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読書感想文 星落ちて、なお

まだ読んでない方に書店の推薦コメント風にお勧めするなら
「天才絵師暁斎の娘暁翠の人生は、父の獄に囚われたような絵師の人生だった。父に追いつけない焦り、作品に対する自分の思い、周りの目。妻となり子をなしても、芸術家であり続ける。創作の苦しみがあろうとも、この世を喜ぶ術さえあれば、人は生きていけるのだ」

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル 星落ちて、なお
作者   澤田瞳子
出版社  文藝春秋

第165回直木賞受賞作品です。

あらすじ

 画鬼と呼ばれた天才画家河鍋暁斎。「大切な事は絵を描くことだけ」という暁斎の元に生まれた異母兄妹の周三郎と暁翠。どちらも絵師として育てられる。父暁斎は北斎が応為を育てたように、娘の暁翠を育てたかったようだ。暁翠と周三郎はお互いを敵視している兄弟だが、兄周三郎こそ父と同じ絵を描ける存在だった。
 父の手伝いをし、父を看取り、周三郎以外の兄弟のめんどうをみる暁翠こそ暁斎の後継ぎと周りからは思われているが、本人は周三郎の方が父の才能を引き継いでいるとひけめを感じている。
 自身も弟子を持ち、流行の挿絵などを描き、学校で教え、結婚、出産も経験する。時代が過ぎると共に、父暁斎の絵は徐々に流行遅れと思われるようになる。それでも、父の画風を貫く兄周三郎の存在は、暁翠の絵に対する姿勢を非難するがごとくである。
 画家として活躍する為には展覧会で賞を取らなければいけない時代となっていく。弟の様な八十五郎は絵師としての生き、その妻おこうは夫八十五郎が絵を描いて有名になることを嫌い、暁翠に嫉妬する。暁翠自身も、絵に集中するために夫と離縁する。
 暁斎の弟子で、後援者でもあった大店の主人清兵衛は凋落し、笛の奏者として妾のぽん太と細々と暮らしている。
 芸術に対する価値観が時代と共に変化し、偉大な父にいつまでも縛られ続ける暁翠の姿が、明治から大正、関東大震災の風景も通して描かれた秀作である。

感想

清兵衛の言葉が沁みます。
「この世を喜ぶ術をたった一つでも知っていれば、どんな苦しみも哀しみも帳消しにできる。生きるってのはきっと、そんなもんじゃないでしょうか」
「暁斎先生や周三郎さんへの引け目のせいで、ご自身の中にある喜びに顔を背けちゃいませんか」

 暁斎という絵師も、暁翠という絵師も知らなかったので、今度浮世絵を見る時は意識して見ようと思いました。
 どんな世界でも、天才の親を持ち、子供が同業を継ぐというのはなかなか難しいことだと思います。親以上の才能を持っていれば親とは違う世界を作りたいでしょうし、才能がなければ親と比べられて悩むでしょう。
 芸術として認められること、商品として売れること、自分の目から見た作品の芸術性が必ずしも一致しないということは、芸術の世界のジレンマだと思います。でも、そんな世界で生きることを選んだのなら、苦しみの中に見つける喜びでもって良しとする潔さが必要なのだと思います。

とても丁寧に書かれた作品で、好感を持ちました。
話自体は大きな出来事があるわけではなく、一人の女性の人生を淡々と追っている感じがしました。実在の人物をモデルにした時代小説ですから、あまり想像を膨らませるという感じにはならなかったのかもしれません。

美しい文章で書かれた、美しいお話は読後感も爽やかでした。

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