読書感想文 夜明けのすべて
ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。
あらすじ
PMS(月経前症候群)で月に1日だけイライラする藤沢美沙。その症状がでると相手が上司であろうが関係なく激しい感情をぶつけてしまう為に、大手の会社を退職し、今は事情を理解してくれる家族的な会社栗田金属で働いている。先月入社した山添は、やる気のないぼんやりした男の子だ。美沙と山添以外は、皆おじさんとおばさんの会社はそこそこの業績で、居心地が良い。
そんなある日、美沙は山添がパニック障害であることを知る。
山添はある日突然意識が遠のいた。検査をしても異常がなく、心因性のパニック障害と診断された。発作はいつ起きるかわからず、それが怖くて電車にも乗れず、会社にも行けない。仕事もプライベートも充実していた山添の生活は病気のせいで変わってしまった。山添は薬で病気をおさえ、退職して徒歩で通える栗田金属に入社した。
山添のパニック障害に気づいた美沙は山添の世話を焼き始める。
パニック障害で美容室に行けない山添の髪をカットすると言って家におしかける美沙。その結果こけしのような失敗カットになるが山添は二年ぶりに笑った。徐々にお互いのことを知る二人。美沙のPMSの予兆を感じられる山添は発作が起きる前に外へ連れ出してやる。美沙は観た映画の感動を山添に伝えに行く。二人で休日に会社を掃除する。社長からのお礼のお金で一緒にCDを聞く。美沙が盲腸で入院すると自転車を買って病院へ行く山添。恋愛感情はないようだが、一緒にいることをお互い楽しんでいるようだ。山添の症状は知らず知らずに良くなっているようで、仕事に対しても新たな企画を思いつくようになり、美沙と一緒に会社を盛り立てる企画を立てる。
二人の関係は今のところ相手を「好きになることができる」関係だ。
だが、山添は今まで減らすことのできなかった薬の量を減らす決断をする。
自転車を走らせながら、「必ず夜は明ける」ことを、自分はすでに知っていると思う山添だった。
感想
とても読みやすい本で、あっというまに読めてしまう。
人に理解されにくい病に苦しむ二人のそれぞれの感じ方や考え方が、会話文を多用して描かれている。
ドラマを観ているようなスピーディな進み方で、ノンストップで読んでも疲れない作品だ。
登場人物は全員善人で、優しい物語だからノンストレス。でも、美沙と山添の関係はどうなるのか?ちょっとドキドキすることもできて楽しい。
お互い頑張ろうという美沙に、PMSとパニック障害では辛さが違うと言った山添。美沙は「病気にもランクがあったんだね」というシーンがある。
人は誰でも本人にとっては重いやっかいごとを抱えている。だが、他人から見ればそれはたいして重くもない事だと思われる場合もある。
自分自身の辛さ、それを人からどう見られるか気にすることで感じる辛さ、その辛さにもランクがあると感じてしまう人間の身勝手さ。
この物語では理解されにくい病気が描かれているけれど、他人と自分を比べてしまう人間のジレンマってありますよね。
不幸自慢というのだろうか?自慢にもならないことだけど、私の方が不幸だからあなたは今の状況に満足しないとバチが当たるわよ的な発言をする人っておられますよね。そうよねって言いながら、なぜか申し訳なく思わないと責められそうで同意しておくけれど、違うよって言いたいときもあったりして。人間って、つい自分の方が……ってマウントとりたくなる動物なのかな?それとも、動物はマウントとろうとするものなのかな?
この物語は良い人ばかりで良かったけれど、現実なら栗田金属のような会社、なかなかないよね。
ほっこりする中に、人の心の複雑さも描かれている優しい物語でした。
