読書感想文 日没
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
タイトル 日没
作者 桐野夏生
出版社 岩波書店
あらすじ
このところ、作家の自殺が頻発している。作家のマッツ夢井は総務省文化局文化文芸倫理向上委員会通称ブンリンから召喚状を受け取る。連れていかれた場所は、誰とも連絡の取れない療養所と呼ばれる場所だった。囚人のように監視された生活の中で要求されるのは、今まで書いてきた作品の問題点を正し、社会に適応した良い作品を書けるように更生することだった。
怒りを感じるマッツは療養所所長の多田や職員西森、おち達と対立する。療養所内では他の人と会話することも禁止され、暴力で従わされるマッツ。当初の予定から滞在期間はどんどんと伸ばされていく。マッツは枕の中から前の住人の置手紙を見つけた。それにはこの療養所の内情と一生出ることはかなわず、自殺は奨励されていると書かれていた。書いた人物は自殺したと言われる作家だった。
暴れて拘束されたマッツは、相馬という女医の診察を受け薬で動けなくさせられていた。相馬は患者の死後の脳を研究の為に欲しがる医者だった。
だが、元作家で更生して看護師になった三上とおちが脱出を手伝ってくれるという。死後脳をとられたくないから自殺するという誓約書にサインをして、自殺を手伝ったことにすれば脱出させられると言う。
マッツは療養所を脱出し、手助けをする作家成田の自転車に乗っていた。成田は断崖の傍で自転車を停めた。波の音が聞こえ朝日が上り始めた。まるで、日が沈むような朝日。
そして、成田はマッツに「早く行けよ」と言った。
感想
怖い、不快、でも止められずに読み進む。
ディストピア小説というのでしょうか、絶望感しか感じない。
作家の作品に読者がクレームをつけるだけで、更生されなければいけないなんてなんて理不尽な世界だろう。発行が2020年9月なので、コロナ禍の自粛警察や隔離などもイメージソースとしてあったのだろうか?
ヘイトスピーチ法の成立の影であらゆる表現の中の性差別、人種差別も規制することになったという世界が舞台で、架空の日本という設定なのかもしれない。差別は許されない。しかし、物語の世界で、空想の世界で、様々な世界をえがく中で、性差別や人種差別をえがくことも出てくるだろう。
去年、私の大好きな映画「風と共に去りぬ」がアメリカで配信停止になったというニュースを見て驚いた。後に説明を加えて配信するとのことだったが、映画の上映禁止などもある作品だから、人種差別の深刻さは私の想像する以上に深いものなのだろうと推測した。でも、私はエンターテインメント性の高い娯楽映画としてとても面白いと思っている。映画でも小説でもどんな作品でも、誰かにとっては不快な事が描かれている場合は多いのではないかと思う。その不快な事が、「差別の助長」と判断される基準がどこにあるのか?とても難しい。
私は今小説を書く勉強をしているが、一度「差別表現に関する講義」があった。その講義では、差別用語を使用してはいけないということに加えて、例文は忘れたが女の子が盲目の人を見て「目が見えないのに一人で外出してえらい」というようなこと言ったという文章がNGだと言われて、混乱した。上から目線で不快な文章だと言うのだ。確かに美しい文章だとは思えないが、このような会話は作品の中に普通に存在しそうで、線引きがよくわからないと思った。だが、差別表現が存在したということで、出版間近の作品が発売停止になることもあるようで、プロの世界ではセンシティブな問題である。
「表現の自由」を理由に「差別が助長」されてはいけないが、
「差別の助長」ということで「表現の自由」が阻害されるのも怖い。
ああ、作家になりたいなんて言わずに、一人で小説書いて自己満足している方が良いのだろうか?
そんなことを感じた読後であった。
