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志賀原発 電源喪失から1年たって~間違い探しクイズのような情報は何のため?

 2024年1月1日 16:10に発生した能登半島地震で志賀原発はどう被災したのか?16:10以降、国(原子力規制委員会)、石川県、志賀町、そして事業者である北陸電力志賀原発が、それぞれの責務を果たしたのか?まとまった情報がないため、自分で調べることにした。
原子力規制員会のホームページには、志賀原発からの報告文書の掲載はなく、直接電話で問い合わせたが、「報告文書については掲載していないし今後も掲載しない方針」だという。
石川県のホームページには志賀原発から石川県に届いた情報の一部が掲載されていたが、詳細を知ることはできなかった。そこで、原子力規制員会と石川県に公文書開示を行い、電源喪失に注目して分析した。

図1. 石川県のホームページ

1. 防災計画

 国は、災害対策基本法に基づき防災基本計画を作り、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)に基づき原子力災害対策指針を作成している。
 石川県は、石川県地域防災計画 原子力防災計画編(2023/5)を作成し、志賀町は、志賀町原子力災害避難計画(2017/11)と志賀町原子力防災ハンドブックを作成している。
 北陸電力志賀原子力発電所は、原災法に基づき志賀原子力発電所原子力事業者防災業務計画(2023/3)を作成している。
 

1-1.  防災体制と通報


 災害や事故が起きたとき、どのように通報するか具体的な基準については、原子力規制委員会の判断基準が示され、志賀原発原子力事業者防災業務計画で示されている。両者を詳細に検討すると、微妙に内容が異なっていて今回の複合災害での判断の検証を難しくしている。
 志賀原発において災害発生時あるいは原子力災害発生時には、原子力事業者防災業務計画に基づき原子力規制委員会および石川県と志賀町に通報が義務付けられている。
 業務計画によると、防災体制は「警戒体制」「防災体制(第1緊急体制)」「防災体制(第2緊急体制)」の3段階に分類されている。
警戒体制の判断は「別表-1に定める事象が発生した場合」とし、「様式7に定める連絡様式に記入し、原子力規制委員会へ送信し電話で連絡する。」と記載されている。何分以内という記載はない。
防災体制(第1緊急体制)の判断は「別表-2に定める事象のうち、発電所内に係る事象の発生について通報を受けた場合又は自ら発見した場合」とし、「15分以内を目途として、様式9に定める通報様式に必要事項を記入し、内閣総理大臣、原子力規制委員会、石川県知事、志賀町長、富山県知事、関係市町の長その他別図-3に定める通報先にファクシミリ装置を用いて一斉に送信する。さらに、着信を確認する」(10条通報)と記載されている。
防災体制(第2緊急体制)の判断は「別表3 原災法第15条第1項の原子力緊急事態発令の基準」として整理され、10条通報として様式9により報告することになっている。

図2. 緊急時活動レベル https://www.jaea.go.jp/04/shien/research/EP010.html

 緊急時活動レベル(EAL:emergency action level)基準整理表によると、警戒体制の区分はAL(警戒事態に該当する事象)、次の数字は0~6の事象分類、次の数値は連番を示すルールが決められている。さらに施設敷地緊急事態に該当する事象はSL、全面緊急事態に該当する事象はGEと表記されている。

図3. EALの記載例

2. 電源喪失

2-1 原子力規制員会

原子力規制員会の外部電源喪失についての判断基準は、沸騰型(志賀原発1号機・2号機)、加圧水型ともに同じ基準が定められている。
志賀原発の常用母線とは5系統の外部電源(2+2+1)から供給され、非常用母線はディーゼル発電機や高圧電源車、大容量電源車によって供給される母線を言う。
「警戒事態を判断するEAL」として、「電源供給機能の異常」があり「非常用交流母線が一となった場合において当該非常用交流母線に電気を供給する電源が一となる状態が15分間以上継続すること、全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止すること、又は外部電源喪失が3時間以上継続すること。」と記載されている。
さらに、解説では「非常用交流母線からの電気の供給が停止するという深刻な状態又はそのおそれがある状態であることから、警戒事態の判断基準とする。また、外部電源が喪失している状況が継続する場合についても、交流電源の喪失に至る可能性があることから、警戒事態の判断基準とする。全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止とは、全ての非常用交流母線が外部電源、非常用ディーゼル発電機及び重大事故等の防止に必要な電力の供給を行うための常設代替電源設備のいずれの電源からも受電ができていないことをいい、常用交流母線からのみ電気が供給される場合も本事象に該当する。」と記載されている。
次に、原災法第10条に基づく通報における第1緊急事態の判断基準としては、「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止し、かつ、その状態が30分間以上継続すること。」とし、解説では、「原子炉隔離時冷却系等の交流電源を必要としない設備によって原子炉は冷却されるが、事象の重大性に鑑み、施設敷地緊急事態の判断基準とする。なお、重大事故等の防止に必要な電力の供給を行うための非常用の発電機が30分以内に接続され、非常用交流母線からの電気の供給が行われるのであれば、施設敷地緊急事態の判断基準とはならない。」と記載されている。

