見出し画像

空耳は、ある日突然に。

その瞬間は、前触れもなく、突然やってきた。

いつもと同じ、保育園の帰り際。

たまたま仕事でトラブルがあり、子どものお迎えが遅くなってしまった。
保育の延長時間に差し掛かっていたためか、他に親の姿はない。

子どもたちをピックアップして帰ろうとしたそのとき、微かに空気が振動し、声のような音が聞こえたのだ。




「あの……もしよかったら……


LINE交換しませんか……?」





ん……?


空耳……?



何を隠そう、私にはママ友がいない。
つまり、保育園送迎時に話しかけられるような知り合いがいない。

もちろん、顔見知りであればあいさつはするし、土日に公園などで会えば世間話程度はする。
しかし、連絡先を交換するほどの仲に発展した人は、一人もいないのである。


「ママ友がほしい」



それは長年の夢だった。

ママ友の存在には賛否両論あるけれど、休日一緒に遊んだり、ご飯を一緒に食べたり、お家を行き来したり、してみたい。

家族ぐるみのお付き合いができる友人がいたら、どんなに素敵だろう——

友人家族とBBQとか、キャンプとか、めちゃくちゃ憧れる。

いや、家族だけでも楽しいよ? 多分。
我が家は子どもが3人おり、それだけで相当賑やかだ。

でもさ……

7年前に長男が産まれて、5年前に次男が生まれて、2年前に長女が生まれて……






7年間ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと家族だけで過ごしてますから!

毎週土日!!あと祝日も!!



7年間って!!
土日祝日、何回あったと思う?!


2024年でいうと118日。ざっくり120日として7年間。

はい、計算してみて!!


840日よ?!


1年=365日で割ってみ?


2.301……つまり2年とええと……(この0.3はそのまま1ヶ月換算であってる……?つまり3ヶ月?)

840日 ÷ 365日/年 = 約2.301年
この結果は2年と0.301年に分けられます。
月に変換すると、
0.301年 × 12ヶ月/年 = 約3.612ヶ月

したがって、840日は約2年と3ヶ月です。

ありがとうChatGPT


つまり約2年と3ヶ月ですよ!(あってた)

約2年と3ヶ月、まるまる家族「だけ」で過ごしてるわけですよ!!!


もちろん、100%ではない。さすがに半年に1回程度は、家族+αで過ごす日もある。祖父母や従兄弟とも、定期的に会っている。

会社の同僚から、遊びましょう! と声をかけてもらい、子ども同伴でお家にお邪魔したこともあるし、園のお友達と公園で偶然会い、そのままちょっとだけ一緒に遊んでる風になったりすることもあった。

しかし、家族だけで過ごす時間が圧倒的に多いのだ。

家族「だけ」となると、遊び方や場所に癖が出ることは避けられない。なんせ時間にして2年3ヶ月分も持て余すのだから、さすがにアイデアも枯渇する。

友達がいたならば……。

子どもたちにしてみれば、いつもの公園だって、極上のエンタメになるだろう。経験値が低いからこそ、友達家族が加わったときの化学反応たるや凄まじいものであることが、容易に想像できる。


私個人としても友人がほしいけれど、子どもたちのためにも、そんな楽しい休日を過ごさせてあげたい……。

ずっと、ずーーーーっと、そう思ってきた。





「あの……もしよかったら……


LINE交換しませんか……?」


一瞬空耳か、はたまた神の声かとドギマギしてしまったが、振り向くと、一人のママと、目が合った。
延長すべりこみアウトだった我が家よりさらに遅れて「これからお迎えです」といった様子である。



年齢は、私の少し上だろうか。知的な雰囲気をまとった、穏やかそうな、落ち着いた人。



あ……。

そうか! 思い出した。

子どもの名前はわからないけれど、次男の同級生ママだ。

1年ほど前に偶然公園で会って、子どもたちを介して、軽く話をしたことがあった。

「引っ越してきたばかりで、遊び場を知らないんです。」
「お友達もいなくて……」
「お迎えもいつも遅いから、保育園のママたちにも一人も会わなくて……」

確か、そんな話をしていたっけ。

私も2年ほど前に今の土地に引っ越してきたので、境遇が一緒ですね〜なんて返した記憶がある。よかったら仲良くしてくださいね、とか、そんなことも言い合った。

次男とその子は嬉しそうにしていたけれど、当時1歳だった娘はギャン泣き、小1長男もどこかに走っていってしまうし、落ち着いて話せる状況ではなかった。

連絡先を交換するところまではいかず、それ以来、送迎の時間が合わないためか、一度も顔を見たことがなかった。

実に1年ぶりの再会である。



もしかして……

この1年、ずっと私に話しかけるチャンスを伺っていた……?

あの公園で話した日以来、境遇変わらず、彼女もずっとママ友ができていない……?

だ、だ、だとしたら、めっっっっっちゃくちゃ勇気出して、声かけてくれているのでは?!


