ある女子高生の、小さくて大きな、社会への逆襲【前編】
“私は14歳にして、人生には希望が踏みにじられることほどつらい出来事はほとんどないことを知った。”
大人って、社会って、理不尽だな。
子どもの頃、そう思ったことはないだろうか。
私は子どもの頃そう思うことばかりだったし、大人になった今でもそう思う。
理不尽に遭遇したとき、どのように乗り切ればいいだろうか。
ぐっと飲み込んで自分の中で処理する? 人に話を聞いてもらって発散させる? あるいは、理不尽の原因に直接ぶつかってみる?
色んな方法があるが、高校生の私は「理不尽の原因に直接ぶつかって」いっていた(とても危なっかしかったと自分でも思う)。結果的に、大概は痛い目に遭うのだが、時には思わぬ形で対処できてしまうこともある。
理不尽に真っ向から勝負を挑んで勝利した、数少ない経験の一つを紹介したい。
だがその前に、どうして高校生の私が「理不尽に直接ぶつかって」いかなければならなかったのか、その要因となる中学生のときの事件について、まず話をしようと思う。
私が通っていたのは農村地域にある小さな中学校。1学年60人ほど。
同じ小学校に通った人たちがそのまま中学校に上がるので、一緒に育った兄弟姉妹のようにお互いのことをよく知っている、そんな距離感だった。
自分とは違う学年の人たちも、顔はみんな大体分かるし、誰が何をした、ということはすぐに噂で広まる、田舎社会の縮図がそこにはあった。
中学校では毎年、生徒会長を決めるための選挙が行われていた。
2年生の中から希望する人たちが立候補し、全校生徒の投票によって選ばれる。
2年生のときに選ばれた人は、3年生になってから正式に生徒会長としての活動を始める。
選挙活動や投票を取りまとめる選挙管理委員会もあり、私は3年生の時に選挙管理委員会で活動していた。
その年、生徒会長に立候補を希望する2年生の生徒は2人いた。
1人は野球部キャプテンの男子生徒で、もう1人は学年で成績がトップだと言われている女子生徒だった。
この2人とは別の学年だったため、直接話しをしたことはなかった。しかし、色んな人から聞こえてくる噂から、野球部キャプテンの彼だったらいい生徒会長になるのではないかと私は思っていた。彼は明るく大らかで、野球部のメンバーだけでなく周りの人たちみんなから慕われているようだった。
そんなある日、少し気になる話を聞いた。
この野球部キャプテンが先生から呼び出しを受けた。そこで、生徒会長に立候補しないように説得されたのだという。噂によると、もう1人の立候補希望者の女子生徒が高校受験で有利になるように、彼女を生徒会長にしたいという先生の思惑があった、とのことだった。
噂が本当かどうか分からなかったが、もし本当だったら由々しき事態である。生徒会長に立候補するかどうかは本人の意思で決めることで、先生であろうと他人が口出しをしたりコントロールしたりしていいはずはないのだから。
生徒会長に立候補するためには、決められた期限までに、選挙管理委員会本部に来て立候補のための手続きをする必要があった。
選挙管理委員だった私は噂が本当でないことを願って、野球部キャプテンが立候補の手続きに来るのを今か今かと待っていた。
まず、成績トップの女子生徒が手続きに来た。次は彼も来るはず、そう思っていたが、結局、彼は現れなかった。
立候補の期限が過ぎた後、選挙管理委員会の部屋で、私は他の委員の人たちと、このことについて話をしていた。
野球部キャプテンが立候補を希望していたこと、彼が先生に呼び出されて立候補しないよう説得されたという噂があること、それが理由で彼が立候補できなかったのであれば、それはあってはならないということ。
話しているうちに怒りが込み上げてきて、感情が抑えきれず涙が出てきた。
私は泣きながら怒っていた。
ちょうどその時、ガラガラとドアが開いて、先生が部屋に入ってきた。
選挙管理委員会担当の先生だった。野球部キャプテンに立候補を断念するよう説得した(とされている)先生とはまた別の先生である。
先生は私を見て「その涙はあいつ(野球部キャプテン)のためか」と聞いた。
その瞬間、私は確信した。あの噂は本当だった、と。
野球部キャプテンに対して何らかの介入があったことは間違いない。だって、この先生も知っているのだから。
野球部キャプテンのために泣いているのか、はい、先生、その通りです。
しかし、私は「違います!」と答え、涙でぐしゃぐしゃの顔で噛みつかんばかりの勢いだった。
正直、この先生には何の恨みもない。ただただタイミング悪く私に八つ当たりされたのは大変気の毒だったが、どうか許してほしい。この瞬間、傷ついていた私には「大人」はみんな「敵」に見えていたのだから。
結局、生徒会長に立候補したのは、この年は1人だけだった。
形だけの投票が行われ、成績トップの女子生徒が生徒会長に選ばれた。
とても悔しかった。自分の推しが選ばれなかったことに対して(多少残念な思いはあったが)、ではなく、それよりも、立候補したいと思っていた彼の思いが踏みにじられたことに対して、である。
巨大な黒くて重たい何かが頭の上から自分にのしかかってくる感じがした。「私は絶対にコレには屈しない」と、そのとき心に決めた。
そのとき感じたことを言葉にできるほどの語彙力を、当時の私は持ち合わせていなかったのだが、今言葉にするとすれば、「自由や権利を阻害する社会的圧力」には屈しない、と決めたのである。
子どもだったとしても人間である。
一人の人間として、自分がやりたいと思ったことをやる。自分の欲求に従って自由に行動する権利があるはずだ(もちろんルールの範囲内で)。
それを他人からの、それも上からの圧力によって阻害されるのはおかしいと、この時の私は直感的に感じたのである。
今思えば、当時の私には想像もできない何らかの事情があったのかもしれない。先生が選挙に介入せざるを得ない、やむを得ない状況があったのかもしれない。事実をちゃんと確認すればもう少し状況が変わって見えたかもしれない。
そう思ったりもするが、当時の私は当時の私で精一杯そのときを生きていたのだ。
そして、「自由や権利を阻害する社会的圧力には屈しない」と決めた、その決意が、高校生になったときに事件を引き起こすことになろうとは、このときは全く予想だにしていなかった。