図4. 常用母線、非常用母線が記載された図

2-2 志賀原発防災業務計画

 電源喪失については、「AL25 非常用交流高圧母線喪失又は喪失のおそれ」と書かれ、「連絡すべき事象」としては、原子力規制委員会が示した「指針1 警戒事態を判断するEAL⑤」を上げ、「非常用交流母線が1となった場合において当該非常用交流母線に電気を供給する電源が1となる状態が15 分間以上継続した場合、全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止した場合、又は外部電源喪失が3時間以上継続した場合。」と記載されている。

2-3 規制員会と志賀原発業務計画の違い

原子力規制委員会では「一」と記載され、業務計画では「1」、原子力規制委員会では「こと」で、業務計画では「場合」と変化している。
原子力規制員会では「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止とは、全ての非常用交流母線が外部電源、非常用ディーゼル発電機及び重大事故等の防止に必要な電力の供給を行うための常設代替電源設備のいずれの電源からも受電ができていないことをいい、常用交流母線からのみ電気が供給される場合も本事象に該当する。」となっている。
業務計画では、「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止とは、全ての非常用交流母線が外部電源及び非常用ディーゼル発電機からの受電に失敗し、かつ、常設代替交流電源設備から受電ができていない場合をいう。」と記載されている。
このように、業務計画では「受電に失敗し、かつ、常設代替交流電源設備から受電ができていない場合をいう。」と、接続して失敗した時だけが該当し、接続しないで受電していない時は該当しない基準と言い訳けしているようだ。
規制委員会が「これはまずい」と気づいたかどうかはわからないが、発災当時の業務計画は、3月29日に修正された。
修正された業務計画では「全ての非常用交流母線からの電気の供給が停止とは、全ての非常用交流母線が外部電源及び非常用ディーゼル発電機及び重大事故等の防止に必要な電力供給を行うための常設代替交流電源設備のいずれの電源からも受電ができていない場合をいう。」と修正され、「受電に失敗」が削除されている。

2-4 北陸電力が発表した単線結線図

 北陸電力は、単線結線図として3種類の図と1つの電源系統概略図を公表している。公表された図は、毎回どこか違っていて認知症予防の間違い探しクイズに採用できる代物だ。
 1月1日の夜、規制委員会のプレスリリース第2報(19:00現在)で提供されたのが、手書きの図だった。なぜ、手書きだったのか?なぜ間違ったのかはいまだに説明はない。

図5. 1月1日 19:00に発表された手書きの図

 次に公開されたのが、北陸電力が1月3日にプレスリリースし、規制員会が1月10日に添付資料2として公開した図がある。

図6. 1月3日に発表した単線結線図

 図5と図6の2つの図で、間違いはどこにあるだろうか? 答えは、非常用母線の名称に注目してほしい。業務計画書を読んでも非常用母線は、C,D,Hが正しく、手書きのC,B,Hではない。手書きでは、DをBと誤記してしまった。気づいて訂正すれば、小さなミスで済むが、ミスに気付いていないと現場でも、Dの母線をBの母線と間違えたかもしれない。本物の図面がどうなっているのか、間違いやすくなっていないか心配してしまう。
 さらに、原発にもオフサイトセンターに図面が用意されていなかったのかもしれない。もし、常備しておく図が存在していなかったとすれば、防災対策自体の見直しが必要だ。
 
 To err is human 「人はだれでも間違える」 この一言で、医療界は医療事故に対する対応が大きく変化した。「間違いがあってはいけない・間違わない」という神話から「人はだれでも間違える」という現実からスタートすることができた。原子力規制員会も原発事業者も行政も、福島事故が起こった今でも「安全神話」から抜け出せていないのか?
 日常的に起こる間違い、緊急時におこる間違いに真正面から向き合い、間違っても、重大な結果にならないように日々努力することが重要だ。
 
