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読書感想文 蝶の眠る場所

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル 蝶の眠る場所
作者   水野 梓
出版社  ポプラ社

あらすじ

小学校の屋上から小学生が飛び降り、それを微笑みながら見ている小学生がいる。衝撃的な出だしです。
母娘殺しの死刑囚今井武虎は死刑執行直前に牧師に「自分は事件に関与していない。真犯人は別にいます」と言葉を残し、刑は執行されます。
テレビ局の記者美貴は夫を事故で亡くし、子育てしながら仕事をしています。飛び降りた小学生大河の母親は「大河は殺された」と主張しますが警察も学校も事故で処理します。美貴が取材する内に大河の祖父が今井武虎であることがわかります。大河は祖父が人殺しだといじめを受け自殺した可能性がでてきました。加えて、美貴は今井は冤罪ではないかと思い始めます。今井の冤罪を番組にしようと考えた美貴は、番組「アングル」のスタッフと共に調査を開始し、障害をはねのけながら取材しました。
今井は冤罪であることがわかります。それは、ある人物の復讐でした。その人物は、関係者の身勝手な事情を利用して今井を罪へと陥れたのでした。

今井が無罪を主張しながらも最後は刑をうけいれたのは何故か?
故意に今井に罪を着せようとしたのは誰か?
今井とその人物との間にあった真実は何か?
真犯人は誰か?

真犯人を庇おうとする人物が大河の自殺にもかかわっていたのです。すべてが明らかになった時、今井が牧師に託した遺書が明らかになります。

感想

報道記者だった作者の初の著書!!!
もうほんとうに!!!ですよ。初って?!この方、天才か?!

記者だけあって、取材や調査の描写はリアルで読みごたえがあります。
主人公美貴の奮闘ぶりも生き生きと描かれています。切ないような冴木への恋愛感情、仕事上のジレンマ、子育ての苦労も共感したりキュンとしたりして読んでいて飽きさせません。
そして、絡んだ糸をほぐす様に真実が見えてくる状況の描き方も自然ですし、伏線もすべて回収されて違和感がありません。

ある登場人物は、ナチスの収容所に書かれた蝶の絵を見に行きます。残虐な死を前にした人々が、死に永遠の安らぎを重ね合わせて蝶の絵を壁一面に描いたと聞かされたからです。彼らにとって、死とはさなぎから蝶が飛び立つように、肉体という殻を脱ぎ捨て自由になることだったのだと。
しかし、壁に蝶など描かれていませんでした。そして収容所の生き残りの物売りの老人に日本人ならナチスと同じだと言われます。
「お前の中にもヒトラーはいる」と
人はいくらでも残酷になれる。
自分の中にいるヒトラーに操られることがある。
そんな残酷な自分は生きていてはいけない。生きるべき人が殺され生きる価値のない自分が生きている。
そんな葛藤に苦しむその登場人物に、美貴は「生きて下さい」と言います。

戦争や死刑では殺人が許され評価されている。
戦争は許されるのか?
死刑は許されるのか?
死刑が無ければ被害者や遺族の気持ちはどこへいくのか?
冤罪は作ることができるのか?
証言という人の記憶は信用できるのか?
偽りの記憶を作り出すことはできるのか?
作られた冤罪にだれがどう責任をとれるのか?
自死は誰の罪か?選んだ本人か、追い詰めた他人か?
愛すると言うことはどういうことか?復讐によって愛が蘇るのか?
憎しみの連鎖は止められるのか?
人は人を赦せないのか?

様々な感情で心が揺さぶられます。
何をどう受け止めるかは人それぞれだと思います。
ですが、読者を置き去りにせず、読者に何かを押し付けず、それでいて考えさせる。みごとな作品だと思いました。
これが、デビュー作だなんて、本当に楽しみな作家さんです。
重いけれど腑に落ちる、静かな読後感の残る作品でした。


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