華のないふたり【アマノ文筆クラブ】
2025年10月29日 17時1分前。君は私といた。この1分を私は忘れない。
がらんとした教室に、私と友達の二人だけがいる。外のグラウンドからは、運動部の掛け声が聞こえてくる。
「学祭が終わってから、なんかつまらないね」
友達が少し気だるそうに話しかけてきた。
「そうだね。体育祭もあるけど、あんまり興味ないし」
「そういうのは陽キャたちに任せてさ。うちらみたいな陰キャで、いもなグループには関係ない話だったよね」
「ちょっと、“いも”は言いすぎじゃない?」
確かに、私たちはクラスでも大人しいグループだった。客観的に見れば、そう思われても仕方ないのかもしれない。
ふと、高校生活を振り返ってみる。
「私たち、華のない三年間だったね。進路ももう決まってるし。大学は推薦で合格してるから、あとは出席日数を稼ぐだけでさ、人間関係でも、特にいざこざなんてなかったよね」
「これからじゃない?今は色恋沙汰がなくても、これから色々あるかもしれないし」
友達は何かを思い出したように、ふっと言葉を続けた。
「ねぇ、『花様年華』って言葉、知ってる?」
「どういう意味なの?」
「中国の言葉でね、“花のように美しい時期”っていう意味の慣用句なんだって。つまり『人生でいちばん輝く時期』とか『青春時代』の意味なんだって」
「すごい言葉だね。映画のタイトルみたい」
「実際にあるんだよ。私たちが生まれる前の映画なんだけど」
「へぇ、ちょっと気になるわ」
なるほど、と私は思った。今の私たちは、そんな“花様年華”の中にいるのだろうか。
「そういう意味では、私たちにも“華”はあったのかな」
「自分たちがそう思えば、あったんじゃない? それに」
友達は笑いながら続けた。
「うちらには“華”はなくても、“花”はあるよね」
「名前、結花と梨花だし!」
「あははは!確かにね!」
二人の笑い声が、静かな教室の空気をやわらかく、沈黙を破った。
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