 さらに、続いて規制委員会が2月7日に公開したのが、規制委員会と面談時に提出した単線結線図だ。

図7. ディーゼル発電機故障時の説明図

 1号機の常用母線6.9kv M/C-1Aへの電力の供給を見てほしい。図6では6.9kv非常用母線 M/C-1Cとつながり、その線と非常用母線M/C-1Hが接続されているが、図7では、非常用母線M/C-1Hは直接常用母線M/C-1Aと接続している。
 間違い探しではないが、非常用母線M/C-1Hは、常用母線M/C-1Aも1Bもバックアップするのかと思いきや、常用母線M/C-1Aだけのバックアップになっている。これでいいのだろうか?
 さらに、規制員会が1月24日に公開した添付資料1の図8も見てほしい。図8では、1号機の非常用母線に接続している3台のディーゼル発電機がすべて常用母線1Aと1Bにつながっていることになっている。さらに故障したディーゼル発電機はDH-1Hで最も左にあるが、この図では右にバツがありDH-1Aが故障しているように表現されている。
私は、原発や電気についてはド素人なので、頓珍漢な指摘になっているかもしれないが、これだけわかりにくい図を公表する理由はどこにあるのか?間違い探しクイズの原稿を作っている人なのかもしれない。

図8. 1月24日公表の概略図

2-5 電源喪失

 電源はどのように喪失し、どのように回復していたのだろうか?北陸電力も規制委員会も全く情報を公表していない。
 プレスリリースを時系列で追ってみる。2号機の志賀中能登線500kvは、事故と同時に自動で志賀原子力線275kvに切り替わった。一方、1号機の電源については、ほとんど発表されていない。
<1号機>
16:10 起動変圧器 警報
17:00 官房長官記者会見 火災発生
17:42 起動変圧器 現場制御盤にて「放圧装置動作」「ガス検出」の警報及び絶縁油の漏えいを確認。
17:48 絶縁油の沸えいについて公設消防へ119番通報。
18:47 噴霧消火設備を手動起動(出火を確認していないが、念のため起動したもの)。
18:49 起動変圧器の油漏れのため、275kV から66kV に切替え準備中
18:52 噴霧消火設備を手動停止。
19:13 外部電源を275kVから66kVへ手動で切替。
 つまり16:10~19:13までの3時間3分間は、外部電源は喪失していた。
19:23 起動変圧器の故障により予備電源変圧器への切り替え
19:24  66KVに切り替え完了で受電中
 
 これ以降の発表はない。3時間3分間にわたる外部電源喪失の間に、ディーゼル発電が動いた、動かしたとの記述は一切出てこない。
 その後の情報開示で公開された資料によると、1月1日18:20現在、1号機の外部電源の有無は有にまる(接続されていなくても有なのか)、ディーゼル発電機は停止中とERCに報告されていた。外部電源喪失時には、ディーゼル発電機が自動で動くのではないのか、安全のために自動で動かないとしたら非常用母線も喪失していたことになる。当然、火災と停電で大混乱のなか、敷地内道路の隆起等の被害が出ている中で電源車を接続したとは考えられない。
 さらに、このプラント状態確認シートには、SFP冷却の有無については有、SFPスロッシングの有無は有に〇がついているが鉛筆でバツが記され無しに薄い〇がついている。
 18:20時点におけるその後の整理では、外部電源はなし、使用済み燃料の冷却プールの冷却が止まり冷却水のスロッシング(プール内での波打ち現象とその結果としての溢水・こぼれ)ありと発表されている。データを改ざんしようとしたのではないか?

図9. 開示請求で出てきた1号機プラント状態確認シート(1月1日18:20現在)

 1月1日20:00の北陸電力の記者会見第1報では、
「地震に伴い、(1号機)原子炉建屋4階において、使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止した。」「18:20 1号機原子炉建屋4階において、燃料プールのスロッシングについて、現在は水位が維持されており、冷却に異常なし。」と報告した。
 1月4日の北陸電力報告(北陸電力第2報:1月2日 11:00)によると、「使用済燃料貯蔵プール水の床面への飛散が発生した。それに伴い、一時的に燃料プール冷却浄化系ポンプが停止したが、1月1日16時49分に再起動した。なお、飛散したプール水のふき取りは完了している。・飛散した量:約95 リットル、・放射能量 :約17,100 Bq、・放射能量が3.7×106 Bq 未満のため実用炉則第134 条第10 号に非該当」と記載した。
1月9日の報告では、「・使用済燃料貯蔵プールの波打ち現象(スロッシング)を確認。・飛散した量は約95 リットル(プール水位低下量は0.8mm 相当)、放射能量は約17,100Bq、外部への放射能の影響はなし⇒プール水位はほとんど変化しておらず、使用済燃料の冷却等の原子力安全の確保に影響はない。」と記載した。 

