不適切な場所で走ってしまう子どもへの理解と支援
〜止められない衝動の奥にある“理由”を見つめて〜
■ はじめに
「教室の中を急に走り出してしまう」
「廊下は歩く場所と何度言っても、ダッシュしてしまう」
「図書室や集会の最中でも突然駆け出す」
このような行動に悩んでいる保護者や教師の方は多いのではないでしょうか。
「どうして今走るの?」「ふざけてるの?」「わざとなの?」
そう思ってしまうこともあるかもしれませんが、実はその裏には本人なりの理由やコントロールの難しさが隠れていることが少なくありません。
本記事では、「不適切な場所で走ってしまう子ども」の行動の背景を読み解き、
その子どもに合った具体的な支援の方法を考えていきます。
■ 第1章:不適切な場所で「走る」とはどんな行動?
一般的に、以下のような場面で走り出してしまう子どもがいます:
教室内や廊下
図書室や集会など静かな場面
行列中や集団での移動時
体育の準備や片付けの時間
先生の指示が切り替わるタイミング
走ってはいけない場面で「急に」「無言で」「爆発するように」走り出すと、周囲は驚き、時に危険な場面も生まれます。
しかしその多くは、**本人が「走ろう」と決めたというより、“走らずにはいられなかった”**というケースです。
■ 第2章:走ってしまう子どもの内側にあるもの
◎ ① 感覚刺激を求める傾向(感覚統合)
走ることで足の裏や全身に刺激を感じ、自分を落ち着けている子どもがいます。
これは感覚統合の視点で「固有受容感覚」や「前庭感覚」を整えようとしている行動です。
自分の体の位置を感じるために、動く必要がある
動くことで「安心感」「集中力」を得ようとしている
◎ ② ADHDなどによる衝動性や多動性
「静かにするべき場面」であっても、身体が勝手に動いてしまう子もいます。
これは衝動のコントロールや自制の力(実行機能)がまだ育っていないことによるものです。
走ってはいけないと理解していても、走ってから「しまった」と気づく
切り替えや待機が難しく、「走る」ことで次の行動へ移行しようとしている
◎ ③ 不安や緊張による“逃避的な行動”
環境が落ち着かない、他人が多い、騒音が気になるなど、不安や不快感から逃れるために走ることもあります。
人が多い場所で自分のスペースを確保するために走る
緊張を感じたときに“動くことで”気持ちを落ち着けようとする
◎ ④ ルールや場面の理解が不十分
「今は走ってはいけない」「ここは歩く場所」という認識が、状況や文脈によってあいまいになっている子もいます。
外から教室に入った直後にまだ屋外のテンションのままで走る
一度注意されても、次に同じ場面で記憶がつながらず、また走ってしまう
■ 第3章:よくある誤解と対応の落とし穴
❌「ふざけてるだけでしょ」「わざとやってるんでしょ」
→実際には、本人も止めたくても止められないことが多い。
「走ること=いけない」と理解していても、行動が先に出てしまうのです。
❌「一度注意したんだから次からできるはず」
→発達特性のある子は、「前の経験を次に活かす」ことが苦手です。
状況や場面に応じた“ルールの切り替え”を毎回説明する必要があります。
❌「大きな声で怒鳴れば止まる」
→大声はかえって子どもを驚かせ、さらなる逃避行動(走る)につながるリスクがあります。
■ 第4章:子どもが安心できる支援のポイント
◎ ① 「走る」という行動の“前段階”に注目する
子どもが走り出す前のサイン(落ち着きのなさ、そわそわ、体の揺れ、視線の動きなど)に気づくことが重要です。
それに気づいたら、事前に声をかけたり環境を整えることで、行動を未然に防げる場合があります。
◎ ② 走る衝動の“代わりになる行動”を用意する
廊下を移動するときは、「腕を大きく振って、早歩きで」など具体的な方法を教える
図書室では「静かに歩く足の音ゲーム」など、歩くことをポジティブに捉えさせる
移動の前に「この廊下は何歩で歩けるか数えよう」など“意識的に歩く”工夫を加える
◎ ③ 視覚的サポートを活用する
廊下や教室に「歩こうマーク」や「止まって確認」などの掲示を活用
移動時に「色分けされたテープ」で歩くエリアを明示
「今は走っていい場所・時間ではない」ことが見て分かるようにする
◎ ④ 「走らなかったとき」をしっかり認める
「今、ちゃんと歩いてたね」「一歩ずつ落ち着いてたね」と具体的に伝える
小さな成功を積み重ねることで、“歩けた経験”を本人の中に残していく
■ 第5章:家庭や学校でできる工夫
家庭でできること
スーパーや病院などで「静かに歩く練習」をする
外では全力で走れる時間をしっかり確保する
「走っていい場所」と「走ってはいけない場所」の違いを写真や絵で一緒に確認する
学校でできること
集団移動の先頭や最後尾に入れて、サポートしやすくする
「この場所では、○○のように歩こう」と具体的な目標を共有する
体育の前後など、気持ちが高ぶりやすい場面の移行に注意する
■ 第6章:「走る」行動を理解し、チームで支える
保護者だけでも、担任だけでも、子ども一人の力だけでも改善は難しいものです。
特に発達特性がある子どもに対しては、「チーム」で対応することが重要です。
特別支援教育のスタッフとの連携
保護者と学校のこまめな情報共有
必要に応じて発達検査や専門家の支援を導入する
本人が安心して「走らなくても大丈夫」と思える環境づくりこそが、最も有効なアプローチです。
■ おわりに:「走る」ことを責めるより、「歩けた」瞬間を見つめて
不適切な場所で走る子どもに、「どうしてまた?」と思ってしまう気持ちは自然です。
しかし、それを繰り返すたびに「叱る」だけでは、本人の自信も行動も改善しにくくなってしまいます。
「どうして走ったのか」ではなく、「どうすれば歩けるか」を一緒に考える視点。
そして、「歩けたね!」という成功体験を少しずつ積み重ねていく支援。
走ってしまうその子どもも、本当は“分かりたい”し“変わりたい”と願っているかもしれません。
大人のまなざしが、その一歩を支える力になります。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!