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読書感想文 ヴィクトリアンホテル

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル ヴィクトリアンホテル
作者   下村敦史
出版社  実業之日本社

最近読む本は私的にヒット!が多い。
これは、いわゆるグランドホテルもの。ホテルに集まる訳アリの客たちの群像劇というところなんですけれど、最後にやられた感があります。
あらすじ、感想は備忘録をかねていてネタバレ多いので、これから読む予定おある方はお読みにならないことをお勧めします。
これから読む方に少しだけ。
百年の歴史を持つ高級ホテルヴィクトリアン・ホテルが改装の為明日幕をおろす。ホテルに思い出を持つ客たちが集まる。女優、弁当屋夫妻、スリ、超大手企業の広告担当、作家。其々の人生がホテルを舞台に語られる。
「優しさは呪いだ」優しさの意味を考えさせられる秀作です。


あらすじ

高級ホテルヴィクトリアン・ホテルは改装の為明日一旦幕を下ろす。女優の佐倉優美は最後の夜をホテルで過ごそうと宿泊する。

弁当屋の林夫妻は、最後の夜を贅沢に過ごすためにホテルに来た。贅沢を満喫した後は部屋で大量の睡眠薬を飲む予定なのだ。親友の保証人になった夫の優しさが、自分たちの店も家もすべて奪われる結果となったからだ。
スリの三木本はバイト先の金を持ち逃げして追われている。ホテルで行われている文学賞の受賞パーティーにまぎれこんで飲み食いしたあとは、女優の財布を盗みそれで豪華な食事をした。
文学賞を受賞した高見は、授賞式で緊張していた。同人誌仲間の嫉妬や先輩小説家の激励など様々な情報にさらされ、自分の歩む道を模索することになる高見。
超大手企業の広告担当森沢はTV局に顔がきく。新人女優やモデルなど番組に出たい女達が森沢にすりより、今日も一夜限りの快楽を楽しんでいる。
森沢はホテルで女優と出会う。森沢は初めて心から欲した女性を見つけたと思った。女優と一夜を共にしたが、女優は姿を消してしまった。
女優の財布を盗んだ三木本は隠れたリネン室で女優と鉢合わせする。だが、女優は三木本を庇って逃がしてくれた。
エレベーターが不具合で落ちるかもしれない!その箱に乗り合わせたのは、林夫妻と森沢だった。緊急ボタンも反応がない。森沢はハッチから外に脱出し林夫妻を助けようとするが、夫妻は自分たちは死んでも良いと逃げない。夫妻に自己破産の方法を教え、生きろと言う森沢。

読者は、ヴィクトリアン・ホテル最後の一日の物語としてこの群像劇を読んでいるのだが、どんでんがえし!
何年も前の若き日の林夫妻、三木本、森沢、高見の物語と
ホテル最後の一日の、優美、林夫妻、三木本、森沢、高見の物語が上手く混在していたのだ。
佐倉優美の母親佐倉ゆみも女優で、森沢と関係を持った女優や三木本を逃がした女優は母のゆみの方だった。
ヴィクトリアンホテル最後の夜に現れた林夫妻、三木本は立ち直った人生をおくっていた。高見は作家として成功していた。
そして佐倉優美は佐倉ゆみと森沢の娘であった。

感想

佐倉ゆみと佐倉優美は女優の母娘であったこと。
新人作家の高見が、三鷹コウという作家と同一人物だったこと。
で上手く騙されてしまいました。やられたな。
三分の二くらいは、ヴィクトリアン・ホテル最後の一日の物語として読んでいたので、「二度読み必至!」のキャッチコピーはなるほどです。

良いシーンが色々あるんですね。たとえばロマンTティックなシーン

佐倉ゆみは役に行き詰り、森沢に言います。
「私は海面に出て息をしたかった」
芸能界に自由はないと悩むゆみ。森沢は言います。
「この一夜だけでも、僕が空気になりたい」
ローマの休日のアンとジョーのような恋におちた二人。
王女アンではなく、アーニャって呼ぶんですよ森沢が。
全く、新人女優を切って捨てていた嫌な男のくせに!
林夫妻の命を救ったり、優美に寄り添ったり。嫌な男の印象を与えてから中身の魅力を見せてくる。憎いな~
森沢は優美にも言います。
「ヘップバーンが美しかったのはなぜかわかるかい?」
「慈愛にみちていたからだよ。彼女お気に入りの詩を知っているかい?」
「魅力的な唇になるためには、優しい言葉を口にしなさい。可愛い目になるためには、人の美点をさがしなさい。細い体型になるためには、飢えた人々と食べ物を分かち合いなさい」
「顔立ちは日頃の言葉が作り上げるものだよ」
いやいや、こんなこと言う男「宝塚か!」ってつっこみましたよ。

創作物に対する世間の評判に関して三鷹(高見ですがね)が言う言葉に、考えさせられました。
優美の演じる役は、タフな主人公が銀行内の男社会の理不尽に立ち向かい結果を残すけれど「他者を許す勇気」を持った人物に描かれていた。
つまり理不尽な事をした悪人たちを許す優しい女性に描かれているんですね。それに対し
「女は優しくなければならないという呪いを女性に植え付ける」
「現実に女性が活躍できない社会なのにまるで活躍で来ているかのような誤ったメッセージを社会に伝えている」
「偏見を助長する作品に加担している」
と批判されるんですね。三鷹は言います。
「物語に正解なんてないんです。一人一人の正義や価値観を全て反映させた物語は存在しません」
「どんな描き方をしても、人が傷つく、社会に悪影響を及ぼす、偏見を助長するという三つの倫理で全否定して、批判できるんです」
「何かを表現すれば、誰かは傷つくんです」
「読者も視聴者も感想は自由に言えます。何の感情も掻き立てない物語にいったいどれほどの価値があるでしょう」
「感想で表現の自由が奪われるわけではありません。否定的な感想を見て今後に生かすも、今までのスタイルを貫くも、創作者側の自由です」
「誉め言葉も批判でも、作品を変えることを目的としていなければ、ただの感想です。しかし、個人的価値観を持ち出して、作品を自分の理想通りに変えさせようとしているなら、それはもはや感想ではありません。単なる独善と傲慢です」
「フィクションの表現の加害性に敏感になるなら、自分が吐く言葉にも同じだけの厳しさを向けるべきです。創作物より、言葉の方が何十倍も人を傷つけるのですから」
三鷹の言葉に優美は救われます。でもこれ、作者下村さんの思いではないかと感じました。創作物にこじつけのような批判をされた経験もおありなのかな?と感じました。
震災を題材にした作品を書いた高見に先輩作家が言います。
「物語は、人の心の中に存在している欺瞞や偏見をいともたやすく暴き出す。君の受賞作を読んで不快感を覚えた読者がいたとしたら、それは自分がひたかくしにしていて向き合いたくなかった欺瞞や偏見を突き付けられたからだよ。胸をはればいい」

なんだか考えさせられます。
私は、舞台鑑賞や読書が趣味ですから日々創作物と出会っています。
好き、嫌いもあるしそれに対する感想をこうしてnoteに綴っています。そして、いつかは自分で創作物を作りたい、小説を書きたいと考えています。
周りの声を無視するなんて難しいけれど、自分で創作物を発表する日が来たら(いつになるのかわからないけれど)覚悟を持って胸をはれる作品が書けたらいいなあと思います。


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