読書感想文 護られなかった者たちへ
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
タイトル 護られなかった者たちへ
作者 中山七里
出版社 NHK出版
あらすじ
全身を拘束され餓死させられた遺体が発見される。被害者は福祉保険事務所の課長三雲だった。三雲は職場でも家庭でも評判の良い善人だった。
次に同じように拘束され餓死させられた遺体が発見された。被害者は県会議員城之内だった。議員としても家庭人としても評判の良い人格者だった。
何日も時間をかけて餓死させるという残酷な犯行。県警捜査一課の笘篠は捜査を始め、三雲と城之内の共通点を洗い出す。
二人は過去に同じ福祉保険事務所で生活保護の受付担当をしていた。
利根は、世話になった一人暮らしのけい婆ちゃんの生活保護申請が却下されたことに怒り、福祉保険事務所で三雲と城之内を殴った。その後保険事務所に放火した罪で懲役八年の刑に処された。八年の懲役を終えて出所し、利根の出所後、二つの事件が発生した。
けい婆ちゃんは、生活保護申請が却下されたあと餓死していた。笘篠は利根が犯人だとにらみ、被害者二人と同じ福祉保険事務所で働いていた上崎の身が危ないと思う。上崎はフィリピンを旅行中で、笘篠は帰国の飛行場に利根が現れると予測し飛行場を見張った。上崎は女装した旅行客に変装していたが笘篠は利根を逮捕する。だがその後上崎は行方不明となった。
利根は自分は犯人ではない。上崎の身が危ないと言う。利根を伴って上崎が拘束されている場所にいった笘篠。そこにいた、真犯人とは……
感想
やられた感満載の読後です。読者に早い段階から犯人を教えてしまうミステリーは多いです。でも、それがミスリードっていうのは予想外でやられたなあと思いました。だから、ミステリーは油断しながら読んじゃだめなんですよね。だから、物語運びは上手い作品だと思います。
舞台が東北、登場人物は震災でそれぞれに大切な人を失っています。
殺人の動機は、生活保護申請を受け付ける公務員が申請を却下したために生活保護が受けられず餓死した人物の復讐をするという設定です。
表面的には親切で丁寧な言葉使いをする公務員が、心の奥底では申請者を見下している。そんな対応に申請者は傷つき、諦めざる得ない。
だが、一方で単に怠けたいだけの不正受給や、娘の塾の費用を密かに稼ぎながら受給を続けようとする母親の不正受給なども存在する。
本当に受給が必要な人が、その人が善人であればあるほど、国の世話になることを躊躇し、ずるい人間が受給してしまう。
受給を認めるか、認めないか?そこにルールを定めなければいけないジレンマ。本当に必要な人がそのルールの枠からはみ出てしまう矛盾。
一般的には、善人、人格者と思われていてもその裏では弱者を見下したり、少女買春をしていたりする人間である事実に、捜査をする警察官も嫌悪感を抱く。だって、彼らはそんな人間を護らなければいけない義務のある公務員でもあるからだ。
とはいえ、人を拘束して餓死させると言う残酷な殺人が許されるわけではなく、その真犯人は被害者と同じことをしているクソ野郎であるのだ。
最も、けい婆ちゃんが望まない形の行動をとった真犯人は、けい婆ちゃんの残したものに号泣する。深く後悔しながら刑を受けるのだろうと感じさせる終わり方だ。
正直、真犯人がけい婆ちゃんの為に何年も殺意を抱くとか、大人を拘束して餓死するまで放置することを一人でやるとか、それに証拠を残さないとかいう設定は少々違和感を感じるものではあったけれど、この作品の言いたいところはタイトル通り「護られなかったもの」なんだと思う。
国が国民を護るということはどういうことなのか?
生活保護が却下され命をおとした者と、大震災で命をおとした者に差はあるのか? どちらも国が護るべき命だったのではないか?
いや、国民は自分の命をどこまで国に護られて、どこまで自分で護るべきなのか? 国家の責任? 自己責任?
罪を償う為の刑務所では生きる為の食料は保証され仕事の技術を学べるのに、罪も犯さない人が餓死する。
きっかけは善意であったとしても法律を犯せば罪で、悪意がきっかけで人の命が失われても法律違反でなければ罪ではない。
罪とは何か? 償いとは何か?
人が良すぎる為に会社をつぶしてしまう。税金も払えなければ、生活もできなくなる。人が良い事は「悪」なのか?
善は? 悪は? みんなが幸せになるために、みんなで集めた税金というお金の使い道は、誰がどう決める?
けっこう考えさせられます。
現在もコロナ給付金の詐欺や不正のニュースが毎日のように流れます。
どのようなルールで、どのように交付すれば公正であるのか?
本当に難しいですよね。
でも、大体はらうべき税金を払わないとか、税金を不正受給で受け取るとかいう罪に対して、罰が軽すぎる気もします。払うべきものは払う、決して不正に受給しない、そうでないと大変なことになる。それくらいのプレッシャーのある罰でなければ不正は減らない気がします。
でも、私昔から思っているのですが、生活保護ってどうして現物支給しないのだろう? 家賃、光熱費は国が支払い、日常雑貨の配布と宅食で生活できるのではないか? お金で払うから不正をしようとする人が多いのではないか? そう感じる私の感覚は変なのでしょうかね?
