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読書感想文 商売繁盛 時代小説アンソロジー

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル 商売繁盛 時代小説アンソロジー
作者   朝井まかて 梶よう子 西條奈加 畠中恵 宮部みゆき
出版社  角川文庫

5人の作家の短編時代小説を、商売をテーマに集めた作品集です。江戸のお仕事小説という感じです。編者は末國善己さんで、お仕事時代小説をけん引している女性作家の作品を集めたとのことです。なぜ、女性だけなのかはわかりませんが、上手い作家さんの作品ばかりで、どれも読後感は良いです。

あらすじ

晴れ湯 朝井まかて
松乃湯のお晴は、手習いより店の手伝いをする方が好きな女の子だ。しかし新入りの新吉が働き者ですることがなく、手習いにいかなければならない。お晴は、手習いをサボッて母親を心配させたりする。風の強い日、火事を心配した新吉に早めの閉店を助言されたお晴は、負けん気でまだ閉めないと言い張る。が、火の粉が薪に燃え移ってしまう。そのボヤを消したのは、新吉と客たちだった。新吉が店をやめるので、ずっと働かなかったお晴の父親が、松乃湯で働き始める。お晴は父が三日と持たないだろうとにらんでいる。今日も松乃湯の一日が始まる。

月に叢雲、花に風 梶よう子
お瑛は、兄長太郎と小さな雑貨屋「みとや」を営んでいる。兄は売れない品ばかり買い付けてくる。おまけに店をお瑛にまかせて人の世話をして帰ってこない。そんな兄が質流れの守り刀を買い付けてきた。夜になると音をたてる刀。噂で呪われた刀だと聞いたお瑛は、刀を売りに行った兄の身を案じて寝込んでしまう。だが、呪いの噂は、兄が流した嘘の噂で、欲深い質屋を騙して守り刀を取り返す策略だった。怖くて、心配して、やっと安心できたお瑛だが、やはり自分がしっかりしなければと気持ちを引き締めるのだった。

利休鼠 畠中恵
損料屋を営む清次は、武家の次男坊勝三郎に鼠の根付を見つけてほしいと頼まれた。養子に入る家から頂いた大切な根付の鼠が、自分で逃げたと言う。その根付が付喪神だと思った清次は、店の道具の付喪神に調べさせようとするが上手くいかない。だが、根付は勝三郎の兄が勝三郎に嫉妬して盗んだことがわかる。勝三郎はそれを知りながら結婚が嫌で嘘をついていた。清次は家に振り回されているのは相手の娘もそうで、優しい気持ちを持つべきだと勝三郎をたしなめる。

千両役者 西條奈加
料理旅館「鱗や」の若旦那八十八朗は、鱗やを盛り立てる為に、役者の小村伴之介に贔屓になってもらいたいと考え、ファンの食事会を鱗やで開催することになる。当日は小村のファンのお金持ちのお内儀達が集まった。お内儀の一人、お江与は落花生アレルギーだった。落花生の入らない料理を提供したにも関わらず、お江与が倒れる。原因は、落花生の油のついた口紅のせいだった。ファンの一人おすみが、小村と深い仲のお江与を懲らしめる為画策したのだった。八十八朗と小村は騒動を大きくせずに、小村の所為にして皆を納得させる。女にモテて、気風の良い小村はまさに千両役者であった。

坊主の壺 宮部みゆき
コロリ(コレラ)が蔓延している江戸の町。材木問屋田屋の主人重蔵は、私費を投じてお救い小屋を建ててコロリで家族を亡くした人々を助けている。重蔵は疫病に詳しく、重蔵の助言に従うと感染しなかった。助けられたおつぎは、田屋で働くことになった。重蔵が持つ掛け軸の絵を覗き見たおつぎは、壺に入った坊主の絵を見る。だが、他の人には壺しか見えない。重蔵は坊主の見える人は選ばれた人間で、疫病にかからず疫病の避け方がわかるのだという。そして、坊主の絵が見える人には、眠っている間だけ人の姿でなくなると言う。重蔵は自分の後をつぐのはおつぎだと言って息子と添わせ亡くなる。重蔵が亡くなったあと、掛け軸の壺に入っている人は、重蔵によく似た人に変わっていた。

