お人好しじゃない【アマノ文筆クラブ】
「アマノ文筆クラブ」さんのお題に挑戦しました。
600字ほどになりました。
よろしくお願いします🙇
妻はお人好しだと思う。
人に何か頼まれると少し困ったような顔をするけれど、結局引き受けている。
かと思えば、頼まれてもないことを、「手伝うで」と言って一緒にやっている。
そんな妻を見て、思わず
「お前はお人好しやなぁ〜」
と言うと、妻の顔はみるみる険しくなって、今まで見たこともないような鋭い視線で僕を射抜きながら、低い声で言う。
「……おい、今、なんて言った……?」
「……え?
いや……お人好しやなぁ……って……」
妻は、僕にグッと詰め寄り、シャツの胸元を掴みながら、さらに低い声で言う。
「……確かに『小尾戸・良』は昭和の大女優や。
主演映画『箱根の休日』は今も名作やし、劇中歌の『箱根慕情』も有名や。
でもな、プライベートは男と酒とギャンブルでめちゃくちゃ。
それなのに、私のどこを見て『小尾戸・良』やって言うねん。」
妻の、腹の底から湧いてくるような問い詰める言葉に、僕は完全に圧倒され、全身からあふれ出る冷や汗を拭うこともできず、絞り出すような声で答える。
「『小尾戸・良』じゃないです……。」
「……ほんまに?」
「……ほんまに」
妻は、パッと僕のシャツから手を離して、いつもの顔に戻る。
「良かった!
そろそろ夕飯にしようかな。
今日はあなたの好きな唐揚げやで!
昨日からお肉、漬け込んでるから美味しいで〜」
「わぁー、楽しみー」
妻は、柔らかい笑顔でキッチンに向かい、ご飯を作り出した。
僕はしばらく震えが止まらなかった。
おしまい。
