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郵便配達

夜間高校に通いながら郵便配達のアルバイトをしていた頃の話。その頃の私は失意のズンドコに居た。高校で出来た彼女に振られたのだ。

その子は兄のバイト先の女の子で、彼氏に振られて落ち込んでいるところを兄の紹介で私と引き合わされ、2~3か月のメールを通し、付き合うに至った。「付き合って下さい」この一言がメールで送られてきた時「ヒエーーーーー!!」と叫びながら校舎の中を走り回ったのを覚えている。

夜間高校に通う男子生徒には共通の憧れがある、普通の制服を着た女の子と付き合う事だ。

様々な事情で昼間の学校に通えず、闇夜の便所虫として過ごす我々にとって、制服を着た女の子達は「青春の輝き」そのものである。羨みと憧れが混じった複雑な眼差しでそんな彼女達を見つめていた。

一緒に下校したいという彼女に、駅前で時間を潰すようにお願いし、部活をサボって学校前のコンビニで待合せをしたことがある。ふと目線を感じて振り返ると、同じクラスの仲間達が、地獄の餓鬼畜生然とした怨嗟の眼差しでこちらを見つめていたのを覚えている。正直鼻が高かった。

だがそんな日々も終わりを告げる。バレンタインデー当日、チョコレートを渡されながら、突然別れを告げられたのだ。寝耳に水なんでもんじゃない寝耳にミミズだ。とりつく島もなく、私の恋は終わりを告げた。

そんなわけで失意のズンドコまで落ち込んだ私はバイト中も死んだように過ごしていた。その矢先に隣の課のバイトが辞めてしまい、丁度原付バイクの免許を取ったばかりだった私がそこへ移動することになった。

移動初日は先輩が配布物を持ち、対象区域を案内してくれる。
なれない集配区域を回るのは非常に神経を使い疲れることだ、早く終わんねーかな、などと思いながら一軒一軒ポストの場所を指さす先輩の後をついて回ると、なんだか見覚えのある区域にさしかかった。

「おや。」

声が出てしまう、ここ、ヤバい所じゃないか。ひょっとして。
勝手に速度を上げる心拍数に合わせ、手が震える。

「めっちゃ近寄ってきてんじゃん…」

口をへの字にして、誰に言うでもなく呟く。
そしてついにその時がやって来た。
先輩がぱしっと指さした先は、元彼女の家であった。

「まじかよ」

お先真っ暗である、そこそこ大きくポストに入り切らないものや、書留なんかは対面で渡す必要がある。そして向こうさんの家にはよく遊びに行っていたので、お母様やお父様や御兄弟とも面識がある、どんな顔をすればいいのか。

途中の飲み物休憩で先輩に打ち明けた。

「あそこ、元カノの家っす」

すると先輩は飲み物を吹き出して笑っていた。笑い事ではない。
そんなわけで、毎朝郵便物をマス目状の振り分け棚に振り分ける時、
頼むから大口来るな!たのむから書留来るな!と願い続ける日々が始まった。

そしてその日はやってきた。書留を届ける事になってしまったのだ。
意地でも対面受け渡しは避けたいところだが、もう仕方がない。

ヘルメットを深くかぶり、下を向いたまま震える手でインターホンを押す。
「ハーイ」と答えたのはお母様の声だった。「いるのかよ」と思いながら、可能な限り声を低くし「書留でーす」という。

玄関から出てきたお母様に「ここにサインお願いします」というと、お母様が「あれ?」とこちらを訝しむような目を向ける「スイマセン…」と反射的に誤ってしまった。

もうそこから先頭が真っ白になってしまった、帰り道、リミッターまで回転数をブチ上げ、芝刈り機の如く唸りを上げる50ccエンジンの音に紛れて「ホギャアアアアアアアア!!!!」と叫んだことだけは覚えている。


それではお聞き下さい、オトマで「失意のズンドコ節」

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