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読書感想文 朔が満ちる

まだ読んでない方に書店の推薦コメント風にお勧めするなら
「カメラマンの史也は整形外科で出会った看護婦梓の裏の顔を見てしまう。突然家に押し掛けてきた梓。史也は梓と同じ”こっち側の人間”だという。史也も梓も悲しい過去を持っており、殺したいほど憎い相手がいた。お互いにすべてをさらけ出せるようになった二人に訪れる未来とは」

タイトル 朔が満ちる
作者   窪 美澄
出版社  朝日新聞出版

完全ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

あらすじ

カメラマンの史也は、子供の頃酒乱の父の暴力を受けていた。母も暴力を受けており、妹はいつも怯えていた。村の駐在はそれに気づいていたが、中々立ち入ることができない。だが、史也が13才の時、史也は父親を斧で殴りつけた。半身不随になった父と母親の元を離れ叔母に育てられた史也と妹は成人し都会で暮らしている。
看護婦の梓は母親に捨てられた施設育ちだ。医者に引き取られ大切に育てられたが、自分が医者の死んだ子供の身代わりと知ってから両親との間に溝を作っていた。
怪我で訪れた病院で梓と出会った史也は、夜の街で梓の別の顔を見る。そして妹と行ったレストランで、史也は梓から突然恋人のふりをしてくれと言われる。それは、梓が親の決めた結婚相手を断るための狂言だった。
突然ころがりこんできた梓を追い出せずにいる史也は、徐々に自分たちが「こっち側の人間」であることに共感を持つ。こっち側の人間とは、親に愛されず、虐待されたり捨てられたりした子供時代を送った人間である。
同じくこっち側の人間、キャバ嬢の水希が自殺する。二人は水希の遺骨を母親に届けに行くが……
二人は、今までできなかったことが、お互いに相手がいればできる気がする。史也は憎んでる父に会えるのか? 梓は自分を捨てた母に会うのか?
そして、憎む相手に会った二人がとった行動は……
同じ苦しさ、悲しみを持った二人の未来とは……

感想

最近、児童虐待がテーマになった作品が多いです。それだけ、親の行為が残虐で、作家の「書こうとする使命感」みたいなものを刺激するのだなあと感じます。
この作品は、親に愛されずに育った二人が、相手の行動を見たり支えたりするうちに、自分の感情をさらけだし、整理し、お互い寄り添っていくという、未来に希望のある作品です。過去に関わった人や、二人を色々な意味で大切に思ってくれる人の優しさにも支えられてハッピーエンドの作品です。
タイトルの「朔が満ちる」の朔とは”元に戻る”という意味を持つようです。月が満ち欠けして元に戻る意味を持つ漢字のようですね。なので、史也と梓のつらい過去は終わり、新しい二人の人生が始まるというような意味合いではないかと感じました。

しかし、小説とはいえ子供が虐待されるシーンは読んでいて怒りがわきますね。助けない母親や入り込めない駐在にもイライラします。
そんな過酷な子供時代を生きていながら、叔母に育てられた史也はさほどひねくれもせず、本当に頑張ったねえとほめてあげたいところなんですが……

なんか、違う。

やはり小説というのは、作者がいて、作品を読む読者がいて、双方の感じ方の違いやずれによって、感動ポイントが違うものなのだろうと感じます。

きっと、この作品を読んで、大感動する人もいるでしょうし、すっごく面白かったという人もいると思います。
内容も、構成も、文章も、素晴らしいです。
多分、良いという人の方が多いと思います。

じゃあ、何が違うのか?

私は多分、主人公が好きじゃないんだろうなあ。

例えば梓。
本当に憎くて捨てた娘なら、呼びつけられても来ないという選択ができたはずの梓のお母さんが会いに来るのですね。
そして呼びつけた梓は土下座する母親の頭に足をのせて、母が持ってきたお寿司を投げつけて散々ののしるんですね。で、母親が帰ると史也に言う。
「手荒れしている母親がかわいそうで殴れなかった」
そんな、梓に史也は「優しいな」と声をかける。
で、こぼれたお寿司を食べて「悪くない」
結局母親を許すんですね。
どうせ許すなら、お母さんのいる前で許してあげなよ。と思ってしまう。
まあ、これで二人の絆は深まるんですけれど……

例えば史也。
梓の育ての親が史也に言うんです「梓のことを絶対に傷つけないで欲しい」
で、史也は答えるんです。「絶対に傷つけたりしません」
ひねくれた私は心の中で突っ込むんです。
なんでそんなこと言い切れるの?実の父親の頭斧でかち割ったくせに!
死にかけの父親の顔にクッション押し付けたくせに!
そんなことした自分自身が信じられるの? むしろ自分が信じられなくて、好きな人に暴力振るわないか不安にならないの?

お互いが分かり合える人と出会って、様々な人との出会いを通して、そして誰もが自死しないように願って、許したり、許さなかったり、でもほぼいい感じにハッピーエンド。悪くない終わり方です。でもなんだか、私は梓と史也にイラっとして好きじゃなかったんですね。これはあくまで、好みの問題だと思います。

でも、でも、面白い作品でしたよ。決してつまらない作品ではありませんから、人其々の感じ方だろうなあって思います。


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