読書感想文 灰の劇場
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
タイトル 灰の劇場
作者 恩田陸
出版社 河出書房
あらすじ
「飛び降り2女性の身元わかる」という三面記事。今まで事実に基づく物語を書いたことのない作家の私は、そのふたりを書きたいと思った。そのふたりを知っているように思うのだ。顔も名前も知らないはずの二人の物語を私は書き、その物語が舞台化され上演される。
大学の同級生であったMとT。独身のM、好きでもない男と結婚して離婚したT。二人は同居を始め、40代半ばで命を絶った。女二人の生活に、何があったのか? 小さな絶望の積み重ねが二人を死へと誘ったのか?
作家の私は、顔のない二人の物語が、顔のある演者によって舞台化されることに葛藤している。
舞台化される過程や感情と、灰の劇場という作品の内容が交互に現れ、幻影や空想を交えながらゆるゆると進んで行く物語です。
感想
エンタメ小説という感じではないですね。
作者恩田陸さんの、心の中に棘の様に刺さっている出来事や感情を様々な視点で語り、一つの物語に仕上げた感じがします。
優秀で働く女性として生きていく能力を持ちながら、好きでもない男と結婚し専業主婦になるTの心境。Tの結婚式に招待され、新婦友人という肩書で席に座るM。TとMの間に降る白い羽。幻想的でありながら何を意味するのかは読者によって変わり、その物語を舞台化する演出家の考え方などが語られると、自分が今どこにいて、誰の視点で物語を読んでいるのかわからなくなるような不思議な浮遊感を感じます。
日常の中でおおらかでのんびりした性格の人ならまるで気にしないような話でも、突き詰める人にとっては絶望を伴う苦痛であることが、細かな出来事を通して感じることが出来ます。
そんなささいな感情が爆発しそうになる瞬間。
生きるって何? 死ぬって何?
私自身って誰? 目の前にいる友人は誰?
私の周りにいるこの人たちは、私のお葬式に集まる人たちなの?
人と人との関わり合いの濃さや薄さを感じさせられ、孤独を意識します。
そんな孤独の中で、目の前にいるのはTにとってのM、MにとってのT。
もう疲れた。
そんな理由だけで、人は命を絶ってしまうのだろうか?
疑問を持ちながら、絶対そんなことはないと言い切れない自分の気持ちを持て余しながら読み終えました。
事実は小説より奇なり。
いや、事実って何?
そんな感想を抱きました。
