西尾市民は、病気になったとき、どこへ行っているのか〜市民病院の赤字だけでは見えない、私たちの医療圏(西尾ミライ新聞)
西尾市民病院について話していると、周囲からこんな声を聞きます。
「うちは安城更生病院へ行っています」
「幡豆からなら、蒲郡市民病院のほうが行きやすい」
「手術は刈谷でした」
「かかりつけ医から、市民病院ではなく別の病院を紹介されました」
もちろん、西尾市民病院を利用している人もいます。救急車で運ばれた人、入院や手術をした人、定期的に外来へ通っている人、家族の面会へ何度も足を運んだ人もいます。
けれども、西尾市民が病気になったとき、実際にどの病院へ行っているのか。その全体像を、私たちはほとんど知りません。
周囲で聞く話は、まだ「印象」にすぎません。
だからこそ、西尾市民病院のあり方を決める前に、市民の患者の流れを調べる必要があるのではないでしょうか。
市民アンケートを実施しています
ご本人だけでなく、親、子ども、家族、友人・知人など、身近な人の受診経験も、一人分ずつ回答できます。
回答時間は基本部分が約2分。氏名や詳しい病名は集めません。
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西尾市民病院の「経営」と、西尾市民の「医療」は同じではない
西尾市は現在、西尾市民病院あり方検討委員会を設置し、病院の経営形態、周辺医療機関との連携、医療機能の分化などを検討しようとしています。
第1回委員会は、2026年7月31日に開かれます。
また、西尾市民病院のあり方に関するパブリックコメントが、8月5日から9月4日まで募集されます。提出された意見の概要は、検討委員会へ報告され、ホームページでも公表される予定です。
市があり方を見直す背景には、厳しい経営状況があります。
令和6年度西尾市病院事業会計決算書によると、2024年度の純損失は約17億1,900万円。一般会計からの繰入総額は約19億5,900万円でした。
ただし、この約19億6,000万円を、すべて「赤字の穴埋め」と呼ぶことはできません。そのうち約15億7,300万円は、救急医療など、総務省の基準上、一般会計が負担すべき経費とされています。
公立病院は、採算だけでは維持しにくい医療も担っています。
問題は、「赤字だから不要」と単純に決められない一方で、現在の経営と医療機能を、このまま続けられるとも限らないことです。
同じ決算書では、入院患者数が前年度より9,073人、外来患者数が5,120人減っています。また、経営強化プランの令和6年度実施状況によれば、常勤医師を令和4年度当初から9人増やす目標に対し、医師数は55人のまま。正規医師は54人から51人へ減り、会計年度任用医師が1人から4人へ増えています。
つまり、西尾の問題は財政負担だけではありません。
患者数、病床の利用、医師確保、診療できる機能が、互いにどう影響しているのかを見なければなりません。

市民が市外の病院へ行くことは、問題なのか
西尾市民が安城更生病院、碧南市民病院、蒲郡市民病院、刈谷豊田総合病院、岡崎市民病院などを利用すること自体は、必ずしも問題ではありません。
高度な手術や専門治療を、設備や医師がそろった病院へ集めることには合理性があります。
一方で、「市外へ行っている」という事実だけでは、その意味は分かりません。
本人が専門性や治療実績を考えて選んだのかもしれません。
かかりつけ医から紹介されたのかもしれません。
西尾市民病院に必要な診療科や常勤医がなく、市外へ行かざるを得なかったのかもしれません。
救急車で運ばれ、本人には選択できなかったのかもしれません。
高度な治療を市外で受け、回復期には西尾へ戻ってきた人もいるでしょう。
これらをすべて「市民病院が選ばれていない」とまとめることはできません。
調べるべきなのは、病院の人気ランキングではなく、
誰が、どの地域から、どのような理由で、どの病院へ行き、どのような負担を感じているのか。
という患者の動線です。
全国の病院再編は、病院を一つ減らすだけではなかった
全国の公立病院再編を調べると、「統合」という一語では説明できないことが分かります。
急性期医療を一つの新病院へ集めた中東遠
静岡県では、掛川市立総合病院と袋井市民病院の急性期機能を、新しい中東遠総合医療センターへ集約しました。
厚生労働省の中東遠総合医療センターの再編事例によると、新病院、医療機器、情報システムなどの整備費は合計約221億5,000万円。開院時と比べて医師は非常勤・研修医を含め43人増え、年間5,000件を超える救急搬送を受け入れる体制になりました。
しかし、旧病院の地域から医療機能をすべてなくしたわけではありません。
袋井側には、旧病院施設を活用した回復期・療養・リハビリテーションの後方支援病院が整備されました。
急性期を一か所へ集めながら、治療後の患者を地域へ戻す仕組みをつくったのです。
経営を一つにして、二つの病院の役割を分けた酒田
山形県酒田市では、県立日本海病院と市立酒田病院を、一つの地方独立行政法人に再編しました。
厚生労働省の事例資料では、日本海総合病院へ急性期・高度医療を集め、もう一方を回復期・慢性期の病院へ転換しています。
両病院の医師数は112人から158人へ増え、手術件数は年間約1,000件増加しました。一方、病床は合計168床減らしています。
ここでも、単に経営主体を変えたのではありません。
医師、診療科、救急、病床を、地域の中で具体的に再配置しています。
愛知県内で始まった半田・常滑の二病院体制
愛知県内では、2025年4月に半田市立半田病院と常滑市民病院が経営統合し、知多半島総合医療機構が発足しました。
二つの病院は残しながら、知多半島総合医療センターは高度急性期・救命救急などを、知多半島りんくう病院は急性期、回復期、地域包括ケア、在宅支援などを担います。
ただし、始まったばかりのため、医師確保や財政負担が長期的にどう変わるかは、まだ評価できません。
制度の参考にはなりますが、現時点で「成功例」と決めつけないことも必要です。

