約30%、含み益3,000万円なら約900万円)が発生します。
オーナー側にも配当を受け取ったものとして所得税・住民税(最高で49.44%程度)が課される可能性がありますが、手続き自体は比較的シンプルに進められるのではないかと考えています。
まとまった納税資金をすぐ用意できる経営者に向いている選択肢かもしれません。
パターン2:オーナーがB社株式を時価で購入する場合
A社に譲渡益課税(同程度)は発生しますが、オーナー側の配当課税は生じません。
ただし、オーナーが5,000万円規模の購入資金を用意する必要があり、資金繰りの面でハードルになる経営者の方もいるのではないかと感じています。
加えて、時価より著しく低い金額で購入してしまうと、差額について「みなし贈与」や会社側の「寄附金課税」が発生するリスクもあるため、購入価格の設定には注意が必要です。
手元資金に余裕があり、配当課税を避けたい経営者に向いている選択肢だと考えています。
パターン3:新しい会社を設立し、事業だけを段階的に移していく場合
株式そのものを動かすのではなく、B社の一部の事業を、オーナーが個人で新設した会社に無税の枠組み(完全支配関係を使った会社分割)で移していく方法です。
同じ「100%支配関係」でも、パターン1の株式分配では不利に働いた条件が、この会社分割では逆に有利な条件として働く点が、実務上のポイントです。
即時の税負担は抑えられますが、他の2つのパターンに比べて実務上の難易度が一段上がる方法だと考えています。
特に注意したいのは、「事業の切り出し方によって適格性(無税の要件を満たすかどうか)の判断が変わる」という点です。設計次第で、無税の要件を満たせるかどうかが変わってしまうことがあり、ここを曖昧なまま進めると、後から「実は無税ではなかった」という事態にもなりかねません。
時間をかけてでも税負担を抑えたい経営者に向いている選択肢ではありますが、実行前の精査を飛ばさないことが何より重要だと感じています。
3つのパターンを並べてみると、「税金の額」だけでなく「今すぐ資金が必要か」「どのくらい時間をかけられるか」「どの方法を選ぶか」によって、向いている経営者のタイプが変わってくるように感じています。
今日できる一歩
今、気になっている資本関係の整理について、「目的は何か」「どんな出口を見据えているか」を一言で書き出してみる
検討している方法が「株式分配」なのか「会社分割」なのかを確認し、それぞれの前提条件をメモしてみる
顧問税理士に聞きたいことを1つだけ、言葉にして準備しておく
