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読書感想文 まだ人を殺していません

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル まだ人を殺していません
作者   小林由香
出版社  幻冬舎

あらすじ

翔子は娘美咲希を5歳で事故で亡くし、その後離婚し一人暮らしだ。
今は自宅で絵画教室している。
老女と幼女を誘拐して殺しホルマリン漬けした猟奇殺人の犯人が逮捕される。犯人勝矢は翔子の亡くなった姉詩織の夫だった。
姉詩織は翔子にとって憧れであり、信頼していた大好きな人だった。
甥の良世は亡くなった美咲希と同じ年に生まれ現在9歳だ。
翔子は良世を引き取ることにする。

姉そっくりな良世は心理的な病で言葉を話さず、翔子は懸命にコミュニケーションととろうと努力する。絵が上手い良世は絵画教室の子供たちとも仲良くなり徐々に学校にもなじんでいく。言葉も話す様にもなり距離の縮まる思いを感じる翔子だったが、良世が殺人犯の息子であることがネットで暴かれ引っ越しを余儀なくされる。
ネットで暴いた犯人は? その原因は? 
翔子の正義感が引き起こした結果に翔子は悩む。
姉の親友サナさん、児童相談所の二之宮さん、兄の雅史の手を借りながら新生活を始める翔子と良世はぶつかりながらもわかりあっていく。養子縁組をして親子になるが、良世は転校先でも問題を起こしてしまった。

良世の行動や描く絵画にサイコパスのような不気味さを感じる翔子。
「人を殺したい」などという言葉を口にする良世に恐れを感じる翔子。
姉詩織は、本当は翔子を嫌っていたのか?
勝矢が殺人犯であったことを良世は本当に知らなかったのか?
勝矢は何の為に殺人を犯したのか? 
きっかけになったホラー漫画の作者は誰か? 

作者の思惑に上手くミスリードされ、最後まで飽きずに読める作品です。

感想

子供を育てるのに必要なのは「愛」だが、「愛」が何かを明確に答えられる人はいない。
そんな言葉で始まるこの物語は、親と子という人間関係に何が必要なのかを問いかけられているような気がします。
どんなに愛おしく思っていても、思い通りにならない。人に迷惑をかけないように導き育てる使命を感じて接しても、分かり合えない。
実の親子でも、養母であっても、人間として分かり合えない部分も必ず存在する。善悪の価値観の違いや、自分を守ろうとする姿勢、自分が正義だと信じて人を攻撃する態度、人によって様々に違う。
一見善人である人が闇を抱えていたりする中で、信頼できる相手をどうやって見極めるのか?
翔子がわが子を失ったことから子育ての自信を失い、良世を育てることで自信を取り戻していくというような単純な成長物語ではなく、善意や悪意が絡み合うように翔子と良世を取り巻き、その中であがきながら懸命に良世の味方でいようとする翔子の姿に涙がでる。

殺人犯の子というだけで、いつかは人を殺す悪魔だと言われる良世。
良世は「あなたの息子が人を殺せば、あなたは殺人犯の母になるのだ」と自分を苦境に陥れた同級生の母親に言う。
人を殺すことなど、その気になれば子供でもできる。
そんな現実を想像すればするほど、殺人は取り返しのつかない犯罪でありながら、意外と簡単な行為であるように思えてうすら寒くなる。
殺人犯の息子であることを一生その肩に背負いながら生きていく良世の生きる世の中には、卑怯な人間も、良世を傷つける人間もたくさんいる。
でも、良世は「まだ人を殺していない」
殺人犯勝矢の壮絶な生い立ちに、良世にとっての翔子のような人がいれば殺人犯にならなかっただろうか? 詩織を失い傷ついた勝矢を騙す人がいなければ勝矢は狂わなかったのだろうか?
犯罪に手を染めるか、染めないか? それは、誰の前にもある選択なのだ。

良世だけではない、私を含め殺人を犯していないすべての人間が「まだ人を殺していない」のだ。
最近、いとも簡単に殺人を犯す事件が毎日の様に見られる。
背中から人を刺すなどというケースが多い事も、なんとも恐ろしい。後ろから人が近づいて来るとどきりとすることもある。

人の持つ残忍さと、愛情を、考えさせられる作品だった。


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