【読了】 #108 『ぼくら雨をきってきらきらはしる』
『ぼくら雨をきってきらきらはしる』
著:川成 灯
文学フリマでこの本を見つけた時、まずタイトルにやられた。
『ぼくら雨をきってきらきらはしる』。
かわいい。
でも、ちょっとさみしい。
まるで、青春の帰り道みたいなタイトルだと思った。
読んでみると、この本には特別大きな事件はあまり起きない。
誰かが世界を変えるわけでも、人生が劇的に好転するわけでもない。
でも、その代わりに“生活”があった。
喫茶店。仕事終わり。
別れ。ケーキ。
モーニングルーティン。うまく眠れない夜。
そういう、人生の本筋じゃない時間たち。
でも実際、人ってそういう時間でできているんだと思う。
川成灯さんの文章って、不思議。
難しい言葉はほとんど使わない。
なのに、不意に胸の奥へ入ってくる。
「うわ、好きだ」
って、頭より先に身体が反応する文章。
しかもそれが、あまりにも自然に置かれている。
“感情の置き方”がうまい。ちょっと嫉妬する。
個人的に好きだったのは、この本が「別れ」を特別なものとして描きすぎないところ。
人との別れって、本当はもっと生活の中にある。
気づけば会わなくなった人。
なんとなく終わった関係。
ちゃんと好きだったはずなのに、思い出す頻度だけ減っていく人。
この本には、そういう“静かな別れ”がたくさんあった。
だから読んでいて、ずっと少しだけ胸がひりひりする。
あと、この本、食べ物の描写がめちゃくちゃ良い。
いちごタルト。
コーヒー。
フルーツ大福。
ただ「美味しそう」なだけじゃなくて、その時の空気ごと味がする。
生活を書くのが上手い人って、たぶん“食べた記憶”を書くのが上手い。
タイトルにもなっている「ぼくら雨をきってきらきらはしる」という言葉。
読了後、このタイトルの意味をずっと考えていた。
たぶん、“きらきら”って楽しいことだけじゃない。
むしろ、
「傷ついたこと」「うまくいかなかったこと」「忘れられないこと」
そういうものを抱えたまま、それでも走ってしまうことなのかもしれない。
雨の中を走るみたいに。
濡れるし、視界は悪いし、ちょっと寒い。
でも、その瞬間だけ妙に生きている感じがする。
この本を読んで、自分も日記を書きたくなった。
実はすでに日記を書いているのだが、「何が起こったか」ではなく「どう思ったか」を中心に書きたいなと思えた。
ちゃんとした出来事じゃなくていい。
今日ちょっと傷ついたこと。
変な夢を見たこと。
誰かの一言が、ずっと残っていること。
そういう、“まだ名前になっていない感情”を残したくなった。
文学フリマって、こういう本に出会えるから好き。参戦して良かった。
まだ誰にも見つかりきっていない熱量。
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