読書感想文 夜空に泳ぐチョコレートグラミー
まだ読んでない方に書店の推薦コメント風にお勧めするなら
「中学生の晴子は祖母にずっと護られてきた。彼女は祖母をからかったクラスメートに攻撃することで孵化した。同級生の啓太はそんな彼女を頑張ったと褒める。展望台から見下ろす街の灯りの中で、懸命に生きる中学生の姿に涙が零れる」
完全ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
タイトル 夜空に泳ぐチョコレートグラミー
作者 町田そのこ
出版社 新潮文庫
2021年本屋大賞の「52ヘルツのクジラたち」の作者町田そのこさんのデビュー作「カメルーンの青い魚」と表題作の入った短編集。
あらすじ
カメルーンの青い魚
祖母に育てられたさきこと養護施設育ちのりゅうちゃん。二人はひかれあっていたけれど、りゅうちゃんは街に居つかない。祖母の通夜に来たりゅうちゃんとさきこは体を重ねるが、すぐにりゅうちゃんは姿を消した。それから12年、さきこは啓太と暮らしている。そんな時、さきこはりゅうちゃんに再会する。りゅうちゃんはペットショップで見たカメルーンのメダカを買ってさきこに渡す。家で祖母の仏前に参ったりゅうちゃんは家に男の気配を感じて帰ろうとするが……
夜空に泳ぐチョコレートグラミー
中学生の晴子は、祖母の烈子に育てられた。おとなしい晴子がクラスメートを殴った。烈子をからかわれたからだ。啓太はそんな晴子を褒める。啓太と晴子は展望台で夜空を見て話す。晴子はチョコレートグラミーのように烈子の口の中で守られてきた。だが、烈子は認知症で施設に入り、晴子は親戚の家に引き取られることになった。晴子は強くなりたいのだ……
波間に浮かぶイエロー
軽食ブルーリボンのオーナー芙美さんは「おんこ」だ。そんな芙美さんの元に、昔の同僚環さんが転がり込む。環さんは妊娠していた。不倫している夫には知らせず子供を産むという環。芙美さんは、環の同僚であった「男」時代に環に恋していたようだが……芙美と従業員沙世と環は共に生活を始める。芙美さんは、赤ちゃんの啓太の面倒をみたこともあり子供を育てることが手伝えると言うのだが……
溺れるスイミー
唯子の父は放浪癖があって、家族と共生できなかった。母は唯子にそんな父のようになってほしくない。だが、唯子はどこかに行きたいと願っているのだ。付き合っている立野にプロポーズされているが、なぜか返事ができない唯子。父と同じ長距離トラックの運転手宇崎に一緒にどこかへ行こうと誘われた唯子は、「行く」と答えるのだが……
海になる
桜子は子供を死産してから夫に疎まれ、暴力を受けるようになる。桜子が辛いときにいつも現れる男清音。死のうとしている桜子と妻を亡くした清音は徐々に心を通じ合わせて……夫と離婚した桜子は助産師になり多くの子供を取り上げた。それから長い月日が経って姉が育てていた晴子を引き取る。助産院の名前は「うみのいりぐち」ここは、広い海に飛び出す稚魚たちの生まれる場所。何にでもなれる場所だった。
感想
すべての短編の登場人物がどこかでつながっている。
どんな登場人物にも、主役になれる物語を持っている。
全体を通して、「この街」に居続けられない人と「この街」に居続ける人との関わり合いが描かれている。
短編なので、なにもかもすべて説明されていないだけに、読者の想像で様々な解釈が出来ると思います。
町田そのこさんの作品は初めて読んだのが本屋大賞の「52ヘルツのクジラたち」で、繊細の人の心の動きを見事に描き出される方だなあと思っていました。そこでR-18文学賞大賞受賞のデビュー作「カメルーンの青い魚」を読んでみたわけですが、これがデビュー作とは思えない完成度の作品で、やられた感満載でした。
いきなりみたらし団子にかぶりついて差し歯が二本とれるというユニークな冒頭。差し歯になった原因と恋人だと思い込まされて読み進んでいた啓太の正体に「ええええ」いやはや、やられた、やられた!
なんだか、自分で作品を書くようになってから(といっても、やっと100枚以上の作品を一作書いただけの、ど初心者ですが……)賞をとられた方のデビュー作などを読むと、「さあ、公募にだすぞー」とはりきっている自分自身に、「あほか」と突っ込みたくなります。
まあ、そんなボヤキは置いといて。
それぞれの短編に色々な仕掛けがあるのですが、私が好きだったのは「波間に浮かぶイエロー」ちょっと違和感のある進み方のお話が、最後に成程と腑に落ちる。そうか……そうだったのか……
まあ、このところどんな作品を読んでも、「いじめ」「DV」などが必ず出てきて、そういうシーンは嫌な気分で読みながら、こんなことをえがくことが避けられない時代であることに、哀しくなります。
でも、人間って自分自身を人より上だと感じたかったり、誰かを自分の支配下におきたかったり、戦いが暴力につながってしまったりする、弱い弱い生き物なんだなあと、つくづく感じます。