診療機能を分担することは、それぞれ別の選択である。
西尾で、まだ分からないこと
全国事例を知っても、西尾の答えがそのまま出るわけではありません。
西尾で判断するには、少なくとも次の情報が必要です。
1.市民が実際に利用している病院
旧西尾市、一色、吉良、幡豆で、患者の行き先は同じなのでしょうか。
西尾中心部では安城方面、幡豆では蒲郡方面など、生活圏によって受診先が違う可能性があります。
2.市外の病院へ行った理由
本人が選んだのか、紹介されたのか、市民病院では診療できなかったのか、救急搬送だったのか。
同じ「市外受診」でも、意味はまったく異なります。
3.救急車と紹介・転院の流れ
どの地区から、どの病院へ搬送されているのか。
西尾市民病院から市外へ紹介された患者は、治療後に西尾へ戻れているのか。
病院同士のつながりまで見なければ、地域の医療は評価できません。
4.市民の移動と家族の負担
病院へ行くための時間、交通費、家族の送迎、入院中の面会、仕事や介護への影響。
病院会計の支出を減らしても、その負担が市民個人へ移っただけなら、地域全体の負担が減ったとは言えません。
5.複数案を同じ物差しで比較した結果
少なくとも、
西尾市民病院を単独で維持・強化する案
碧南市民病院などと経営統合し、複数病院を残す案
急性期医療を一つの病院へ集め、現在地には別の機能を残す案
安城、蒲郡、碧南などとの連携を前提に、西尾市民病院の役割を絞る案
を、同じ指標で比較する必要があります。
示してほしいのは、医師数、救急受入件数、搬送時間、残る診療科、病床、建設・設備・システムを含む長期負担、通院や家族の負担です。
医師が予定どおり確保できなかった場合や、患者数が想定より少なかった場合の試算も必要です。
市民の経験から、患者の流れを見えるようにしたい
行政や病院は、レセプト、紹介・転院、救急搬送などのデータを持っています。
一方で、データだけでは分からないこともあります。
なぜ、その病院を選んだのか。
市外へ通うことで何に困ったのか。
家族は何度送迎し、どれだけ仕事を休んだのか。
市民病院を選びたかったのに、選べなかったことはなかったか。
西尾ミライ新聞では、今後、市民の受診経験を聞く調査を行います。
回答する本人だけでなく、ネットを使わない親や家族、子ども、身近な人の受診経験も、一人分ずつ回答できる形を考えています。
本人の経験、付き添った家族の経験、本人から直接聞いた話、伝聞は分けて集計します。
これは無作為抽出による世論調査ではありません。
「西尾市民の何%が、どの病院を選んでいる」と断定するための調査でもありません。
どの地区で、どのような患者の流れがあり、どのような不便や安心があるのか。行政のデータだけでは見えない仮説を、市民の経験から見つけるための調査です。

市民アンケートを実施しています
ご本人だけでなく、親、子ども、家族、友人・知人など、身近な人の受診経験も、一人分ずつ回答できます。
回答時間は基本部分が約2分。氏名や詳しい病名は集めません。
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パブリックコメントで、何を伝えるのか
今回のパブリックコメントは、完成した統合案への賛否を聞くものではありません。
市は、寄せられた意見を今後の検討における重要な資料の一つにすると説明しています。
だからこそ、市民は「残してほしい」「赤字だから縮小すべき」という結論だけでなく、
何を調べてほしいか
どの選択肢を比較してほしいか
判断に必要な資料は何か
どの負担を見落としてはいけないか
を意見として届けることができます。
そして、具体的な案と試算が示された後には、もう一度、市民が意見を出せる機会が必要です。
選択肢も影響も分からない段階で意見を聞くだけでは、市民は責任ある判断ができません。
答えが出る前に、問いをつくる
専門家による分析は必要です。
病院内部の財務、診療実績、医療需要、レセプト、救急搬送、将来推計は、市民だけでは十分に分析できません。
しかし、専門家の報告を待つだけでなく、
何を比較しなければ、病院のあり方を判断したことにならないのか。
という問いを、市民側から先に置くことはできます。
西尾市民病院を、どの経営形態で残すのか。
その前に考えたいことがあります。
西尾市民は、病気になったとき、実際にどこへ行っているのか。
そこで、どのような医療を受け、どのような不便や安心を感じているのか。
西尾市内には、どの医療を必ず残したいのか。
守るべきなのは、病院の名前や建物だけではありません。
西尾市民が病気になったとき、必要な医療へたどり着ける状態です。
そのための問いを、市民の経験からつくっていきたいと思います。
参考資料・参照リンク
西尾市・西尾市民病院
全国の病院再編事例
※本文の数値は、原則として上記の自治体・病院・厚生労働省の公開資料を参照しています。全国事例は条件や時期が異なるため、そのまま西尾へ当てはめるのではなく、比較するための材料として扱っています。