2-6 ディーゼル発電機のトラブル

 そのうえ、1月16日の震度5弱の地震発生時にDH-1Hのディーゼル発電機を試運転して停止するというトラブルが起きた。
 その後、1月24日に規制員会が公表した図には、「非常用ディーゼル発電機(3台)のうち2台は本日試運転を実施し健全性を確認済」と報告している。それまでは、使っていないし、健全かどうかも確認していなかったことになる。

2-7 10条通報

 警戒体制発令中の3時間3分の外部電源喪失、常設代替交流電源設備を接続していないとすれば、AL25に該当し報告するべきであった。さらに、原災法第10条第1項に基づく通報基準(第1緊急体制発令基準)のSE25にも該当し、10条通報も必要だった。
 しかし、原子力規制委員会には、警戒態勢発令(志賀町で震度6弱以上の地震発生、大津波警報発表)は連絡したが、その後の経過報告(様式8)、さらには10条通報(様式9)、その後の報告(様式10)については、石川県にも規制委員会にも行われなかった。
 これらの報告ができなかった背景を分析する必要がある。報告しようとしてもできなかったのか、隠そうという意思が働いたのか、それぞれの組織で分析が必要だ。
 そのヒントは、16:19に内閣府に設置された「事故合同警戒本部」が20:30に大津波警報から津波警報に切り替わって20:50には本部が解散されていることと関係しているようだ。

3. 警戒事態の解消

 1月1日、20:30に「大津波警報が解除されたことを受けて志賀原子力発電所に係る原子力規制委員会・内閣府事故合同警戒本部が廃止」された。原発では、混乱が続き情報を警戒本部にも送ることができない段階で、警戒本部が廃止されたことについても検証する。
 「警戒事態解消の判断」の目安は、「施設・設備に異常が生じた場合、必要な対策が講じられ、異常が生じた機能の復旧又はその機能を必要としない状態となり、その状態を維持できること。」とされ、具体的には「原子力災害の発生を未然に防止するために必要な対策として、①運転の停止、②異常が生じた施設・設備の機能復旧、又は、③代替設備による異常が生じた施設・設備の機能復旧が完了し、その結果、施設は安定した状態(原子炉が停止した状態や核燃料物質の閉じ込め機能が維持された状態など原子力災害に至るおそれがない状態)を維持することができること。」と記載されている。
 さらに、判断するための手続きとして、「① 原子力事業者から、解消の判断の目安を満足していることの説明を受ける。② 原子力検査官が、必要に応じて現場確認を行い、解消の判断の目安を満足していることを確認する。③ 原子力事業者と事故警戒本部の双方が認識を共有した後、警戒事態の解消を判断する。また、関係省庁、関係地方公共団体及び原子力事業者等に対する情報提供並びに一般への公表を行う。」とされている。
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(参考4)警戒事態の解消に係る判断の目安及び手続き
○警戒事態の解消に係る判断の目安
(判断の目安)
施設・設備に異常が生じた場合、必要な対策が講じられ、異常が生じた機能の復旧又はその機能を必要としない状態となり、その状態を維持できること。
(目安の具体例)
原子力災害の発生を未然に防止するために必要な対策として、①運転の停止、②異常が生じた施設・設備の機能復旧、又は、③代替設備による異常が生じた施設・設備の機能復旧が完了し、その結果、施設は安定した状態(原子炉が停止した状態や核燃料物質の閉じ込め機能が維持された状態など原子力災害に至るおそれがない状態)を維持することができること。
○警戒事態の解消に係る判断の手続き
① 原子力事業者から、解消の判断の目安を満足していることの説明を受ける。
② 原子力検査官が、必要に応じて現場確認を行い、解消の判断の目安を満足していることを確認する。
③ 原子力事業者と事故警戒本部の双方が認識を共有した後、警戒事態の解消を判断する。また、関係省庁、関係地方公共団体及び原子力事業者等に対する情報提供並びに一般への公表を行う。

4. まとめ

 志賀原発の警戒事態が解消されていないにもかかわらず、原発の状況が把握されていないにもかかわらず、事故合同警戒本部が廃止されたことは法律違反も疑われる重大な問題だ。
 1年たっても情報が公開されず、あいまいに終わらせたいと考えている人がいれば、思い直してほしい。「人はだれでも間違える」を思い出し、次に迫っている複合災害に備えてほしい。日本の原子力安全システムにかかわっている人々の良心に期待したい。