感想

晴れ湯
朝井まかてさんは、私の好きな作家の一人です。私の通う小説教室で講演されたことがあり、とてもわかりやすくお話をされる控えめで感じの良い女性作家さんでした。作品もそのお人柄が出たような、優しさと秘めた強さが感じられます。この作品は少女が主人公ですが、お仕事小説と考えればこの子がお客の体をぴかぴかにする三助の仕事に誇りを持っているところが、爽快に感じました。でも、悩みもあるし、新しい事もしようと考える。ライバルの存在に、冷静な判断が出来なくなる。そんなお晴の姿は仕事をする人すべての人が感じていることかもしれません。

月に叢雲、花に風
お瑛と長太郎の実家の小間物屋はつぶれていて、二人は再建を目指しているのですが、実家の小間物屋で働いていた益次は独立して成功している設定になっています。お瑛と長太郎は実の兄弟ではないのかな? 「益次が兄さんならよかったのに」と言って、後で後悔するお瑛の姿に、どこか恋心めいたものを感じました。これ、シリーズものの一編かな?
守り刀が夜な夜な音をたてて、お瑛は怯え、噂を聞いてさらに怯える。でも長太郎が、悪徳質屋から守り刀を取り上げる為に流した噂だったという流れは、ちょっとしたミステリーのようでした。お仕事小説としては、実家の倒産、益次の成功、仕事より親切を優先する長太郎の中で、お瑛が懸命に商売している姿が健気です。刀の音だと思っていたら、建付けの悪い建具のせいだったは、ちょっと笑うかな。

利休鼠
これは付喪神という、古道具が神様になってしまって色々とおしゃべりをするファンタジーのようなお話が楽しいです。清次が、仕事で付喪神のついた道具を貸し出して(清次の仕事はレンタルサービス)付喪神に情報収集させようとするという設定が面白かったです。しかし、それでは解決せず、別のルートでお話が進んでいくのがちょっとどうして?とはなりました。兄弟の嫉妬は、時代を代わらずありそうですが、武家の常識や、家の為の結婚などは時代小説ならではだと思いました。

千両役者
小村がいい男。こんな役者なら皆が惚れるのも無理はない。
だが何よりも、八十八朗の企業戦略もなかなか面白く、ミステリー風に犯人を暴き、誰もが傷つかないように上手く解決する。
お仕事小説としては、このお話がスカッと爽やかで私はこれが一番好きでした。西條奈加さん「心淋し川」「曲亭の家」と読みましたが、好きな作家さんの一人となりました。

坊主の壺
コロナ禍の今、身につまされるようなお話です。私財を投じて皆を助ける主人を尊敬するおつぎ。でも、そんな重蔵を悪くいう人間もいて、人の心の醜さも感じさせます。お仕事小説としては、尊敬する上司についていく部下という感じです。でも、重蔵の行為が単に親切だけではなく、超自然の力の関わった運命のようなものでもあった流れが、面白かったです。

歴史上の事実として、人間と感染症の戦いは続いていて、私たちは、今まさに大きな戦いの波にのまれている感じがします。超自然の力が現れて解決してくれればよいなあなどと思って、アマビエ柄の財布を買ったりしている私ですが、本当は人間の自覚と行動が解決のカギなのでしょうね。
TVで街行く人がインタビューされて、他者の行為を懸念するような答えをしているのだけれど、きっとご本人は、自分は他者とは違う事情でその場所に存在していると思っているのだろうな、と感じます。
自分はちゃんと行動しているつもりだけれど、他者から見ればどうなのだろう? 自分の都合と他者の都合、何が優先され何が批判されるのか?
ふと、今の日本のそんなことを、感じさせられる作品でした。





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