だって私、ずっと言えなかったよ、その一言。

よかったらLINE交換しませんか? って、7年間ずっと言えなかった。

その一言を、会って2回目の私に、勇気を出して言ってくれている……?




顔がボンッと熱くなる。
心拍数が急上昇しているのが、自分でもわかる。


ママ友のいる人生の幕開けだ……!


ぎこちなく微笑むその人が、薔薇を100本差し出す白馬の王子のように輝いて見えた。


震える手で、そっと薔薇に手を伸ばす私。
薔薇を受け取ったら彼女を抱きしめてこう言おう。



「ずっとお待ちしておりました!!!あなたを!!!!!


7年間ずっっっと!!!!!!」





いや、待て。
ちょっとこの感じダメだわ。重すぎる。



考えてもみろ。

カップリングが確実でも、お互い少し意識し、いざ連絡先を交換……そんなタイミングで片方が「好きィぃ!!結婚けっこんンっ!!!」ってガッついたら、好感度ガタ落ちで「あ……やっぱ大丈夫です」ってなるやろがァ!



国際友人距離適正担保評議会 (IFAB) がこの公式戦(?)を見ていたら、間違いなくレッドカード判定である。



嫌だ!
退場なんてしたくない!!
やっとつかんだチャンスなんだ!


彼女の「友達になりたい」と、私の「ママ友作る!絶対!」の温度感を見誤らないよう、私は呼吸を整えた。


7年間待ち焦がれていたママ友ができるかもしれない、貴重な第一歩なのだ。初っ端から、変な印象を持たれてしまっては、よくないだろう。

むしろ、あえて印象に残らない程度がよさそうな気がする。

よし、ここは冷静を装って……

LINE? 今までもママ友と数えきれないほど交換してきているLINEってことであってますか?
もちろんOKですよ、大歓迎です! だっていつも交換してるし、慣れてるから、ほら、私はいたって平常心ですよ。

こういう感じでいこう。

挙動不審にだけはならないように、品よく素敵に。


でも、ちょっと、うれしい感じも伝えたいな……。

だって、それが本心なのだ。こちらが喜んだらきっと相手も「声をかけてよかった」と思ってくれるに違いない。


あぁでも……!加減がわからない!!!!


早く答えないと、相手を不安にさせてしまう。

ど、ど、どどどどどどうすれば……!!!!!



……人生、いつだって、瞬間勝負だ。

ママ友与奪の権を他人に握らせるな!という冨岡義勇の声が聞こえる。


ここは人生経験をフルに活かして、己の最高のパフォーマンスで応えよう……!


よし……。


「わ! ご無沙汰してます、公園以来ですよね? LINEぜひ〜!」




……ど、どう?


これ、どう????



好感度、どうよ????




悪くないよね……?

この普通な感じ、悪くないよね?!


すべてを出し切った私は、QRコードの出し方でもたつきながらも、無事LINE交換を完了させた。


保育園の自転車置き場での、ほんの数分の出来事だった。

先方はこれからお迎えである。あまり時間をとっても悪いので簡単にお礼を伝え、じゃあまた、という雰囲気作りに努める。


「今度よかったら公園とかで遊びましょう」


去り際に、彼女がそう微笑んだ。



ここここここここ公園?!


無理やり平常心を保っていた心臓が、再び跳ねる。

なんて初心者向きで素敵なお誘いだろう!そう、なんといっても公園よ、ファーストステップは。

いきなりお家訪問とかBBQとかキャンプはハードル高すぎるからさ、公園がいいって、私も思ってた!!一緒〜!!奇遇〜!!!


モテる。
去り際の「公園行きましょう」はモテるよ。

免疫ないんだからコッチは!!!
すぐコロっと落ちちゃうんだからァ!!!!!!!!




「ええ、ぜひ!」

完全に心奪われた私は、あくまでも冷静を装ってにっこり微笑み、手を振りながら颯爽と自転車を走らせた。




ムフ。

むふふ。

ムハハハハハハハ!!!

顔のニヤケが止まらないぜ!!



友達ができた!!

ママ友ができたぞー!!!!


故郷の父よ、母よ。聞こえていますか。18歳まで私の守護神だったらしい父方の祖母よ、空から見てますか。

私は、やりましたよ!
友達の概念はとりあえず置いといて、ほぼ初めての、1対1のLINE交換を、やりとげましたよーー!!


一連の流れを見ていた子どもたちが、不思議そうな顔で「公園? 今から公園行くの?」と尋ねてくる。


きっと、これから待ち受けている楽しいイベントのことを伝えたら、大喜びしてくれるだろう。

【休みの日に、友達と、公園で遊ぶ】

うれしい。

うれしい!!



「うん、今度ね。約束して行こうね、お友達と一緒に。お休みの日に!」


ペダルをこぐ足に、ぐっと力が入る。このままどこまでも走って行けそうな気分だった。



いいなと思ったら応援しよう!