父とバスを待ちながら|シロクマ文芸部
バス停で、しばしのあいだ父と話をする。
ー 今日もすまないね、遠いところ。
父は毎度同じことを言う。
ー パパは耳が聞こえないだろ、だからさ、工事の業者さんの言うことがわからなくてさ。だから助かるよ、パパひとりだと騙されてるんじゃないかと思っちゃうから。
桜の花びらがふわりと飛んでいる。
夕陽にさらされて一瞬輝き、すぐに影に沈んだ。
ー え?なんだって?
父の耳元でもう一度はっきり話す。
「きょうの人は、ちゃんと、質問にも、答えてくれたね」
昔は見上げていたのにすっかり縮んでしまった。いまでは視線の高さがほとんど変わらない。
ー ああ、そうだね、今日の人はね。でもシロアリの時の人はひどかったんだよ。家の下に潜り込んで写真見せられてもさ、こっちは本当かどうか確認できないだろ?結局〇〇万円も取られて、しかも●協があいだに入って手数料がうんぬんかんぬん…
西原理恵子さんが『毎日かあさん』で、子どもがぶつぶつ文句を言う声が波音のようだと描いていた(子どもと砂浜で遊んでいるイラストだった)。
じゃあ父のぶつぶつ文句はなんだろう?
時々しか車が通らない、高度成長期につくられた住宅地の一本道。
聞こえるのは寂しげな「ヒーヨヒーヨ」というヒヨドリの声や、造成時に古墳が見つかった大きな公園からのザワザワいう梢や葉っぱの音くらいだ。
春の風が強く吹いた。
ー え?風があるとダメなんだよ、補聴器がザーザーしちゃって
何も言ってましぇん。
クリーム色とオレンジの車体が近づいてきて私はバスに乗り込む。
ー じゃ、気をつけて。〇〇〇くん(夫)によろしく。
バスの中から父に手を振り返した。
そういえば、もうすぐ父の誕生日だ。
シロクマ文芸部の企画に参加します。
よろしくお願いします。
サムネ画像は そのべゆういち様 にお借りしました。
それではごきげんよう!!
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